インディー(134)



「あのぉ、制作部の方にお会いしたいんですけど」

と極めて丁重に下手に出る。

「制作部のだれですか?」
とおじさん。

「特にアポは、取ってないんです。本日出社しておられる方で結構なんですが」

「どう言ったご用件でしょうか?」
とおじさん。

「京都のインディーズ新人ユキのプロモーションでまいりました」

「わかりました」
と言っておじさんは中に消えた。

「やっぱし、アポ取って置くべきだったかな?」
と私。

「あたりまえじゃん!」
とユキ。

「でも、だれにコンタクト取っていいのかわからんかったし」

「まあ、CDの売り込みとかじゃないんだから、いいんじゃないの。あたしも、局の人とかに会うのは初めてだし」

と少しなげやりななぐさめ。


現れたのは、いかにも業界人してますと言った風情の男前じゃないけど、オシャレなおにいさんだった。


「はじめましてー」
とユキが慣れない手つきで名刺を差し出した。

「ま、おかけください」
とおにいさん。

なんだか暇してたのか、話を聞いてくれそうな雰囲気。

ユキのデモテープと作りたてのフリペを渡して、あれやこれやと説明をした。

別にあせっているわけでもないのだが、額から汗がにじみ出て来る。

何年か前に仕事で営業活動に携わったことはあったが、全く勘が戻って来ない。

相手にどれくらい伝わっているのか、全く把握できない状態だった。


おにいさんは
「それでは、ユキさんのデモテーフ゜、聴かせていただきますね」

と言うことばで締めくくった。


あいさつをしてベータステーションを後にした。

河原町に向かうタクシーの中で

「あたしも営業あかんけど、あんたも大してかわらへんわ」

とユキ。
半ばあきれたような顔。

「他でマネージャー当たろうかなあ」
と真顔で言う。

「そんなこと言うなよ。俺がどんな気持ちで、足抜けに600万払ったか、わかってくれよ」
と私。

「恩に着せんでもわかってる。あんたのまっすぐなとこ好きやで。けどなあ」

「けどなんや」

「あたしかて、自分の将来がかかってるんやから、営業のうまい人と組みたいって思うやん」

「すまん。これから、だんだん慣れて来たら、もうちょっとうまいこと話せるようになると思うから・」


「そやけど、営業て、神経使って疲れるなあ」


(つづく)



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