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普通なら、翌日あるいは二、三日中に何らかの問い合わせがあるものだ。
ところが何日経っても、その預かり品の荷物の話しが当の本人であるAさんや会社にも何の連絡も無かった。
もっとも、飲食料や宿泊料、あるいは木戸銭や席料などと同じく、運送物の損害保障期間は一年以内と言う短期時効の中に入る。
年に何個となく、破損する荷物も多い。
だが、その破損した物はすべて会社側が受取人と交渉して処理してくれることになっていた。ところが、この受取人であるM氏はその後何の音沙汰も無いのであった。
未だ過って無い、ケースの部類である。そろそろ、日永になったこの夏の夕方近くにになって背広姿の二人の男達が荷物ターミナルに遣って来た。
その名刺には、「S警察署、捜査第一課」とあった。面会に応じた、カウンター近くの女の子が近くに居た係長にその名刺を渡した。
「なんだこりゃ、お巡りじゃねぇようだな、デカ(捜査課)か」と言って、応対に出た。「Aさんと言う方は、居りますかね?」と、一人の私服の刑事が聞いて来た。
「はぁ、居るには居ますが、今配達に出ていると思いますが?」と、係長。「そうですか、じゃ、会社から聞きますか?」とこの刑事が、もう一人の同伴の刑事に確認する様に言った。
「なんでしょうか、うちのAが、何かしたのでしょうか?」と、係長。「いや、Aさんじゃないんですよ、Aさんが配達為された物について、お伺いしたくてお邪魔した訳です、はい」と、言う。
「荷物?・・・・ですか?」。「はい、ちょっと時間が経っていますがね。
「いつの、事でしょうか?」。「お歳暮時期の、ことですよ。
ですから、去年の暮れと言うことになります」。「もしかして、T街に住んでいらっしゃるMさんの荷物で?」。
「あぁ、そうそう、それなんですよ、よく覚えて下さったですな?」。もう一人の鑑識の人が、静かにその包みを 解 きやがて舐めて見た。
「ちげぇねぇ」と言って、ニヤリと笑った。「これで、決まったな」と、刑事もニコニコ笑いながら応じた。
後で解かったことだが、二五十グラム入りコーヒー瓶のコーヒーの中に、この薬状態の紙包み数個を入れて発送したものだった。粉末状の中に入れれば、透き通って見えない訳である。
しかも、ご丁寧に720ミリリットルの日本酒三本も入れて、お歳暮用の祝い紙を貼って贈って来た物だった。さらに、贈り主も受取人も、同一人物でもあった。
贈る時は偽名で、受け取る方も偽名だった。手の混んだ、密売用の代物だった。
道理で、壊れても文句を言わなかったと初めて合点した。「こんな事に、宅配を使われちゃ、困るんだよなぁ、全く」と、Aさんは嘆息した。
神戸市内で、ある運び屋にガサ(捜索)が入って一人の暴力団風の男が逮捕された。その男から頼まれたM氏は、発送済みした後に市内のサウナに立ち寄った。
直ちに、地元の警察がこのM氏を確認し取り合えず任意同行を求めた。その時に、この発送伝票が押収されたのであった。
だが、中身は「酒」とこの伝票には記載されていた。そこで、早速ここの警察署はAさんが住んでいる警察署に「ガサ入れ」を申し入れた。
だが、何も発見されなかった。当然の、ことだった。
肝心な荷物が、破損されて配達不能になっていたのである。だから、どこをどう探しても「ブツ」(覚醒剤)が出て来なかったのである。
手詰まり状態の神戸の警察署は、その動向を探る為にある女を尾行することになった。
「犯罪の影に、女あり」
と言う、格言のもとに張り込んだ。
遂に、その女も覚醒剤を使用していることが外の夜の女から情報があった。任意同行の末、腕の針跡を確認して逮捕した。
その女の供述から、M氏の発送した荷物の中身が知れたのであった。
「女は、情けには強いが取調べには弱い」
と言う、ジンクスがあると言う。
その通りに、白状されてしまった。この事件は、大した価値のある事件ではないがAさんは深く反省させられた事件でもあった。
一生懸命、善意をもって贈る人、贈られる人の気持を大事にして、その業務に誇りを感じて努力しているのである。それが、こうして犯罪に利用されるとは情けなかった。
ただ受け取り、ただ配達するだけの業務ではないのである。そこには、その荷物を取り巻く人達の掛け替えの無い心と人生ドラマが隠されているのである。
そして、知り得てはならない個人の秘密や情報がその中身となって運ばれているのである。「たかが荷物、されど荷物」である。
だが、その荷物は黙して語らずだがその相手に届いた時に初めて大きく物を言うのである。そう思って、今日も雨が降ろうが雪が舞うであろうが風が吹こうが天から与えられた天職として、これらの荷物を待つ人々の為に邁進するのみであると、Aさんは改めて決意するのだった。
また、今年も実りの秋がやって来た。新米であろうこの荷物を、早く届けてやらねばとアクセルを踏む。
「この荷物 物は言わぬが 待つ人に
幸を届ける 飛脚の心」。