You’s World

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10万打記念フリィ小説 香稚 ハル様ょり。































+夏の泡+





























雪が降っている。
仰向けになった自分の視界の向こうは、確かにそうであるはずだった。
ただ自分の視界に映るのは、例えば昇る泡のような。
見覚えのあるその泡は、大地の向こうに溶けて消えた。

「…サイダーだ」

一年前の夏の日に飲んだサイダーは、ずいぶん懐かしい味がした。

そういえば何年も飲んでいなかったと。
最後に飲んだのはきっと彼らとの日々だったと思い出した。

「美味しかったな」

味はまぁ、正直言って甘かった。
ただそれでも、美味しかった。

「また飲む?サイダー」

不意に掛けられた声に上半身を起こすと、サクラが穏やかに佇んでいた。
泡の中を薄紅が泳ぐ。

「気配消すの上手くなったねー、サクラ」

振り返ってそう笑うと、何言ってんだか、とサクラも笑った。

「サイダー飲みたいの?ていうか、風邪引いちゃうよ、先生」

「ちょっとね、センチメンタルなの」

冬は寂しい季節でしょ、と真面目くさって続けてみる。
するとサクラは気が抜けたように破顔して、自分の隣に腰掛けて仰向けになった。

「気持ち良い~」

「濡れちゃうよ、サクラ」

「乾かせば良いわ。大丈夫。それにずっと書庫に籠もりっきりで疲れちゃって」

冬の空気が好きだと笑うサクラは、ずいぶんと大人になったように見える。
知らない横顔がそこにはあった。

「アカデミー、静かで良いよね」

「不法侵入だけどね」

「“先生”がいるから大丈夫でしょ」

屋上の入り口の上の高台に寝転がり、仰向けになって地を見上げる。
指先にも雪が降り積もったが、それを払う気には何故だかなれなかった。

「ほんと、サイダーみたいね」

「ね」

サクラの伸ばした手が視界に入る。
宙を泳いで雪を掴む。

「溶けちゃった…」

「うん」

「やだな、消えちゃうんだもん」

もうしばらくサイダーはおあずけ。
そう微かに目を閉じて笑った。





























あの日、彼らは確かに十二歳だった。
自分の胸ほどしかないその身長で所狭しと動き回り、同時に皆それぞれに大人だった。
あの夏の日、サイダーでも飲むかと連れ出したのは自分だった。
里の混乱の中、彼らはそれぞれにはしゃぎ、視線を器用に巡らした。
妙に感慨深く見守る自分をサクラが見やり、意味ありげにクスクスと小さく笑う。
大変ねと付け加え、二人を追いかけ軽く駆けた。

今日と同じくアカデミーの屋上にたむろして、夏の暑さを直で感じた。
サイダーが4つ柵の上に並ぶ。
夏の光を内包し、地面に光る影を作った。
それにナルトが飛び込んで、光る足元にサクラが笑う。
昇る泡越しに里を眺め、ナルトが噛み締めるように呟いた。




『俺ってばサイダー超好きだ』




そう、笑った。

夏の光に生ぬるくなったサイダーに口を付けてみると、それは幾分甘さを増した様だった。
舌先に感じる刺激を習慣的に無意識に分析する。
問題無い、毒は無し。
習慣付いたそれは結果を弾き出すまでにものの一秒掛からなく。
記号化した感情を流してしまうかのようにグイとサイダーを飲み込むと、喉の奥がピリリと痛んだ。



彼らはまだ十二歳だった。
しかしそれでも、味覚以外で味を知ることができるようで。
甘いものが苦手なサスケが文句も言わずに飲み続けるのは、きっとそんな理由なんだろうと思う。
“大人”の定義は難しく曖昧で、同時に無意味だと思うことがある。
尺度の違う物差しは、物事を歪んで均等に見せた。
喉の痛みはその矛盾をつつかれているような感覚で。

難しいよ先生。

限り無く臨機応変であったかつての師の顔を思い出す。
味覚以外の感覚で、甘く痺れるサイダーの味を噛み締めた。



















「私ね、カカシ班が大好き」



















凛とした声が脳に響く。
現実に引き戻した声の先を見つめると、サクラが穏やかに笑っていた。

「どしたの?急に」

「言葉にするのも大事かなって思って。言わなきゃそれで終わっちゃう事ってきっとあるもの」

言わないでいるうちに消えちゃったら嫌じゃない。
そう静かに呟いた。
薄暗く鋭い外気の中、見上げた大地だけが白く光る。
その中に泡が還っては消える。
静かに静かに降り積もって、あの日のように溶けて消えた。

「俺もお前たちのこと大好きだよー」

「うん」

「素直でガキで。優秀でワガママで」

「うん」

クスクスとサクラが笑い、ほんとにねと頷いた。

「子供なのよ、カカシ班は」

集まると妙に子供になる。
嬉しそうに、そう笑った。


吐く息は白く、すぐに熱は奪われる。
両手を空へ真っ直ぐに伸ばし、サクラは少し目を閉じる。
それからゆっくりと空を見つめ、掌で泡を捕まえた。









「強くなりたいな…」









溶けた想いを噛み締める。
あの日のサイダーは、今も喉の奥でチリリと痛む。
茹だる様な暑さの中の、あの甘い痺れが続いている。


手を伸ばし続けるのはそんな理由。
羨望と不安の夏の泡。



















END 【You's World】管理人『風上 遥』より 一言。

10万打 おめでとうございますv(遅
この素敵な小説フリィ ぁりがとぉございます(ぉぃ
【KING FISHER】の管理人様 ハルさんにはお世話になっています。
今後とも 頑張ってくださいv
応援申し上げますですv

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