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2026.05.31
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カテゴリ: まこととかおり
2DKの狭いアパートに、4人の「まこと」と「かおり」がそれぞれの秘密を抱えて暮らしていたあの頃から、15年の歳月が流れた。
2041年の初夏。かつて一文字違いの名前を与えられた子供たちは、それぞれの人生の頂(いただき)に立ち、父・誠は新しい穏やかさの中にいた。
「ほら、チョコ。バーン」
リビングの陽だまりの中で、**誠(62)**が指でピストルの形を作ると、小さな茶色いトイプードルが、トコトコと駆けてきてその場にゴロンと仰向けになった。
「よし、お利口だな」
誠は目元に刻まれた優しい皺(しわ)をさらに深くして笑った。
かつて彼を絶望の底から救ってくれた初代チョコが15歳で天国へと旅立ってから、早くも2年。寂しさに耐えかねてふらりと立ち寄ったあのペットショップで、誠は初代と生き写しのような子犬に出会った。運命を感じて即座に迎え入れた二代目チョコは、今や二歳。
SNSのアカウント『誠とチョコ(二代目)』のフォロワーは、今や10万人を超えている。
「お父さん、二代目も芸達者ですね!」「相変わらず癒やされます」

時を同じくして、都内の高級マンションの防音スタジオ。
――ドン、ド、ドンッ。
地響きのような重いビートが刻まれる。ドラムセットの前に座っているのは、**薫(39)**だ。
彼の所属していたバンドは、数年前に惜しまれつつも解散した。しかし、日本の音楽史にその名を深く刻み、今や「伝説のバンド」として若い世代からも神格化されている。
その偉業の裏には、妻となった**史華(41)**の、文字通り命懸けの献身があった。
メジャー時代の過酷なツアー中も、史華は薫の食事制限と、あの「爆弾」を抱えた腰のケアを徹底的に行い続けた。たまに史華が「ねえ、たまにはおねだり……」と、昔懐かしい『駅弁体位』を強求してくる夜もあったが、史華は行為の後のストレッチやアイシングの準備まで完璧にこなした。そのおかげで、薫の腰は最後まで現役のまま、伝説のドラムを叩ききることができたのだ。
「薫、そろそろお昼ごはんにする?」
ドアを開けて入ってきた史華の視線の先。ドラムスツールからヨイショと立ち上がった薫の姿は、15年前とは著しく異なっていた。
ドラムを引退し、裏方のプロデューサー業に専念するようになってからというもの、現役時代の反動からか、薫の体重は当時の「倍近く」にまで膨れ上がっていたのだ。
「……なぁ史華、俺、流石に太りすぎたかな」
ふくよかなお腹をさする薫に、すっかりスリムな体型を維持している史華がケラケラと笑う。

そう言って笑い合う二人の間には、幾多の修羅場を乗り越えた夫婦にしか出せない、確固たる愛のビートが流れていた。
そして、緑豊かな郊外にあるスタイリッシュなマンション。
週末の柔らかな光が差し込む寝室で、**香織(34)と紗季(34)**は、15年前と何ひとつ変わらない体温を共有していた。
二人の歩んできた15年もまた、実に濃密なものだった。
紗季は専門学校を卒業後、大手の医療研究機関に籍を置き、日夜ウイルスの研究に没頭した。数年前に世界を揺るがしたあの「大パンデミック」の際、紗季の開発に携わった検査キットやデータは医療界に大きく貢献し、彼女は若き功労者としてメディアに取り上げられるほどの活躍を見せた。

高卒で入社したビルクリーニング会社で、その真面目さと卓越した技術が認められ、最年少で「課長」へと昇進。建築物環境衛生管理技術者など、業界トップクラスの国家資格を次々と取得し、今や清掃業界のコンサルタントとして一目置かれる存在になっていた。
社会的な地位を得て、お互いに多忙を極める大人になった二人。
それでも、この部屋のドアを閉め、スーツと白衣を脱ぎ捨てれば、二人はあの女子校の放課後のままだった。
処分に困っていた大人のおもちゃは、今や専用の鍵付きクローゼットに美しく整理されている。
「ん……っ、香織……そこ、すごい気持ちいい……っ」
「紗季、今日も可愛いよ……」
ベッドの上、二人の身体は自然と、お互いの最も愛おしい場所を同時に貪り合う「69(シックスナイン)」の形へと収まっていく。
お互いの舌が、指先が、日々戦う社会で擦り切れた心と身体を、最高の快楽と共に優しく、深く解きほぐしていく。15年間、何百回、何千回と重ねてきたはずの愛撫なのに、お互いの肌の心地よさは、出会ったあの日よりも瑞々しく二人を満たしていった。
ひとしきり愛し合い、汗ばんだ身体をぴったりと密着させながら、二人は窓の外の青空を眺める。
「香織と一緒になれて、私、本当に幸せ」
「私もだよ、紗季。これからもずっと、こうしてようね」
二人の繋いだ手には、15年分の歴史と、これから先も共に生きていく『事実婚』の重みが、心地よい温もりとなって宿っていた。
かつて、同じ「まこと」という名前の夫婦から生まれ、一文字違いの「かおり」という名前を授かった小田切家。
母の死、家族の解散、それぞれの巣立ち。
歪で、危うくて、だけどどうしようもなく愛おしかったあの2DKの物語は、15年の歳月を経て、これ以上ないほど美しい結末へと辿り着いた。
それぞれの場所で、大切な相棒の温もりを感じながら。
小田切家の、どこまでも新しく、どこまでも変わらない愛の日常は、これからも静かに、幸せに、続いていく。
(第一章・完)





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Last updated  2026.05.31 05:04:15
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