インディー(137)



802に電話をしてみる。

ユキは、となりでしゃがみ込んで、タバコを吹かしていた。

窓口の人の話が要領を得なかったので、場所を把握するのに2、3分かかった。

ユキを促して歩き始める。


突然、ユキがトイレに行きたいと言い始めた。

「ちょっと待って。すぐそこだから」

「がまん、でけへんー」

子供みたいなヤツ。

でも、かわいいヤツ。


やはり、ナオミと比べてしまう。

別に悪いことをしているという気はなかった。

いずれ、修羅場に遭遇する?

いや、ユキは必ずしも私に執着していない。

それが、救いのようなもの。


「そこのビルだ」

と言うのと同時にユキは小走りにビルに駆け込んだ。

待たされること数分。

「ごめん。メイクやり直してた」

ユキが、ごめんなんて言うのは珍しい。


エレベーターで受付のあるフロアへ。


首にIDカードをぶら下げたスタッフらしい白人のオジサンなどが、あわただしく廊下を歩き回っていた。

正面に背の高い受付嬢。

あいさつをして制作部の人と会いたいと話す。

「アポイントメントを取っている者はおりますか?」
と極めて事務的。


「いや、いないんですけど」

「それでは、資料だけいただいて置きます」

そう言われたら、仕方なかった。
こちらの準備不足だ。


ユキのデモテープ、名刺とフリーペーパーだけを渡して、そそくさと引き上げた。


いっぺんに疲れが出た。

「喫茶店で一服しようか?」

「うん」


喫茶の椅子に座り込んで
「それにしても冷たかったな」

「仕方ないよ。アポなしなんだから」

「802は、やっぱり敷居高いなぁ」

「だって関西じゃ、一番の局だしょ?」

「そうだね。だから、オレたちみたいなやつらが、たくさん売り込みに来るんだな」

「ダショ」

「オレにもタバコくれよ」

「メズラスィ!あたしと一緒にいたときは、絶対吸わないなんて言ってたのに」

「こんなときは、吸ってみたくなる」

「ハハハッ」
とユキの力の抜けた笑い。


「うん。そんなにまずくないよ」

「そう?」

「焼き芋みたいな味がする」

「そんな味しないよー」

「オレの舌は敏感なんだ」

「敏感なのはいいけどさ。そのぎこちない持ち方、なんとかなんないの。ほら、灰がこぼれてる」

「ウッセー!」

(つづく)


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