You’s World

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普通の裂け目◆7◆


裏切られる事で心を閉ざす事を覚えた。

朝。
一番嫌いな時間帯。
眠い、とかそんな事を通り越して
詩夷の友人が来るのが嫌いだった。
ほぼ毎日やってきて2言3言交わし去っていく。
桧埜はその間
会話を聞いてるフリをしながら
心を閉ざしていた。
2人の言葉が耳に
心に入ってこないように。

昔から独占欲や優越感が強かった。
加えて、入学と同時に教室へは行かず
この部屋に通い始めた桧埜に
そんな友達は居なかった事が災いした。

「早く行ってしまえ」

そう思ってしまう自分が桧埜は大嫌いだった。
自分のものでもなんでもなく
ましてや、詩夷の友人より付き合いの短い
自分がそんな事思うのには腹が立った。


「こんなこと思ってるの知られたら引かれんだろうなぁ…」

制服を脱ぐのももどかしく
ボタンを一つ外しただけの格好で
桧埜はベットに寝転がりそう呟いた。

自分から誰かが離れていく事には慣れてはいたが
それでも、悲しいと思うのは事実だった。

見上げた先にある真っ白な天井は
蛍光灯の光を受け柔らかく光っていた。


下らない思いをひた隠し押さえつけるのに必死で
寒さが其処まで迫る季節になったことに桧埜は気づかなかった。


「もうそろそろテスト…だねぇ。」

珍しく2人して本を読んでいた。
そんなとても静かな中で詩夷がポツリと言った。
「うん。」
桧埜は答えるのと同時に
本のページをはらりとめくった。
「どうする?」
詩夷は少し間を置いてから問うた。
少し沈黙が流れた。

2人は西沢から
「テストは受けるように」と言われていた。

桧埜はこんな小さな事に逆らうのも面倒だ、と思い
「受けるよ…詩夷は?」

いつの間にか季節だけでなくお互いの呼び方も
“ちゃん“付けから呼びすてへと変わっていた。

少しの間本のページをめくる音がして
「受けるよ…仕方ないし。」
と思い出したように答えが返ってきた。

また沈黙が流れた。
その後沈黙を破ったのは
本のページをめくる音だけだった。


「赤点…ばっかりだろうなぁ…」

その日の帰り道で桧埜は
ポツリと呟いた。

その頃二人は教室に一切行かない
という日々を過ごしていた。
そんな中で「テスト」に
特に2人の通う高校の「テスト」の内容に
ついていけるとは思えなかった。
不合格点の30点。
つまり赤点は必至だったのである。

「じゃあさ、赤点とろうよ!
 えっとねー…赤点同盟!
 うちら今日から赤点同盟!ね!」
朗らかに言う詩夷に
桧埜はにやりと笑って見せて
「いいね、赤点同盟v」
2人は顔を見合わせ笑った。
夕陽は紅く優しく2人を包んでいた。


「やった!赤点じゃない!」

詩夷は返ってきた答案用紙を怖々覗き
次の瞬間声をあげた。

桧埜は笑顔を作ったその下で
赤でぶっきらぼうに書かれた「17」を
そっと強く握りつぶした。

蛍光灯の光に目が眩んだ。


―裏切られた。
桧埜は瞬間的にそう思っていた。

そうではないのに。

詩夷は、テスト前勉強を頑張った。
桧埜は「分かんなーい。」と放棄した。
それだけだ。

点数の差は当然の結果だった。


だけど桧埜はそうしなくては、
詩夷を裏切り者にしなくてはやっていられなかった。
とったこともない低すぎる点数に
プライドはボロボロで。
受け入れたくなかったのだ。
自分の非を認めたくなかったのだ。



最低の行為だった。
そう気付いたのはもっと
ずっと後になってからだった。

<世古月 柚side>

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