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2015年02月13日
グルテンフリーダイエットって誰が必要なの?
食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。
この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、
ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、
論文や米国での状況などを交えながら、
健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
日本では2年ほど前に注目を集め始めた「グルテンフリーダイエット」。
「低炭水化物ダイエット」に続き、人気を高めてきているようですが、
科学的根拠については当初から疑問視されていました。
実際には、何のために“グルテンフリー”が推奨されているのでしょうか?
米国では2012年ごろから
「グルテンフリーダイエット」と呼ばれるダイエットが大人気です。
直訳すると「グルテン除去食」。
著名人が「グルテンフリーダイエットで減量成功」などといった例が多数メディアで紹介され、大きな話題になっています( 関連記事
)。
ところがこのグルテンフリーダイエット、
実は一般人(特定の病気などではない人)にとって健康上のメリットがあるかどうか、はっきりとした科学的な証拠は出ていません。
それどころか、グルテンのメリットを失う可能性も指摘されています。
米国アリゾナ州立大学(Arizona State University)のグレン・ガエッサー教授らは、
グルテンフリーダイエットを一般大衆に勧めるのは、軽卒なことではないか? という疑問を投げかけています。
今回はその報告を解説していきましょう。
■参考文献
Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics「 Gluten-Free Diet: Imprudent Dietary Advice for the General Population?
」
グルテンって何?
グルテンは、小麦やライ麦、大麦などの穀物に含まれているタンパク質です。
詳しく解説すると、小麦粉などの穀物には
グリアジンとグルテニンという2種類のタンパク質が含まれていて、
水を加えてよくこねると両たんぱく質が絡み合い、粘りや弾力性のあるグルテンになります。
小麦粉はグルテンの量が多いものから順に、強力粉、中力粉、そして薄力粉と呼ばれます
(英語でも同様にstrong flour、medium flour、weak flour)。
粘りが強く出る強力粉は焼いたときによく膨らむので
パンやピザなどに、キメ細かくさっくり仕上がる薄力粉は
クッキーやケーキ生地、天ぷらの衣などに最適です。
そしてグルテンフリーダイエット、つまりグルテン除去食は、
セリアック病やグルテン過敏症、小麦アレルギーなど、グルテンの摂取が原因とされる
疾患の増加とともに注目されるようになりました。
セリアック病は、グルテンによって引き起こされる自己免疫疾患です。
自己免疫疾患は、免疫システムが誤作動して、身体が自分の組織を攻撃する病気です。
本来免疫システムは、何かの物質(例えばウイルスやアレルゲンなど)が
身体に入ってきたときに、異物あるいは危険な物質だと認識すると、
身体を守るために発動し、物質を排除しようとします。
ところが免疫システムが誤作動して自分の細胞や臓器に反応すると、
それらを排除するための抗体を作り出して、特定の臓器や部位を攻撃するようになります。
すると体内に障害や炎症が起き、全身性の症状が出ることもあるのです。
セリアック病の場合、グルテン摂取後、小腸の粘膜に炎症が起こり、
栄養の吸収が阻害されます。
その結果、腹部膨満感、腹痛、下痢や便秘、栄養失調、鉄欠乏性貧血、疲労、
骨粗しょう症など、さまざまな症状をきたします。
有病率は欧米で約1%と言われ、遺伝的な要因が大きいとされています。
しかし徹底したグルテンフリーダイエットにより、
消化器がんなどの発生率が低くなると報告されており、セリアック病患者にとっては確立された治療法といえるのです。
グルテン過敏症(あるいは非セリアックグルテン不耐症=nonceliac gluten intolerance)は、
グルテンに対し過剰な免疫反応が生じる疾患です。
セリアック病とは違い、自己免疫疾患ではありませんが、
遺伝的要因に影響されやすいのが特徴です。
日本では、
「PMSや慢性疲労、便秘などの症状がある原因不明の不調はグルテン過敏症が原因かもしれない」
などと女性誌などで取り上げられてきているのでご存じの方もいるかもしれません。
一般的な症状は、ガス、腹部膨満感、下痢などの胃腸障害、疲労や頭痛などさまざまで
(多くはセリアック病に類似)、ほとんどがグルテンフリーダイエットで改善します。
小麦アレルギーはグルテンに限定されず、小麦そのものにアレルギー反応を示すものです。有病率は、欧米諸国で約0.1%と推定されています。
日本では化粧品に含まれていたことが原因で
経皮感作による小麦アレルギーを発症した例が多発したことがありました。症状としては、じんましんや発疹、腫れなど皮膚に出てくるものと、皮膚だけでなく
呼吸困難など全身の臓器に症状が出るアナフィラキシー(重いアレルギー反応)があります。
小麦アレルギーと診断された場合、小麦の摂取を避けます。
グルテンフリーダイエットはまた、自閉症スペクトラム
(autism spectrum disorders、ASD:広汎性発達障害を、
重い自閉症からアスペルガー症候群まで、連続的にとらえた概念)の方々が、
症状改善目的で利用しているとも言われます。
ところが、現在までのところ、ASDに対する
グルテンフリーダイエットの有効性を支持する決定的なデータはなく、米国小児科学会は、ASDの一次治療としてグルテンフリーダイエットを支持していません。
その他、グルテンフリーダイエットで全身性エリテマトーデスや疱疹
(ほうしん)状皮膚炎、過敏性腸症候群、関節リウマチ、1型糖尿病、甲状腺炎、および乾癬(かんせん)による全身や胃腸の症状が改善する可能性が報告されています。
人気のグルテンフリーダイエットですが、セリアック病やグルテン過敏症以外で、
減量の効果を支持する報告はありません。
ただし、セリアック病の方に関しては、グルテンフリーダイエットの効果として
体重変化が挙げられた研究が多数あるのは事実です。
とはいえグルテンフリーダイエットは、必ずしも低エネルギーという意味ではなく、
またグルテンフリーの小麦粉やパスタなど、さまざまな除去食品はあるものの、
そうしたグルテンフリー食品の中には、
グルテン含有の同様の製品より高カロリーなものもあるのです。
さらに、グルテンフリーのダイエット食品の中には、
全粒穀物より繊維が少ないものもあり、全粒穀物を摂取するよりかえって太る原因になりかねないと懸念されています。
グルテンフリーダイエットや低炭水化物ダイエットの流行で“小麦製品=太る”
ようなイメージを持つ方もいるようですが、本当にそうなのでしょうか?
実際、小麦は米国で最もよく消費される穀物で、
典型的な食事中のフラクトオリゴ糖、イヌリンの約70%~78%を占めています。
フラクトオリゴ糖は、ショ糖に1~3個の果糖が結合した難消化性のオリゴ糖です。
にんにく、アスパラガス、ねぎ、玉ねぎ、ごぼう、大豆などに多く含まれており、
低エネルギーの甘味料にも使われています。
フラクトオリゴ糖は腸内の善玉菌を増やして活性化させ、腸内環境を酸性に維持します。
また免疫機能の強化、高脂血症の改善、便秘の改善、
血糖値の抑制などの作用があるとされています。
イヌリンは、自然界においてさまざまな植物によって作られる多糖類の一群で、
果糖の重合体(ポリマー)。
栄養学的には、水溶性食物繊維の一種です。
砂糖やほかの炭水化物に比較すると3分の1から4分の1程度のエネルギーしか含まず、
脂肪と比べると6分の1から9分の1程度という、低エネルギー成分です。
カルシウムの吸収を促進したり、腸内細菌の活動を増進させたりします。
食事と腸内細菌の相互作用は大腸の健康に重要で、
特定のがんや炎症状態、心血管疾患を予防するともいわれますから、
大きなメリットといえます。
つまり、グルテンの含まれている小麦などの穀物には、
グルテンそのものの健康への長所だけではなく、フラクトオリゴ糖やイヌリンなどによる利点もあるのです。
炭水化物は、消化されて約4kcal/gのエネルギーを生み出す消化性炭水化物
(いわゆる糖質)と、消化できずに腸内細菌が醗酵分解して
0~2kcal/gのエネルギーを生み出す難消化性炭水化物に分けられます。
後者には、食物繊維や糖アルコールが含まれます。
小麦由来の難消化性炭水化物は、食後の血糖及びインスリンの増加を抑え、
空腹時の血中(血清)中性脂肪を減らし、さらに体重を減らすことが報告されています。
またフラクトオリゴ糖は、免疫状態、脂質代謝、
およびビタミン・ミネラル吸収を改善するとされます。
ですから厳格なグルテンフリーダイエットは、
逆に健康に悪影響をおよぼす可能性があるのです。
事実、最近ではグルテンフリーダイエットが
有益な腸内細菌を減少させる可能性まで示唆されるようになりました。
小麦や炭水化物のメリットだけでなく、
グルテン自体もセリアック病やグルテン過敏症以外の、高脂血症の方の食事療法として、有益という報告もあります。
高脂血症と診断された24人の成人に、
2週間、小麦グルテンの消化を増やす食事を指示したところ、
13%の人の血清中の中性脂肪が減少しました。
またグルテンには、血圧調節や免疫システムに重要な役割があるのではないか
ともいわれています。
グルテンは、簡単に言えば、植物由来のタンパク質です。
タンパク質としてのグルテンを理解するために、まずは植物由来のタンパク質と動物由来のタンパク質の違いに触れておきましょう。
タンパク質は、アミノ酸が結合して構成されています。
タンパク質を合成するために必要な20種類のアミノ酸のうち、
9種類は体内で合成できない必須アミノ酸で、残りの11種は非必須アミノ酸です。
アミノ酸の量や必須アミノ酸の割合は食品によって異なるため、
通常、アミノ酸スコアを用いて食品たんぱく質の栄養価を評価します。
アミノ酸スコアは、国際連合食糧農業機関(FAO)や世界保健機構(WHO)
の提示する国際基準値を100として、
該当する食品に含まれる9種の必須アミノ酸の量を比較します。
それぞれどの程度含まれているかを数値化し、
そのうち最も不足している必須アミノ酸(=第一制限アミノ酸)を数値で示します。
これは、アミノ酸全体の働きは不足するアミノ酸(=制限アミノ酸)に支配されるからです。
タンパク質を体内で利用するためには、
必要な必須アミノ酸をバランスよく含んでいなければなりません。
いわゆる高タンパク質食品とは、アミノ酸スコアの高い食品を指し、
その値は100に近くなります
(あくまでも第一制限アミノ酸のスコアが国際基準をほぼ満たしている
=100に近いのが高タンパク質食品であって、
それぞれの必須アミノ酸の含有バランスが偏っていないとは限りません)。
肉や魚、乳製品など動物性タンパク質のアミノ酸スコアは、ほとんどが100です。
一方、植物性タンパク質は、例えば大豆が86、米が65、トウモロコシが42、
小麦は37などというように、
アミノ酸スコアが低くなります。
小麦グルテンには必須アミノ酸のリジンが不足しているため、
アミノ酸スコアは45くらいと低めです。
となると、慢性腎不全などでタンパク質摂取量が制限される疾患の場合、
グルテンはあまり摂りたくないタンパク質となります。
なぜならアミノ酸スコアが高い高タンパク質食品を取ったほうが、
補給できる必須アミノ酸量が多いからです。
つまり栄養的には価値が低めのタンパク質ともいえます。
となるとやはり、グルテンの摂取にメリットはないのでしょうか?
そこでグルテンの摂取にメリット今回、ハーバード大学研究員、管理栄養士の
佐藤佳瑞智先生にも話を聞きました。
「物質としてのタンパク質の構造は、分子の大きさで見て1次(アミノ酸配列)
から4次(いくつかのサブユニットが結合したもの)までありますが、食品=栄養という観点からはそれぞれ意味が違います。
小腸上皮を通して体内に入れるのは、
原則的にジ・トリペプチド(アミノ酸が2個ないし3個つながったもの)
までですので、1次構造が重要です。
生体内でいろいろなタンパク質を合成するときの基となるアミノ酸の補給
という意味ではここが重要ですよね。
特に必須アミノ酸は体内で合成できないので、
9種類の必須アミノ酸をまんべんなく含んだタンパク質
(ほとんどの動物性たんぱく質)は食品として優秀なわけです。
例えば食物から摂取したタンパク質を全て消化することができて、
すべてトリペプチド(アミノ酸3個)以下のアミノ酸に分解することができるなら、
タンパク質をアレルゲンとする食品アレルギーは今よりずっと少ないはずですが、
実際私たちの消化器官はそこまで完璧ではありません。
未消化のタンパク質や大きなペプチド(アミノ酸の鎖)は
免疫細胞の持つ抗体のエピトープ(抗体が認識する抗原の一部分のこと)
となって免疫反応に作用するため、
アレルギー反応を引き起こすことはご存知のとおりです。
ここでは1次だけでなく2次構造(アミノ酸の鎖がとる、らせん構造やジグザグ構造、
あるいは不規則な構造)、3次構造(2次構造がさらに折れ曲がった立体構造)
まで問われますね。
さらにある種のポリペプチド(アミノ酸が連鎖した化合物)は生理作用を持ちます。
またトリペプチド程度の小さなペプチドでも、
例えば血圧降下作用を持つといわれている牛乳由来のラクトトリペプチド
(発酵乳から同定・分離された乳由来のトリペプチド
〈アミノ酸3個の鎖〉2種の総称)など、
タンパク質合成のためのアミノ酸供給源としてだけでなく、
特定の生理作用を持つものもあるようです。
そこで、グルテンおよびグルテンペプチドの作用ですが、
もちろん消化を受け、小さなペプチドやアミノ酸になって、
タンパク質合成の素材になります。
これは数千年前から小麦を主食としてきた人類が、
小麦から受けた恩恵の最たるものだと思います。
たとえグルテンが栄養学的に価値の低いタンパク質であったとしても、
アミノ酸源としては重要であり続けているわけです」(談)
なるほど、やはり、単にアミノ酸スコアが低いからといって、
私たちの食事から排除する必要はないのですね。
グルテンをできるだけ排除しようとするグルテンフリーダイエットは、
あくまでもセリアック病またはグルテン過敏症を持つ方には有効なダイエット法
となり得ますが、
健常な方はグルテンの恩恵も忘れてはならないようです。
動物性タンパク質を摂りすぎると、腎臓機能が低下するということが懸念されます。
一番大切なのは、動物性タンパク質と植物性タンパク質を上手に組み合わせた食事を摂取することです。
グルテンフリーダイエットは、
セリアック病またはグルテン過敏症には有効といえますし、
乾癬、関節リウマチ、1型糖尿病およびその他の自己免疫疾患の方に有益である
可能性があります。
しかし健常な人の減量効果を支持するデータは、やはりないのです。
実際、グルテンフリーの焼き菓子などは、脂肪と総カロリーが高くなることがあります。
そればかりか腸内細菌、血圧調節、免疫システムなどに、
かえって悪影響を与える可能性もあるというわけなのです。
グルテンフリーダイエットが必要かどうか、
個々の体質や健康状態と相談しながら、慎重に考える必要がありますね。
グルテンも立派なタンパク質、重要な栄養源のはず。
正しい知識と理解を得て、「盲目的に完全排除」といった行為に陥らないようにしましょう!
大西睦子(おおにし・むつこ)

医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、
東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。
2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、
ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。
2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。
著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』
”洞爺湖・夏の地場野菜” 2016.08.21
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