You’s World

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10万打記念フリィ小説 【続3】


この話は【夏の泡】の続編です。
先に【夏の泡】をお読みになって
こちらにお目をお通しください。







私を救っていたのは貴方への憧れでした



















+紅碧+



















「も~っ駄目だ!もー疲れた!」

バッと両手を上げて天を仰ぎ、妙に色気のある年若い女が溜息を吐く。
その横で小さく苦笑して、床に落ちた書類を拾い集めた。

「あと少しですよ、綱手様」

「それ、三時間前にも聞いたぞ」

「そうですか?」

お茶でも煎れますねと笑うと、女は疲れきったように机に突っ伏した。

「サクラ~、熱い緑茶にしてくれ~」

「今煎れてますよ~」

同じ様な声の調子でそう返すと、女は満足そうに顔を上げる。
しかしすぐに眉間に皺を寄せ、自分に向かって手招きした。

「腕に三カ所、足に二カ所。それから睡眠時間も足りてない」

口早にそう言って溜息を吐き、重厚な椅子に座り直す。
師匠であるこの女性の地位というものを、今更ながらに思い知る。

「サクラ、お前もっと自分のこと大事にしな」

咎められて示された先に視線をやると、なるほど真新しい傷痕が幾つもある。
ただ、彼女がそう眉を顰めるのにももう慣れた。

「大事ですよ?強くなるのも勉強するのも自分のためですもん」

私、自分のこと大好きなんです。
そう笑う自分が滑稽に感じられ、言ってから自分自身に眉を潜めた。

「…もっと自分自身を尊んでも良いだろうと言ってるんだよ、私は」

ぽんと頭に置かれた手は優しかった。
あぁどうして
私の周りはどうしていつも

「師匠って、優しいですよね」

「あ?私は優しくないぞ。これは信頼と期待だ」

そう穏やかに笑う師匠の顔が、眩しすぎてまだ見れない。
こうして笑えるようになるまで、この女性はどれ程歯を食いしばってきたのだろう。

「とりあえずちゃんと睡眠はとりな」

「はい!」

「よっし良い返事!」

「じゃあ午後に少し多めに休憩入れても良いですか?」

足りなかった休憩のために、と笑うと、彼女は呆れたような笑顔を見せた。

「わーかったよ!ほら、天気も良いし昼食にでも行ってきな!」

「はーい!」

視線を追って顔を上げると、空は高く広かった。
目が眩んで反射的に顔を下げる。
青い青い空が目に焼き付いた。
どこまでもどこまでも広がっている。



きっと
どこかに









「居るはずだよね」



















思い出すのはあの夏の日。
皆で集まった最初で最後のあの夏の日。
彼が隣に座っていた。
空が高くて気持ちが良いと。
そう微かに笑っていた。

いつか気が向いたら散歩に付き合わせてね

そうダメ元で呟くと、あぁと小さく頷いてくれた。



例えば彼のそんな空気が好きで。
隣にいる時間が大好きで。
幸せがどんなものなのか。
どんなに大切なものなのか。
拾い集めるように噛み締めて、サイダーと共に飲み込んだ。









ねぇサスケくん
貴方の世界にあの日の空はまだありますか?

彼の視線の先に憧れた。
それでもそこを追ったりはしない。
面影を探したりは、もうしない。

きっと、いつか
今度は必ず









「迎えに行くよ」









空を見上げなくなったのは、そんな理由。
あの夏の日を待っている。









side SAKURA - 紅碧(べにみどり)



【KING FISHER】
       香稚 ハル様

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