インディー(142)


とようやくユキが打ち解けた雰囲気で話し始めた。

「ちょっとだけですよ」
ともったいぶるやっさん。

「さっき、私たちもLOVE FMに行って来たんですよ」


「どうでした?」

「むちゃ、ファンキーな局やった」

「今日はね、ベータステーションと802とLOVE FMの3局をハシゴして来たんよ」

「それは、お疲れ様でした」

「そうや、ユキ、忘れんうちにやっさんにもデモテープ渡しとき」


突然、やっさんが
「いらっしゃいませ!」


藤沢常務と放送作家の伊原氏のオデマシ。


「やぁ!」
といつもの通り大物ぶった挨拶。

伊原氏は、いつものように腰巾着よろしく半歩下がって控えている。

「おひさしぶりです。こちら、新人ミュージシャンのユキです」
と二人とも立って緊張ぎみの挨拶。

「はじめまして」

「はじめまして」

とごく普通の名刺交換。

普通じゃないのは、ユキのピンクピンクファッション。


「テーブルの方がいいですよね」
とやっさん。

「そうしましょう」
と私。

「ワインは、何にいたしましょうか?」

「シャルドネのやさしいのがあれば」
と私。

「それでは、北イタリアのLa Visにしましょうか?」

「うん、それでいいよ」

「パスタはツナの冷製パスタでよろしいですか?」

「うん、いいよ」
と藤沢常務。

「あと、サラミのピッツァ」
と伊原氏。(こいつは良く食うんだよな。まだ、600万の損失から立ち直っていないのに、大食漢の接待は痛い。ふと、くまのぷーさんのバイトの面接のことが頭をよぎる)

「あたしも、ピザ食べたい」
とユキ。

「なんのピザにする?」

「生ハムがいい」


「それじゃ、生ハムのピザとついでに生ハム盛り合わせを適当に!」

「かしこまりました」

とやっさん。


「ここの生ハムはねえ、やっさんの手作りなんやで」
とユキに自慢する。

生ハム作りの大変さなど、ユキにはわからないから、ふうんって感じ。

やっさんは、毎年冬になるとブタの骨付きモモ肉を一本だけ買って、生ハムを作っていた。


「ユキ、デモテープを藤沢常務と伊原さんにお渡しして」
と私。


「どう言ったタイプですか?」
と伊原氏。

「ファンキーなポップスですね」
と私。

「何か決め技は?」

「決め技?」

「これはユキにしかないってものです」

「うーん」
と二人とも考え込んでしまった。

(つづく)



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