よろず屋の猫

『ウィンディ・ストリート』 パレッキー



ヴィックの恩師、母校バーサ・パーマー高校女子バスケット部のマクファーレン・コーチは癌で余命いくばくもなく、ヴィックにコーチの代用を頼む。
ヴィックが故郷のサウス・シカゴを抜け出せたのは、マクファーレンのおかげ。ヴィックは仕事を抱えながらも、遠い道のりを車で飛ばし、母校に通うことになる。
そのバスケットチームの部員・ジョージーの頼みで彼女の母親の頼みを聞くが、それが町工場、そして地元の大企業“バイ=スマート”の事件に係ることになっていく。


スー・グラフトンのアルファベット・シリーズの探偵キンジー・ミルホーンと共に女性私立探偵ジャンルを確立したヴィック・シリーズ。
個人的にはキンジーの方は推理小説として、ヴィックの方はキャラの魅力で読む小説として、新作を楽しみにしています。
このシリーズは新作が一時期でなかったのですが、その前の数作はヴィックが「疲れちゃったのかなー。」と言う感じで、本来の魅力がちょっと薄れていました。
しかし『ハード・タイム』で復活以降、元気にがんばるヴィックが戻ってきて、嬉しい限り。

この小説でもケガをしようが、依頼料が入らなかろうが、ひたすら事件解決、弱い立場の人々を助けようとヴィックががんばります。

キャラの魅力も健在。
いつものメンバーに加えて、ヴィックの恋人のジャーナリスト・モレルの仲間で彼の家に滞在するマーシナ、バイ=スマートの社長のバッファロー・ピル、彼の孫でどこまでもピュアなビリー、高校時代からの因縁があるサンドラ等などにぎやかです。

マーシナに対してはヴィックは嫉妬心を感じ、それを認めているところが可愛い。

言わば巻き込まれ型で事件に係るのはひとえにヴィックの性格のせい。
故郷はヴィックが過ごしていた時代より更に貧しくて、その人々から依頼料を取れないと分っていながら、ヴィックはどんどん事件にのめりこんで行く。それは彼女の“知りたい”と言う好奇心もあるから。
しかし権力側の強引な態度には絶対に“YES”とは言わない。
パイ=スマート経営側の一族の“呼びつければ応じてはせ参じるのが当たり前”的な態度には、持ち前の反抗心がムクムク、イヤミで応じます。

ヴィックが事件解決で手に入れたものはビリーの
「お金で動く人じゃないよ。・・・正直だし、友達のために親身になってあげるし、すごく、すごく勇気があって・・・。」の言葉くらいです。
それに対して
「素晴らしい推薦状ね。長生きして、その四分の一にでも値する人間になりたいものだわ。」と言うヴィックが良い。

自分の学生時代より更にひどい状況のサウス・シカゴにヴィックは心を痛めます。
高校生で妊娠してドロップアウトする少女達が多く、貧困は連鎖します。
そこを抜け出すには大学にと思うジョージーやエイプリル、またジョージの姉で出産で自暴自棄になった優れたバスケ選手だったジュリアのために、ヴィックは何とか道筋をつくろうとします。

ヴィックがしたことは小さいこと、しかし
「あなたのような人が小さいけれど困難な仕事をこなし、この過酷な世界に小さな変化をもたらしている。」と言う、ヴィックの友達・ロティの言葉が心に響きます。

一時期はケイ・スカーペッターのシリーズに後れを取っていた感があるヴィックやキンジーのシリーズ。
しかしはっきり言ってケイのシリーズは尻すぼみで、最近の作品は駄作だと思っています。
長い年月を頑張っているヴィックやキンジーはやっぱり素晴らしいと思うし、新作に会えるたびに嬉しい気持ちになります。



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