インディー(133)



「おもう、おもう」
と、まだ寝起きの低い声でユキ。

「それじゃ、タクシーの中で打ち合わせしよう」

すぐにチェックを済ませて、通りに出てタクシーを拾った。
京都という街はタクシーを拾うのに全く苦労しないから便利だ。

「しかし、そのカッコ目立つなあ。みんなの視線が刺さって来るよ」

「ダショ、ダショ?」

「オレが地味だから余計に目立つ」

「ンダ、ンダ」

うるさいカフェから解放されて、ユキの機嫌は快方に向かっていた。

「あした、雨になるからさ、今日のうちに主なとこだけ回りたいと思うんだけどいい?」

「いいよ。あしたは、仕事休みだし、あたしは付いて行くだけだし」

「それじゃ、ベータステーションの後は、802に行って、最後は神戸のLOVE FMといこう」

「LOVE FMの藤沢常務とは、付き合いあるから、後で電話してみるね」

「あんた、なんにもコネないと思ってたけど、あるんじゃん!なんで早く言わないの」

「そんな太いパイプじゃないし。自慢するのは嫌いだから」

「あんたのそういうとこって魅力だけどさ、あたしを売って行くためには、マイナスなんじゃない?」

「おっしゃる通りでございます」

ことば使いとは裏腹に、内心カチンと来ていた。

自分では、全く営業できないくせに、痛いところだけは突いて来る。

「あっ、これね、今日のために作った名刺」
と言ってユキに作り立ての名刺を差し出す。

「ピンクピンクしてるじゃん!」
と言ってお気に入りの様子。

「ユキが持っておく?」

「うん、そうする」

タクシーは、もうベータステーションの近くまで来ていた。


(つづく)



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