インディー(152)




「あしたからバイトに出ることになったから」

「どんなとこ?」

「木屋町の洋食屋」

「なんていう店?」

「くまのぷーさん」

「ハハハッ!おかしな名前。帰りは何時ごろになる?」

「たぶん12時過ぎると思う」

「それじゃ、あたしもそれに合わせるね。晩御飯用意して待ってるから」

「うん・」


まかないがあるからいいよとは、言えなかった。

ここのところ、ナオミは急速に「ヨメサン」の気配を濃厚に身にまといつつあった。

すっかり巣作りにいそしんでいる雰囲気。

そのうち、子供が欲しいとか言い出したらどうしよう?と思っていた。

ヒロトも、ナオミのこんなところに恐れをなしたのだろうか?と、ふと思った。


「ところでヒロトはどうしてる?」

「なんで?」

「最近、ルーンに入りびたりらしいよ」

「知ってる」

「知ってたか・」

「しばらくルーンには行けないわ」

「そうだね」

「そっちのバイトはどう?」

「オーナーがうるさくって」

「どんな風に?」

「今日、レコード針を一つ壊しちゃったんだけど、くどくどとうるさいの」

「ふうん」

「長続きしないかも知れない」

「合わなければ、やめればいいんだよ。だいたい金持ちほどケチだからね」

「そうねえ」


「ところで夏休みはいつからだっけ?」

「来週からだよ。でも補習授業とかあるから」

「それが終わるのは?」

「15日くらい」

「終わったら、海に行こうよ!」

「行く行く!」

「若狭の方でいいだろ?」

「いいよ」

「ねぇ・」

「なに?」

「トモコも呼んでいい?」

「エ゛ーッ!あいつが来たらムード変わってしまうじゃん!」

「そんなこと言わないでよー。トモコの彼氏が、ワゴン車持ってるから、それで行こうよ!」

「エ゛ーッ!あいつ彼氏いるの?」

「それがいるんだよね」

「世の中、わからないことだらけだ」

「ほんと、わからないことだらけ。ハハハッ!」


「それじゃ、行く場所とかは、そっちで決めてよ」

「わかった。今からトモコに電話するね!」


また、長電話やぁと思ったが、黙っておいた。

ナオミがトモコと話している間に、私は、ナオミが買って来た食材で、せっせと冷やしうどんの制作に取りかかった。


(つづく)



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