インディー(31)




「そこのマスターが、すんごくおもしろい人なんだよ」


「元宝石商らしいんだけど・・。美食家というか悪食家というか、なんでも食べる人なんだよ」


「でね、そこに毎日のように通っている常連さんがいてね、謎のオジサンオボッチャマなんだけど、バレエフリークで、昨日はロンドン、明日は東京とバレエ公演を見るためだけに世界を渡り歩いているんだ」


電話でナオミを口説く。


「でね、バレエ評論とかやってるのかと思ったら、別にそういう活動はやってないみたいなんだよね!」


「今度、一緒に行かない?オレのおごり!」


「うーん、ヒロトと一緒でも良かったら、行ってみたいです」


「OK!ただし、ヒロトと割勘だね!」

天使の泡は、BONOのやっさんに紹介してもらったお店。


シャンペンとブルゴーニュしか置いておらず、しかもブルは、目玉が飛び出るほど高価なものばかり。


天使の泡のマスターはやっさんが、昔、神戸で彫金師の修行をしていたころからの友人。


宝石商上がりは、客の虚栄心を刺激して売り上げを伸ばすのがうまい。

ワイン好きが高じてソムリエになったような連中より、こうした宝石商あがりのイカサマソムリエたちの方が、はるかに売り上げを稼ぐ能力がたけているのは、どうしようもない事実。

やっさんについては、いずれ別の小説
やっさんのこと
で、詳細に語って行きたいと思っている。

ぼくをワインの森に引きずり込んでくれた恩人であり、どうしようもない悪友でもある。

(つづく)



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