「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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きいてこいや!!がははは!!」
オレはフランスに命令されたら、どんな対応をしたらいいのか未だ判らない。
「なんでいつもオレやねん」 関西風ツッコミのスキルはない。
「おまえがいけ」 逆ギレしても「アホか!お前がいけ」と返されて、そんなやり取りを繰り
返しても、結局はオレが折れなければ治まらない。
フランスに命令されるのは理不尽だが、オレがその命令に従うことが、今の時点での最善
で最短の解決策だから仕方がない。オレは交番へ向かった。
嵐山交番は、フロントが全面ガラス張りになっていた。警察官が2人、座っていた。
警察官は、おまわりさん的な弛緩したたたずまいではなく、どちらかというと、テロや凶悪
犯罪に立ち向かうための訓練を積んだようなオーラを発していた。水色の制服が膨れ上
がっていたが、それは脂肪や筋肉によるものではなく、おそらく中に着ているのは防護服
で、武装によるための膨れだと思った。
公衆便所のようなスペースに建てられたガラス張りのポリボックスにオレが対面した瞬間、
武装警官は腰に手をあてて身構えた気がした。そこでオレは、全てをあきらめた。吉本の
店の所在を、この武装警官には聞けないと思った。オレは、撤退した。
「怖くて聞けない。」
そんな意味の言葉でオレはフランスたちに、あの武装警官のたたずまいを伝えた。
「なんや怖いことあるかいな、おまえホンマ口だけやな、中村スレに書いたったるわ、
『馬鹿不思議は警察怖くて道きけませんでした!!』てな!!がははははは!!」
フランスは大喜びした。スーパーマリオことアイム関西は、オレの言動を確かめるべく
ポリボックスに向かっていってガラス張りのショーウィンドウをのぞいてそして戻ってきた。
オレが、「な?こわかったろ?」というとマリオは「いや?全然?」といって鼻息を荒くした。
怖くないのならそのままポリボックスへ入っていって、吉本のありかを聞いてくればいい
のにとも思ったが、オレはというと、武装警官に関与することも、顔を認識されることも
拒絶していたから、強気にはなれなかったのだった。
「しゃあないな、ほならきいてくるがな」 フランスが風を切って歩き出した。
オレはうつむいてしまい、フランスがポリボックスへ入るシーンを、見逃してしまった。
フランスとスーパーマリオがポリボックスに入っている間オレは、2人がどれほどフラスト
レーションを抱いたか想像がついた。警察官の顔色をうかがいながら、顔色をうかがって
いることをさとられないような表情をつくろっている。警察官は堂々としている。何しに入っ
て来たんだ?というような怪訝な表情だ。フランスたちは道を聞きに来ただけだ。ポリボッ
クスの警察官は尋ねられた道を答えるのも仕事だ。しかし警察官は武装している。怪訝
な表情をしている。おまえらは誰だ。1人は若い警察官だ。もう一人は少し年長だ。2人
とも、武装して座っている。無表情だ。フランスは、道を聞くのをためらおうとしたが、引き
返すわけにはいかなかった。彼の誇りだけが今、自身を支えている。警察官は聞かれた
ことに答えるべきだ。警察官は聞かれたことに答えるべきだ。おれは市民だ。道を聞いて
なにが悪い。負けたくない負けたくない負けたくない負けたくない負けるわけにはいかない。
あの、このへんに吉本の店あったんとちゃいましたっけ?ちゃいましたっけ?へりくだって
いる。2人の警察官は顔を見合わせる。しばらく空間を沈黙が支配する。警察官はやっと
口を開いた。昔はあったけどね、今はみないね。警察官はフレンドリーな口調だ。おれは
敬語を使ったのに警察官はおれを見下したような立場からのものをいっている。ここでの
関係は警察官が上でおれが下なのか。いや、今はそんなことを考えるのはよそう、どうで
もいい。そうだどうでもいい。警察官は話しつづけている。警察官はていねいに観光スポッ
トを説明しているが、朝礼のときに校庭で校長先生が話すときに乗る台の上から命令す
るような気持ちになっていて目が少し潤んでいる。おれは適当に相槌をうっているが、媚
びるような声のトーンだ。体制側にすりよっている。違う、オレはロックンローラーだ。ぶち
壊せ、犯せ、媚びるな、埋め尽くせ、突き上げろ、つきやぶれ。
フランスがフラストレーションを溜め込んでる間オレは萎えやカラコに嵐山警察官に関す
るスリルを伝えたが信じてもらえず萎えとカラコは自分の足でポリボックスへ向かったが
一瞬覗き込んだ2人はすぐに表情をなくし顔色を曇らせた。オレが嬉しそうに、な、怖かっ
たろ?というと2人ともオレの目を見ずにうつむいたまま、うん、なんか睨まれた、といった。
やがてフランスとスーパーマリオがポリボックスから解放されて出てきた。風を切って意気
揚揚と向かって言ったときとは反対に、いささか背中が丸まっていて、その表情は険しかっ
た。オレは同じく、な、怖かったろ?と、インフルエンザの注射を終えて腕を揉みながらす
れ違い去ってゆく出席番号の早い奴に、な、な、痛かったか?ときくのと同じ心境でフラン
スにきいた。痛みや辛さに関する話題を共有することで、心理的なダメージを中和させる
ためだ。オレはフランスに、な、怖かったろ?ときいたがフランスは、怖いことあらへんがな、
とだけいって警察官から聞いたことを事務的にみんなに伝えた。な、怖かったろ、ときいた
オレはフランスに、おう、少しな、とか言ってもらえることを期待していたが言ってもらえな
かった。交番の隣には、美空ひばり記念館があった。
中央の階段の両脇にあるエスカレーターの下り側に乗った。美空ひばり記念館の入り口は
半地下のところにあり、入り口の前のテラスには、白い椅子や丸いレース模様のテーブルが
置かれていたが、座ってくつろいでる客は1人もいなかった。美空ひばりには少し興味があっ
たが、記念館への入場料が気になった。300円ぐらいなら払ってもいいと思った。600円でも
入ってみようかという気になる。しかし入場料は1900円だった。やめることにした。そのかわり
1階に戻って、美空ひばりグッズが売られているというショップコーナーへ立ち寄ることにした。
オレの興味はやはりキーホルダーで、ステキな美空ひばりのキーホルダーを見つけたら、自
分用にひとつ、買いたいとも思っていた。昭和の歌姫を思い出すだめの、インデックスだ。
キーホルダーやタオルやマグカップの中に、オレの気をひくデザインをしたものはなかった。
タキシードを着た美空ひばりのブロマイドを見た瞬間立ち止まって、買うかどうするか悩んだ
が、写真はたかだか紙であり、きわめて質量が少ないことに気付きやめた。写真はむしろ、
インデックスというより、データそのものに近い。写真にこめられた情報量は時として脳に蓄積
され損なったデータを補完するが、美空ひばりにそれほど思い入れのないオレは、外部的な
記憶媒体を必要としない。真珠付きのイヤリングやネックレスが10万近い金額で売られてい
た。こういった商品を買っていく客の心理は理解できない。それにオレはたとえば、ハワイへ
旅行へ行く女が大量にブランド品を買ってくるという心理も理解できない。免税店などで例えば
定価30万のヴィトンのバッグが25万で売られていたとして、安ーい、とか言ってそれを海外
旅行で買ってしまう女がいる。理解できない。理解できないが、浪費、という遊びを彼女らは、
楽しんでいるのかもしれない。
美空ひばり記念館の清潔なトイレから出てきたオレに、萎えが向かってきた。さっきオレが立ち
止まったブロマイドコーナーを指して萎えがいった。
「ねえねえ、あの2人、見たことあるんだけど」
萎えが指した店の隅には壁一面に美空ひばりの写真が整然と並べられていて、その前
に二人組の男女がその写真を指して話していた。ひとりはスキンヘッド。着物を着ている
がサングラスだ。女のほうは、白いシャツの胸元があまい感じになっている。Pタンと猫さ
んだった。Pタンに最初に出会ったのは去年、東京自転車ショーへ行くオフのイベントの
ときだった。派手に改造したパシフィック18に乗り付けてやってきたPタンは、口ひげを
生やしていてタイツをはいていて、ファッションはまるでプロレスラーだった。身体は鋭く
鍛え抜かれていたが、全体的に細くシャープな印象で、頬は精悍に削げ落ちていた。
声優のような声でいつも自分のことを「わし」と呼びながら話すPタンは、その威圧的な
風貌からは想像もつかないほど温厚な人柄の持ち主でもある。そして恐妻家でもあり、
猫さんは、Pタンの愛妻なのだった。本当のことは良く知らないが、Pタンの着物スタイル
をプロデュースしているのは実は猫さんではないかとオレはにらんでいる。猫さんはほと
んど、というより全く、自転車の集まりには参加しない。自転車には、全く興味がないらし
い。飲み会だけのイベントがあると、猫さんはPタンと一緒にやってくる。前回の、浜松の
オフにも参加した。これから猫さんが自転車に興味を持つかどうかはわからないが、
もはや自転車板の集まりには欠かせない存在になっている。オレは2人がいるブロマイド
コーナーへ向かった。浜松にこの2人が来たということは、萎えも見覚えががあるはず
だった。オレはさしあたり萎えを紹介するべく、Pタンと猫さんの2人に声をかけた。声を
かけるより先に、Pタンのアタマをなでてしまったかもしれない。
やがてカラコやフランスもやってきた。コビックは遠くから、Pタン周辺の賑わいを覗きこ
むようにして気にしている。
これで、全ての参加者が出揃ったことになる。
フランス、コビック、こすりつけ、PCB、がまかつ、萎え、カラコ、うっとり、まろ、だんご、
スーパーマリオ、Pタン、猫さん、中村。総勢14名。
美空ひばり記念館をでた京都の空は暗くなり始めていて、街灯や店の明かりが目立つ
色に変化していた。すでに時刻は午後5時半近くになっていて、橋を渡る前にカラコと
萎えはホテルへ戻った。フランス、コビック、スーパーマリオ、オレ、そしてPタンと猫さん
は、橋を渡り、ホテルがある岸の対岸の船着場へ降りた。川を挟んで見るホテル嵐山は、
オレンジ色の照明に照らされて、きらびやかだった。そして嵐山の風景に、見事にとけこ
んでいる。伝統的な、気品に満ちたたたずまいをしているホテル嵐山を見てオレは、感激
した。そしてフランスにいった。「いいホテル探したよな、嵐山のまさにど真ん中じゃん。」
「ん?な、そやろ、もっと誉めてえな。オレはもっともっと、誉められるべきやと思うで?」
もうすこし謙虚になってくれたら、いくらでも誉めてやる。
とはいえ、橋を渡った先には何もなかった。缶ビールを買った。気の利かないオレは、
自分の分しか買わなかったが、コビックが跳ねるようにして道を横断し、その先の売店
でラガーを2本買ってきて、誰かビールいるひと?というと、フランスが、ほならわし、
といって手を挙げた。この場合の、清算方法はあいまいだ。フランスは金を払わない。
しかしコビックも、ビール代金を徴収するつもりはない。コビックはビールをふるまった。
フランスはそれを受けた。2人の間には、金銭の授受はないし、恩も、負い目もない。
あえていうなら、清算はこれで完結していて、あるいはフランスが、いつかコビックに酒
を振舞うかもしれないし、しないかもしれない。コビックも、見返りを期待しているわけで
はない。そしてお互いにそれはわかっていて、何もいわない。おいおいカッコつけるなよ、
オレはからかってやりたくなったが、なんだか無粋だし、言わないことにした。
橋のたもとにいてフランスがトイレからでてくるのを皆で待っていた。オレは川を眺める
ともなく眺めていた。すると猫さんやPタンの、「おー」という声が聞こえた。振り向くと、
こすりつけがいた。こすりつけは、皆に背中を見せる立ち位置で、皆もこすりつけの背中
を見て歓声をあげていた。オレはちょうど皆とは、こすりつけをはさんで反対側にいたから、
こすりつけの顔がオレに正対する向きになっていて、歓声の原因であるこすりつけの背中
を見ることはできなかった。オレはこすりつけが着ているTシャツの前に書かれた文字を
認識した。「只今、加速中。」 こすりつけらしからぬセンスだと思った。オレが不思議そう
な顔をしていると、それに気付いたこすりつけはニヤニヤしながらオレを見たまま、自分の
背中を人差し指で指した。こすりつけの裏側へ回り込んだ。赤い色の、幼稚なアイロン
技術であてられたTシャツのプリントはひび割れていた。皆はまだニヤニヤしている。
オレはこすりつけのTシャツの裏の赤いプリントをよく見た。
赤い背景に、マンガチックな黄色いおっさんが、うつぶせに寝ていた。おっさんは裸だった。
おっさんのアタマには、毛が4本ぐらいしかなかった。
「なにこれ?」とオレがいうと、こすりつけは急に振り向いてオレのアタマを平手で叩いて、
「こすりつけTシャツやんけボケ、なんでわからんかなあ」といった。
オレは勢いよくこすりつけに叩かれたアタマをかきむしって痛がっていたが、それほど痛く
はなかった。派手なリアクションをしてみせるぐらいのサービス精神は、オレにだってある。
こすりつけは得意げに、背中のイラストを自慢している。おっさんの絵は、こすりつけには
全く似ていなかったが、黄色い裸や4本の毛や、メガネをかけているところとか、イメージは
こすりつけそのものだった。感心しながらこすりつけの背中のプリントをながめていると、
いつのまにかフランスが出てきていった。「これわしが書いたんやで絵心あると思えへん?
な?」といった。こすりつけには全く似ていないが、これはまぎれもなくこすりつけだ。そんな
イラストを書く才能がフランスにあることに、驚いた。
こすりつけTシャツが出来た。コビックもこのごろ、自身のオリジナルTシャツを作っていて、
そしてこのオフを前についに完成した。ホイールメーカーである「Mavic」のロゴをもじって、
「Kovic」。デザインは当然、車輪が回転する様子をイメージした楕円形の中に、Mavicの
MaのところをKoに変えただけの、いわゆるパロディー商品だったが、完成度は高い。
そしてフランスには、おおフランスジャージがある。彼らが、多くの客に愛されているという
現実は信じられないし、受け入れがたい。でも少し、羨ましいとも思う。
6時半の宴会開始の時刻が差し迫っていた。空は暗い青系の色彩につつまれていた。
あたりは影が落ち、ホテル嵐山だけが数本のスポットライトに照らし出されて要塞のように
浮かび上がっている。そろそろ戻ろう。誰ともなく言った。交差点のところで、コビックが酒
を買いにコンビニへ向かった。部屋で飲むビールを補填するためだ。フランスがなにもい
わずそれに続いた。人より少し多くビールを飲むオレも、2人に続こうとしたが、それをこす
りつけが制した。ええからおれが行くわ、そんな人数いてもしゃあないやろ。オレは引き下
がった。誰かに酒を振舞いたいという気持ちのところでオレはたとえば負けたような格好に
なってしまった。彼らは酒代を請求しないだろう。奇しくもコンビニへ向かったのは関西に
住む奴ばかりだった。そしてここは京都すなわち関西だ。彼らは無意識のうちに客をもて
なそうとしている。ならばオレは、彼らの酒を、心から受けるべきだ。今日はオレは昼から
飲みっぱなしだが、もっとサクサクいける気がする。宴会は、これから始まるのだから。
「おい馬鹿不思議、ちょっと待てや」
ロビーから宴会場へ通ずる短い廊下のようなスペースで、フランスがオレを呼び止めた。
「お前フロント行ってな、白いマジック借りてこい」
オレはまた命令されている。いちいち言い返すのも面倒だったし、今日これまでを通して
命令されることにはだいぶ慣れてきていたから、オレは何も言わずに白いマジックを借り
にフロントへ向かおうとした。そのときフランスはオレに向かって、「看板、これに、
『+萎え、アンド家庭板』って書くんや、な?ええやろ」と白いマジックを持ってこさせる意
味を説明しだした。フランスに命令されたときオレはおそらく、なんでだ?と理由を訊くべき
だった。うるさいはよいけ、といわれてオレが苦笑いするのもコミニュケーションだし、ある
いはフランスの命令口調は、照れ隠しのために、会話に物語性を持たせるイノセンスなの
かもしれなかった。
フランスは看板にこだわっていた。フランスが推敲しがまかつと協議した結果の、練りに
練られたはずの看板タイトルは、「自転車板オフin京都様」と、まるで普通だった。しかし
フランスは得意げな顔をして、「これにいきつくまで大変やったんやで?」と嬉しそうに看
板ながめてから、鼻を鳴らして笑った。
「あんな、しかしな、まだカンペキやないねん、萎えとそれから、カラコおるやん?カラコ
はもともと家庭板やろ?ほんで家庭板からもひとり、おっさん来とったやん?なやたけ?
そやアイム関西や、せやからな、『+萎え』と、そやな、『+家庭板』にしとこか、そしたら
この看板は完成や。おまえなにぐずぐずしとんねん、はよ白いマジック、借りて来いや!」
フランスは看板についてさんざん語った挙句に、黙って話を聞いていたオレを理不尽に
せかしたてたが、オレは少し笑ってしまった。
そこへ女の従業員が通りかかったからオレは素早く呼び止めて、「あの、白いマジック、
ありますかね?」ときいたが、従業員は、「はあ、白いマジックですか、何に使われはるん
ですか?」と返した。「ちょっと看板を修正したいんですけど。」
「そういうやったら、これはマジックではなくて、専門のひとが筆で書いてますんです、あ、
藤田はん?ちょうどよかった、なにやらこの人たち、看板書き換えたいゆうて、、」
藤田はんと呼ばれた女中は、最初に話しかけた若い従業員よりも派手な色の着物を来て
いて、役職的にも立場的にも、ランクが上であることを感じさせる格好をしていた。藤田さん
は落ち着いた物腰で静かに奥へ行き、筆と、白いインクの入った皿をもってまた現われた。
「ほならこれで、おねがいします。」フランスは筆とインクを渡され、藤田さんはそのまま
去った。フランスは看板へ向かった。インクを浸した筆を慎重に皿へなでつけた。看板へ
フランスが文字を書き足そうとしたとき、「萎えって、どう書くんやっけ?」といった。
「知らん」とオレ。
「ちょっと本人に聞いてこいや」「ってゆうかみんな待ってるぜ?」「またしといたらええがな」
萎えに、漢字を聞くため宴会場へ入った。
50畳もありそうな宴会場には、コの字型に会席膳が並べられていて、オレとフランス以外
のメンバーはすでに全員揃っていた。騒然とした中へオレが一歩足を踏み入れた瞬間、
宴会場は静まり返って、オレは注目された。それに臆したオレはすぐさま身を縮こまらせて
黒子のようになったつもりで萎えに近づき、「あのさ、萎えって漢字、どうやって書くっけ?」
ときいた。嘲笑が起こった。漢字きいてるよ中村。早くしろよ。フランスまだかな。囁く声。
自分自身がいたたまれなくなったような気がして耐え切れず、萎えを連れて看板のところへ
行くと、フランスはすでに看板を書き上げていた。
「どや、みてみい」
自転車板オフin京都、の両脇の小さな隙間に、「+なえ」と、「+家庭板」とヘタクソな文字で
書かれていた。萎えを連れてきたオレの努力は徒労に終わった。
「なにしてんねん、はよ写真撮らんかい」 フランスは理不尽にオレをせかしたて、オレは
それに従った。おまえはジャイアンか。だとしたらオレは出来杉くんに違いない。
もうみんな待ちかねている。宴会場へ入った。
席は二つしか残っていない。上座に3つあるうちの向かって左にはコビックが座っている。
フランスはためらうことなく上座中央へ向かった。オレは上座に座ることを嫌い、こすりつ
けに席を替わってもらうよう促したが無理で、照れくさそうにフランスの隣に座ると、猫さん
が「水戸黄門と、スケさんカクさんだ」といった。どちらかというと、風車の弥七が好きだ。
左サイドの一角に、黒地に黄色と赤の、もはや見慣れたデザインの服を着ている3人。
フランスジャージ。がまかつ、茶、Pタン。それを見たコビックが、わしもフラジャー着てこよ、
といって飛び跳ねたところをフランスが制した。乾杯してからにしよか、もうみんなかなり待
たせてることやし。会話は一極に集中している。誰かが口を開くごとに、全員の視線が一斉
に、声のするほうへ集まる。フランスを中央に、付き従うようなオレとコビック。両サイドに居
並ぶ一列の客の好奇。号令はまだか。合図は誰だ。そろそろいいんじゃない?
とりあえず乾杯しようや、な?とフランス。自ら杯を掲げた。少し照れくさそうに、
「なんやたけ、自転車、プラス萎え、プラス家庭板、オフ、イン京都。」タイトルコール、そして
乾杯。掲げたグラスを舐める少しの間。やがてまばらな拍手。無理やりな歓声。すぐに静寂。
「今回はなにも余興考えてないから、とりあえずカラオケや。な?その前に、自己紹介やな」
きびのみたらしだんごを皮切りに、時計回りで自己紹介が始まった。コテハン、年齢、出身
地、ごまかしは効かない。そして最後の質問は、最近立てたスレ。萎え、カラコと進むが、
最後の最近立てたスレのところでつまる。スレを立てるやつは少数派。ほなら、スレ立てた
ことないやつは、最初にレスしたスレ、いってみようや、な?とフランス。じぇいきんぐスレです、
と萎え。カラコはというと、最初に立てたスレは、じぇいきんぐのパート29です。
こすりつけ、PCBと続く。こすりつけは、人を小馬鹿にしたような口調で笑いを誘う。
チャッカマンを持った仲居が、固形燃料に火を入れてゆく。フランスの膳には、エビフライ、
ポーク焼肉、ビーフステーキ。大人用の、お子様ランチ。フランス、ご満悦の様子。
PCBは、中東のテロリスト集団の指導者のようにも見えるし、南の島のいかがわしいツアー
アテンダントのようにも見える。既にフラジャーに着替えている。
コビックは、コビックの気分はパステルブルー。フランスは、エアロビクスを斜め45度に語る
スレ。オレは、荒川を斜め45度に語るスレ。以降まろ、がまかつらへと続くが、さほど盛り上
がることなく自己紹介は収束。されど座は、酒を酌む音、箸の上げ下ろしにて喧騒せり。
「そやコビックが、なんや余興用意しとるゆうとったな」 フランスが、座の舵をとる。
自己紹介途中から落ち着きなくしていたコビックが、跳ねるようにして廊下へ出た。黒いナイ
ロン製の大きめのバッグから道具を取り出し、あわただしく準備をしているような気配がする。
余興のタイトルは、「コビック、宇宙を語る」。
舞台袖より、コビックが現れた。大掛かりな準備の割に手にした小道具は、ぬいぐるみひとつ。
客は全員箸を下ろし、静粛した。そしてコビックに視点を集めた。
「本日はわたくしの講演会、コビック、宇宙を語るということでね、多数お集まりいただき・・」
というような意味の口上で、コビックの余興が始まった。右手には、アヒルだかなにかの
ぬいぐるみが乗っている。裾から手を入れちょうどくちばしのところへ指を収めて上下させると
アヒルが話しているように見えるタイプのぬいぐるみだった。アヒルを片手にコビックは真剣な
表情で、「宇宙といえば、アインシュタインの相対性理論でありますけれども」と語りはじめた。
「E、イコールMC二乗、などと申しまして、」などと言ったかどうかはわからないが、次第に客が
不思議そうな顔をしだしたタイミングで、「宇宙の話はこれぐらいにいたしまして、」と早々に講演
を打ち切ってしまった。すると今度は、左手に鎮座していたアヒルを少し意識しながらコビックは、
「腹話術やります」と言った。
客の呆れる隙もなく、コビックは客に笑う時間を与えることなく、腹話術芸を始めた。
「いまからやりますけどね、まずボクの、相棒を紹介します。こら、○○くん、挨拶しなさい。」
「こんにちは」
「こんにちは、やあらへん、なにがこんにちはじゃボケ」
「こんばんは?」
「よし、その調子や○○くん」
ぬいぐるみが発してる声と、ぬいぐるみを操るコビックの声は全く同じだった。しかもぬいぐるみ
に声を出させているとき、コビックの口はふさがっていない。すなわこれは、腹話術などではな
かった。腹話術に似せたコビックの一人芝居であり、その芝居の内容も実に幼稚だったことか
ら客らは、苦笑いすら浮かべはじめていた。
オレは、○○のところが気になっていた。伏字で表記したのは、○○が、オレの本名だからだ。
むろん「中村」ではない。ここでオレの本名が出てくることに関しては何ら問題はなかったが、
ステージ上で繰り広げられているアヒルの名前が、オレの苗字と一致していることに、奇妙な
むずがゆさを感じていた。
するとコビックは、アヒルの頭を叩きながら、「おい、○○××くん、」と、オレの下の名前まで付
けて呼んだのだった。周りの客は、○○××が中村不思議の本名であることをほとんど知らない。
しかも、○○××がオレの名前だとわかったところで、面白くもなんともない。ただオレだけは、
アヒルにオレの名前がつけられてしまった不条理さと、場の白々しい空気がおかしくて、大笑い
してしまった。
最初宇宙について語ろうとして飽き、腹話術にも飽きたコビックは再度、舞台袖へ引き、今度は
ピアニカを持って現われた。そしてノズルを延ばし、何もいわず吹き口を鼻にあてて、ピアニカの
演奏を始めた。童謡かなにかだろう。しかし鼻息では吹奏楽もままならず、全く音にはならなかった。
コビックは終始、客の反応を省みず、一人芝居を演じきった。笑いはまったく起こらなかった。
笑いが起こる隙はなかった。光を凌駕するほどのスピードは時空を反転させるという。
講演が終わったコビックは拍手と歓声によって称えられた。
コビックは、「宇宙」を、語りきったのだ。
先陣を買って出たのはまたしてもコビックだった。膳をまたぎ、風早に座の中央を駈けた。
畳の目に沿って靴下を擦らせ、勢いよくスライドしながら両手を広げてバランスをとった。
くるっと器用に回転して止まり、マイクをつかんだ。すでに曲のイントロが流れている。
静かで控えめだった宴会場にスピーカーから大音量でカラオケが流れた瞬間、客の顔色
が落ち着きのないトーンに変化したしたように見える。水割りをください、涙の数だけ、
コビックが歌い始めた、メモリーグラス、堀江淳。分厚い歌本が配られてゆく。配っている
のは萎え、がまかつ、こすりつけ、早く歌え、フランスがオレに本を渡そうとした。オレは既
に1冊持っている。水割りをください、涙の数だけ。過半数が歌本を読みながらコビックの
メモリーグラスを聞いている。次は誰?リモコンを持ち、次を促すのは猫さん。
おいおまえら、次に続けや。コビックが座を鼓舞した。すぐさま、トランペットの音が鳴った。
兄弟舟、うっとり汁、兄弟舟、うっとり汁、笑いが起こった、波の谷間に命の花が、二つ並ん
で咲いている、似合いすぎている、うっとりの兄弟舟、兄弟舟は、親父の形見。
次はオレ、ミスチル。一番有名そうなタイトルを選んだ。イントロがなったら、思ったより静か
な曲だった。歌い出し、見事にハズした。後ろで猫さんが、正式なメロディーを口ずさんで
くれた。それにあわせて、なんとか軌道にのせた。いきなり頭頂部を、平手で殴られた。
痛いというよりも、驚いて振り向いた。こすりつけ。真剣な表情で、こっち向いて歌えや。
確かに、カラオケのテレビを見ると、客に尻を向ける格好になってしまっている。微妙に
体をずらして歌った。しかしテレビと、客席を同時に見るのは不可能だった。
するとフランスがやってきて、カラオケ機材の位置をずらしはじめた。カラオケ機材は、
オーディオ部分とモニター部分が一体になっているキャスタータイプだ。オレはかまわず
歌いつづけている。喉があったまってきて、これから調子があがってくる。フランスが1人
で機材の位置をずらそうとしていると、何人かの男手が現れて加勢した。機材が物凄い
勢いで移動した瞬間、全ての音が途切れた。電源プラグが、コンセントから抜けていた。
途中で、止められた。フランスも一瞬固まり、おう、すまんすまん、といいながらまだ機材
の位置を修正していたが、誰かが、わざと?と聞くと、わざとやがな、といっていた。
オレも少し、オイシイかったかなと思った。
曲は、次から次へとエントリーされた。客も既に誰がステージにいるのか把握していない
ような状態になり、酒も、5本10本単位のオーダーが相次いだ。喧騒が、カラオケの音と
同じボリュームになりだしたころ、こすりつけが、マイクを持って立っていた。
カラオケの音はなぜか、止んでいた。
こすりつけが立ってマイクを握っている。白いTシャツに赤い幼稚なプリントのこりつけTシャツ。
前面には「ただ今、加速中」の文字。真新しい紺色のジーンズ。妹のジーンズ。
マイクを握ったこすりつけが立っている。カラオケの音は鳴っていない。これからしゃべりだそう
とするスタンスでもない。ただマイクを持って立っている。何かを始めるようにも見えるし、ただ
思考に耽っているようにも見える。ただ、マイクを持ってこすりつけが立っていたから、客は、
これから何か始まるのだろうかということで、表情を硬くしたり、居住まいを正したりして、舞台へ
注目し始めた。次第に宴会場が静かになっていくにつれて、スピーカーからかすかに音が聞こ
え始めた。マイクの線をたどった先のこすりつけの口は、動いてはいるが、うまく聞き取れない。
しばらくすると、こすりつけは鼻歌を歌っていることがわかり、次第にそのメロディーラインの全
容が明らかになった。「ワンリトルツーリトルスリーリトルインディアン」のあのメロディーだった。
こすりつけはしばらく鼻歌のボリュームで歌っていたが、誰へともなく「うん」とひとつうなずいて
みせ、自分自身に納得したのか、あるいは全てを思い出したのかしたタイミングで、少し音量を
上げたが、やはり鼻歌には変わらなかった。しかし観客が注目したのは、鼻歌のメロディーでは
なく、その歌詞だった。
「AカップBカップCカップDカップ、EカップFカップGカップHカップ、
8組のバストを選ぶとしたら、君ならドレガスキー?」
10人のインディアンのメロディーを、カタコトの日本語を話す外国人のような妙なアクセントの節
をつけて歌い始めたこすりつけは、「君ならドレガスキー?」の後で、Pタンにマイクを向けた。
こすりつけのショーにあっけにとられ、急にマイクを向けられたPタンは、言葉を失ってしまった。
猫さんに、何カップが好きかだって?と促され、Pタンが考えだすとこすりつけは再度、
「AカップBカップCカップDカップ、EカップFカップGカップHカップ、
8組のバストを選ぶとしたら、君ならドレガスキー?」
と、ていねいに最初から歌ってから君ならドレガスキー?といってまたPタンにマイクを向けた。
「わしは、Bカップ」とPタンはいった。こすりつけは少し考えてからまた10人のインディアンで、
「Bカップ好きは中途半端、好みとしては中途半端、
無くても良いけどチョット!はあったほうが、そんなの微妙スギー」 と、歌った。
「チョット!はあったほうが、」のところ、リズムは3連符のシンコペーションで、アクセントはフォルテ。
なにあれ?有名なの?え、知らないの、おっぱい占い。
こすりつけの、「おっぱい占い」が始まった。
「E」。マイクを向けられたみたらしだんごが答えた。おっぱい占いは続いている。こす
りつけは威嚇するときのような口調で、「あ?なんて?E?ほんまにEでえーんやな?」
といっている間に歌詞を考えているらしく、思い出すと急にとぼけた表情をつくり、
「Eカップ好きは少しオリコサン、Fカップ好きより少しオリコサン、
それでもまだまだ夢みがちだから、大人にナリナサイ~」
と挑発的な態度で歌うのだった。
何カップ好きだろうが、必ず最後に必ずけなされた。これは、占いと称してはいるものの、
人を小ばかにするための単なる呪いのシーケンスに過ぎない。ところが、誰かがCカップ
といい、「Cカップ好きは正解に近い モットモカギリナク 正解に近い」という初めて前向きな診断
が出た。しかし「正解に近い」と歌ったあと、こすりつけはしばらく沈黙してしまった。
どうしても歌詞を思い出せないらしい。はやくしろ、がんばれ、がんばって、激励に後押し
されてやっと出てきた診断の続きは、祝福ではなく、警告だった。
「でも Cに満たない女性も多いので 油断は禁物デース」
客のリクエストに応じ、全てのカップについての占いを終えたこすりつけは最後に、
「いろんなおっぱいみてきたけれど、最後に私が言いたいことは、
女の人を胸で判断するのは 良くない事デスヨー」 と、全てを否定して締めくくり、
「良くない事デスヨー」をリピートしながらフェードアウトしていった。
この間、こすりつけは、1度も笑わなかった。にやりともしなかった。席へ戻り、盛大な拍手
が送られた後にやっと、照れくさそうに少しだけ笑った。
会場は熱気とタバコの煙に包まれている。客は半狂乱になっている。フランスはフラ
ジャーの前をはだけて隆々とした腹部をさらけだしている。コビックもいつのまにか
フラジャー姿になっている。オレのフラジャーは萎えに着せた。おねいちゃんに着せる
というフランスとの約束を果たせなかったせめてもの罪滅ぼしだ。見るとカラコもフラ
ジャーを着ている。こすりつけに借りたという。冒頭から着ていたがまかつ、茶、Pタン、
PCB。過半数がフラジャースタイルだ。黒と黄と赤とまが玉の69が宴会場を彩ってい
る。席次はデタラメに入れ替わっている。萎えがカラコに抱きついてキスをしている。
うええるしぇげろべべああん、ツイストアンドシャウトは陶酔のテーゼだ。フランスが集
団的狂乱をコントロールしている。がまかつはデニスホッパーのようにボーン、トゥビー、
ワアアイル、こすりつけはうぃーうぃるうぃーうぃる、ろ きゅう。クラップとクラップとタップ、
会場が揺れた。萎えはダンシングクイーン、むしろ萎えがダンシングクイーン。宴会は
最高潮を向かえてなおとどまる気配はなかった。仲居が時計を気にしている8時半
5分前終了5分前。そろそろ終わりだって?ええて、文句いわれるまで歌おうや、な。
お客様そろそろお時間でございますので。早速いわれたぜ文句、終わりだってよ。
ほな最後にみんなで歌うておわりにしようや、次の曲何や?ラブマシーンて?
そらええわ、萎えとカラコ?最高やん、それで終わりにしよか、な?
そろってフラジャーを着ている萎えとカラコが舞台端のマイクスタンドでうぉうお、うぉうお、
うぉうおふうふう、と歌って踊っている。カラコの右手にはアヒルのぬいぐるみがいる。
オトコどもは半狂乱になりながら立ち上がりつられて踊りだした。
やがて全員立ち上がった。狂ったように、ふうふう、のところで一斉に叫んでいる。
狂乱をコントロールするのはフランスだ。彼を先頭に列車が形成された。
デタラメなジェンカがもっとデタラメになっている。列車の前と後ろが繋がり輪になった。
仲居が時計を気にしながら、そろそろ終わりですので。いつのまにかその仲居も列車に
加わっていてこすりつけに肩を強く抱かれて逃げ出せなかった。
ラブマシーン。
中央でジェンカがぐるぐると回っている間からすでに食い散らかされた会席膳の片付け
は始まっていた。一滴も注がれていないビールビンは栓だけ開けられた状態で何本も
置かれている。狂乱のラブマシーンが終わりジェンカが散会した後にも、少人数で輪に
なったときに嬌声をあげたり元の席に座り込んで残った料理を食い始める者もいたりし
て、その余韻は延々と続くかと思わせた。ところが仲居は声高に、もうそろそろお時間
ですので、あとはお部屋でお楽しみください、と繰り返し、時間通りに客を追い払おうと
した。追い立てられることを嫌ったこのオフの集団は、仲居の言葉に耳を貸そうとせず、
酒を飲み始めたり集合写真を撮ろうとしてみたり、それぞれが思い思いの行動で、高
圧的な仲居への反発を示し、宴会の余韻を楽しもうとした。しかしフランスが、
「ほならそろそろ戻ろか?いったん部屋に戻って、集合はそやな9時にしよ、みんなで
居酒屋にでも入ったらええやん、宴会は、これからがメインやで。」といった。
すると集団は、フランスの言葉に従うようにして一人ずつ、退場しはじめたのだった。
フランスは、この座における最高意思決定機関だ。
部屋に戻ったオレはTシャツの上に重ねていたシャツを脱いだ。酒と宴会の熱気と暴れ
た余韻で身体が火照っていたからだ。見るとフランスもフラジャーを脱ぎ上半身裸に
なっているところで、カーキだかモスグリーンだか何色だかわからない新しいTシャツに
着替えようとしていた。それを見たコビックが、なんでフラジャー着ていかんねんわしは
最後までフラジャーやでほんまにみんな裏切ってからにマジでむかつくわほんまに
中村おまえはなんでフラジャー着てへんのやほんまムカつくわ?などと、長いセンテンス
の割に中身のない言葉を延々とぼやいていたかと思うと急に思い立ったように、やっぱり
わしも着替えようかなといってコビックTシャツを着、その上から不器用そうにコルセット
をはめた。おまえらわしのこと見てなんとも思わんのかいTシャツの上からコルセット
はめとんのやで普通Tシャツの中やろつっこめやボケ、といったがいわれるまで誰も気
付かなかった。Tシャツの上のコルセットはコビックによく似合っていた。オレは宴会場か
ら栓だけ開けられてなみなみと残っていたビンビールを1本、もったいなくて部屋に持ち
帰ってきたが冷蔵庫はいっぱいで、腹の中もビールでいっぱいだった。
ロビーには続々とメンバーが集まっていた。萎えとカラコは引き続きフラジャーを着て
来てくれて男どもを喜ばせた。やがて誰一人欠けることなく全員が集まった時点で、
フランスが号令をかけた。「ほないこか?」「どこいくの?」「いや全然わからん」
するとこすりつけが真っ赤な顔をして、というよりいつもの赤ら顔で1段上に立ち、しかし
皆に話す声にしては異常に小さい声で「おれ知ってるから」と、次の店へ導くことを告げ
た。いつもなら、短時間における大量のアルコール摂取により、誰よりも先に精神を破
裂させ、1次会が終わる時点では必ずといっていいほど酔いつぶれる。しかしこのときの
彼の口調や足取りは確かで、ホテルを出て嵐山の暗い道を歩く酔った集団を、確かな
歩調で先導した。こすりつけの頬はときおり小刻みに痙攣したが、それは怒っているの
ではなく、心がはずんで気持ちが高ぶり衝動的に暴れてしまいたくなるのを必死に抑制
しているときの彼の癖だった。
しかしこれは、もっとも危険な兆候で、むしろ怒りの方が安全だった。
怒りという感情は、自分の中の系統的な秩序に対して、受け入れ難い違反や不利益に
直面した場合に作動する自我のいわば安全装置であり、それは理性的認識が発動し
ているから最初からコントロール可能だ。ところが今こすりつけが抑制しているものは
怒りではなく、破壊衝動だ。怒りをコントロールする秩序系統を破壊したい、という表情
なのだ。自身をコントロールできなくなった人間は怖い。例えばナイフを持ったチンピラ
の何が危険かというとそれはナイフではなく、なにをするかわからない凶暴さであるように。
こすりつけは、頬をぴくぴくと痙攣させ閑散とした暗い夜の嵐山を歩く集団の先頭で懸命
に自身の狂気を抑制するために、オレのアタマを平手で何度も叩きながら歩いていた。
「だいぶ歩いたな、店まだかよ。」 「こっちでええんや、あん?ちょっと行き過ぎたな」
道を間違えたことに対して一言もなくこすりつけは集団ごと旋回させて、目抜き通りから
一つ路地へ入っていった。路地の先を見渡しても、酒場らしきネオンは一つもなかった。
直線的に延びる路地の両サイドには民家が並んではいるが、目立つ灯りもなく人が
住む気配がしない。昼はあれほど観光客で賑わっていた嵐山の夜は非常に静かだ。
道を往来するのは我々の集団しかおらず目当ての酒場もなかなか現れてはくれない。
どれほど歩いたのか、誰かがしびれをきらし、ホントにこっちでいいの?とその心細さ
を口に出した直後にようやく、軒先にもれる蛍光灯の灯りをバックに煌々と光る赤い
ちょうちんが見つかった。間口三間ほどの外観から推測できる室内はそれほど広くは
ないだろう。14人の大人数を詰め込めるかどうか交渉するため、Pタンと猫さんが店内
へ入った。案の定、即時入店は不可能で、しばらくしたらカウンター席が空くから、横並
びでもよければなんとか座れるという。一瞬我々は難色を示したが、見渡した先の阪急
電鉄駅周辺にもめぼしい酒場を見つけられなかったことなどから、横並びやむなしとの
結論に達したのだった。やがてカウンター席の準備が整ったところで14人は続々と入店
したが、カウンターチェアは12しかなかった。店の雑多な荷物を置くための椅子を一つ
貸してもらっても合計13。仕方なくボックス席から背の低いタイプの椅子を拝借してよう
やく人数分の椅子がそろった。カウンターの一番奥へ入り込んでいたのがオレだったた
め背の低いタイプの椅子を使うハメになり、首より上だけがちょこんとカウンターテーブル
から出ているという、実にまぬけな、まるで子どものような状態で座ることになった。
ただ、他の誰かがそんなみじめな境遇になっていたなら、オレは憐れんで交代してやっ
ただろうから、背の低い椅子をあてがわれたことへの悲観はなかった。しかし、オレに席
替わろうかなどといった、優しい言葉をかける人間が一人もいないとはどういうことか。
よしんば、よしんば言われたとしても、いやいいよオレはここで、などと返すのが謙遜の
美学であり、善意をアピール出来るからオレはそういったコミニュケーションを期待して
いたのだが誰一人として、期待通りの言葉を投げかけてくれる者はいなかった。
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