雪月花

セレブレイト












 始まり、は先にわかる。
 終わり、も先にわかる。

 始まり、を拒まない自分も、
 終わり、をそそのかす自分も。

 いっときの麻酔薬のような「それ」は、とろとろと肌触りがいいだけで、結局は首を絞める真綿でしかない。そうであっても、頬をすりよせずには居られないものが、「それ」なのだ。「それ」は名前を持たない。顔も持たない。ただ声と、無防備かつ純粋な愛情に似たものと、体温と、力強さ。優しさででもいい、強引さでもいい。

 束の間、なにも考えたくないだけなのだから。

 ああ、また始まるんだな。そんな風にぼおっと傍から見つめているあたしと、今ここである種の危機にあるあたしとが、一体になれたらいい、それだけなのだから。

 あたしをね、セレブレイトされた人間だと言ってくれた人がいたんだ。あなたは愛されている。あなたの周りには人が集まっていつも何かが起こるんだ。そんな人はなかなか居ないんだよ。あなたみたいな人は、と。
 そうだよ、あたしはいつも愛される。そしてあたしの周りにはいつも人が集まって何かが起こるんだ。それは完全に本当だよ。ただあなたの意味したところと、あたしの思い当たったところとは少しずれている。残念ながら。セレブレイト。祝福されているのなら、あたしはきっと、もっと満ち足りている。肌寒い心など知らずに笑えるはずなのに。

 また何かがきっと始まる。
 あたしは足を踏み入れる。

 足首を離された方が良かったのは、アキレスだ。あたしじゃない。ぜったいに。









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