インディー(47)




喫茶ルーンにて

約束の時刻は、午後4時だったが、気の早い私は、1時間前から準備を始めていた。


気合いが入って入れ込んでいるのには、訳があった。


高校以来、ずっと休んでいたギターを再開して数ヶ月、ついに人の前で、その腕前を披露する時が来たのだ。


曲は、クラプトンのCHANGE THE WORLD

これ一曲だけ


もちろん、歌つき

弾き語り

一人でギターと酒を一緒にルーンまで運び込むのは、なかなか汗の出る作業だった。


「おやまあ、今日は荷物が一杯で」


「すまん、この酒、赤以外は全部、冷蔵庫に入れて冷やしておいて!最初に開けるのはコレやから一番冷えるとこに置いてちょうだい」


「ハイハイ」


「それと・・」

「事前にゆうてなかって悪かったけど、今日、ここで一曲やらせてほしいねん」

「だれが、ギター弾きはるんですか?」

「オレや、オレ」


「エエッ!」

こんなに驚くママを見るのは、久方ぶりだった。

「まあ、しょうがおへん。けど、他のお客さんがいてはらへんときにお願いしますね」


「わかった」


「そやけど、オカチャンがギター弾いて歌うたったら、せっかくのお酒が・・」


「それ以上、言うな。こう見えても、学生時代は、混声合唱団でバリトンやってたんやで」

「エエッ!」
とまた、白目を剥いて驚くママ。
「そんなん、初耳どすわ」

「そうやろ、そうやろ、能あるタカは爪隠す」
「オカチャンはタカやったんどすかー」


「オイオイ、いつからオレはオカチャンになったんや。ママにオカチャンなんて呼ばれた記憶ないけど・・」

「そやかて、ナオミさん、最近、毎日のようにエワズに来ては、オカチャン、オカチャンゆうて、オカチャンの話ばっかりしてはりますから」


「オレも惚れられたもんや」


「自惚れもほどほどに・・、ホホホホッ」


(また、ホホホ笑いが始まった。話題を変えなイカン)


「ところで、今日は花曇りでちょうどええ花見日和になったなあ」


「ほんまどすなあ」


「もうはや、散りかけてるけどなあ」


「そうや、桜の花びら集めて来て、酒に浮かべて飲もか!」

「ママ、小さいコップちょうだい。花びらを集めて来るわ」


「どうぞ、どうぞ」


木屋町通りには、花見客、観光客があふれ、みんな浮かれた様子で写真を撮り合ったり、はしゃいだりしていた。

満開の桜は、人の心を浮かれさせる不思議なパワーを持っている。


(つづく)



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