「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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【存在理由】 第1話。
どこを見ても 暗かった。
あまりの暗さに 自分が目を閉じているのではないかと思ったくらいだ。
否 暗いのではない。
『黒い』のだ。
自分の手を確認しようと目の前にかざす。
しかし 何も見えない。
『黒』は無であるのだ。
すると 声がした。
冷たく 鋭く 凛とした よく響く声だった。
その声がそこに確かに存在している者に問うた。
『お前は何のために存在しているのか』と。
『生きるために殺すのか』と。
....違うな。
そいつは不適な笑みを浮かべた。
...何も見えぬ故に そいつが笑ったと思っただけにすぎないかもしれないが。
不適な笑みを浮かべたまま
そいつは 言った。
「いいゃ。
私は生きるために殺すのではない....」
殺すために生きているのだ.....と。
黒の中にその静かな声が響いた。
【存在理由。】
*1 殺魔族の末裔
「ねぇ 昨日のニュース 見た!?」
「見た見たぁっ!!また でしょ?」
「そぉそ。やっぱこれってあの噂の....?」
「きゃぁw恐いぃww」
夏休みも間近の1学期後半のこの日。
蝉の声はクーラーの冷気が逃げるからと閉められた窓によって遮断されていた。
それより教室は今 別の音でいっぱいだった。
そう。
噂を語る 様々な人の声。
交差して 大きな音となる。
「やっぱ あの連続殺人は 殺魔族の仕業でしょぉ」
....殺魔族。
その名を聞いた教室中はとたん 静かになった。
「せ....殺魔族は 何年も昔に滅びたじゃない」
その存在を否定する声がそれに応じる。
否 認めたくないのだ。
その存在を。
恐いのだ。
滅びたものと信じていなければ。
「末裔とか....」
教室中は もう何も言えなくなってしまった。
「ぁ....ぇと。
刹那ちんは どう思うょ??」
1人 窓の外に視線を向けている女子生徒がいた。
刹那....彼女の名前はそういった。
整った顔を栗色の長いストレートの髪がさらっと移動した。
刹那は視線を窓の外からはずすと
ふと 微かな笑みを浮かべた。
「さぁ?」
クスクスと声に出して笑う彼女はもう『森の美しい妖精』意外に当てはまる言葉以外にあてはまるものがあるとすれば
『魅惑の天使』だ。
誰もが彼女に釘付けになった。
彼女はなおも言葉を続けた。
「こういうのも考えられない?」と。
「確かに末裔ってのもおもしろいわょね。
でも。
殺害された人たちに共通点はない上に
現場に残された証拠にも共通点はないんでしょう??
じゃぁ 連続殺人じゃないかもしれないでしょう?」
ね?と人差し指をたてる刹那はやはりどこか面白そうだ。
確かにと賛成する声があちらこちらで上がり始めた。
がやがやと帰り支度を始めたクラスは
「やっぱ殺魔族はもう滅んだのよぉ」
とお互い頷きあいながらそれぞれの部活へと急いだ。
刹那はまだ1人 教室に残って窓の外を見ていた。
夕日が温かな色を醸し出しながら 沈んでいく。
そしてやはり面白そうに呟いたのだ。
「末裔....ね」
と。
「よぉ。霜月」
まだ残ってたのか?と教室に1つの長い影が落ちた。
「....千歳君」
「いゃ 何 君が心配でね」
とジェントルマン風に さりげないクールなスマイルを浮かべる千歳 由澄は
どこか人なつっこそうな印象を与える。
「ただ 課題になっている教科書 忘れただけでしょ」
と刹那はクスクスと笑って言った。
「それに 理由は聞いていないわ アタシ」
するりと交わす刹那は言い寄られるのに慣れているのが伺える。
しかし 交わす言葉に突き放した冷たさは 微塵も感じられない。
不意をくらった由澄はいかにも『不意をくらいました』と言う顔をして
それから笑い出した。
「っはっは。ダナ。
なぁんか霜月には嘘 ばれちまうんだょなぁ」
「あら?何でも見破られるわけじゃないわ」
今回 貴方がわかりやすかったのょと頬杖をついて瞳を閉じた。
まつげの長い影ができる。
「...憂いの天使だな」
「....ぇ??」
「霜月の今の顔」
今度は刹那が不意をくらう番だった。
ニカッとイタズラっぽく笑うと 由澄は自分の席から教科書を取り出すと
「お前 もう暗くなんだから早く帰れよ?」
と出口へと足を向けた。
「あら 心配かしら??」
からかうように刹那が聞くと
由澄は振り向きもせずに言った。
「夜は危ねぇかんな」
「どうして?」
アタシはこう見えても力はあるわょ?と刹那は不思議そうに首を傾げた。すると 由澄は出口で立ち止まり 振り向いて言った。
「...殺魔族 でっからょ」
「ふぅん。千歳君は信じているんだ?殺魔族の『末裔』??」
「あぁ」
その笑顔が少し悲しげに見えたのは
夕焼けのせいか。
刹那には判断が付かなかった。
しかし....
「あの『殺魔族』があんな簡単にやられて
その上 滅んじまうなんて あり得ねぇだろ」
刹那はその笑顔の向こうに何か 隠しきれない傷があるのだと確信した。
「そぉね。
最近は物騒だし もう帰るわ」
その言葉をきいた由澄は
何事もなかったかのようにいつもの笑顔で部活へと戻っていった。
すっかり静かになった町中。
涼やかな風が民家の風鈴をならす。
街灯はポツポツと道ばたにあるだけで道全てを明るく照らしているわけではない。
その街灯の上に
ストレートの髪の長い1人の少女が 軽やかにたたずんでいた。
そしてクスクスと笑いだした。
「こんな夜に
殺魔族は『狩る』のよ」
愚かな人間を。
卑劣な人間を。
排除するため。
命令されたままに。
そこに感情は持ち出さない。
「私の存在理由など.....
『殺す』こと意外にあるはずもないのね」
愚問だわと クスクスと笑い続ける。
『そうだな。
それでこそ我ら『殺魔族』の末裔だ』
風が月にかかっていた雲を払った。
満月だ。
満月は光り輝き 『殺魔族』末裔の全身を照らした。
その長い髪は 金色に光り輝いていた。
「私は生まれたときから『殺魔族』だったのよ??
こんな愚問があって??」
これじゃ 私がわざわざ好きこのんで『殺魔族』になるために生まれてきたみたいじゃない。
『殺魔族』末裔は少し頬を膨らました。
『まぁ そうふてくれるな。
違うのだから放っておけばよいであろうに。
ともかく 今は仕事だ』
声の主はどこにも見えない。
しかし 『殺魔族』末裔にはその存在がどこにあるのかはっきりと分かっているらしく捜そうともしない。
「えぇ」
すると 街灯の下を1人の成人男性が通った。
「ねぇ。キーパ??
今晩の獲物はあいつよね?」
『あぁ』
「そう」
男性だと 大助かりだわと『殺魔族』末裔はほくそ笑んだ。
「色香で落とせるわ」
そして 音もなく地面へ舞い降りた。
『うむ。
では十分に楽しむがよいぞ。
刹那』
「あら 仕事の時は沙羅って呼んでっていったじゃないのょ」
『ぅむ。そうであったやもしれぬ』
「そうだったのよ。
それに....」
楽しんだら 次の仕事と比較してしまうじゃない。
次の仕事が面白くなかったら やる気が失せるわ きっと。
『ならば 全て楽しめばよい』
「....それもそぉね」
刹那はクスクスと笑いながら少々前を歩く成人男性の背中に呼びかけた。
「今晩は 月がきれいね」
よかったら一緒にご覧にならない?と.....
月明かりは
より一層 金の髪を美しく彩った。
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