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2006/09/14
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カテゴリ: 恋愛小説(連載)
【「きっと、二人なら…」を最初から読む】 【目次を見る】

 さすがに深夜ともなると、道路際に建ち並ぶ家やマンションの窓にもカーテンが引かれ、ところどころカーテン越しに白い蛍光灯の灯りが漏れている程度で、他は闇に閉ざされている。
「早川、お前もこっち来いよ!」
 尚吾と別れてからもなお、数メートル前方を歩き続ける亜紀へと純が声を掛けた。
亜紀は肩越しにうなづいて足早に貴子達の側まで歩み寄ると、純よりも数歩右斜め前に立って歩き出した。そうしなければ、いくら広い歩道でもさすがに大人三人が並んで歩けるほどの余裕まではなかったからである。
「俺、来週長崎帰るから、早川と相田さんも良かったら遊びに来てよ」
 歩きながら肩越しに二人の方へと顔を向けて、亜紀がにこやかに言う。すると純がすぐさま
「早川、貴子とは幼馴染なんだろ? いいよ、無理に堅苦しい呼び方しなくてもさ」と笑顔で返す。
「なぁんだ、知ってたのか。三坂から聞いたの?」

「いいな、幼馴染とかって。俺、そう言うの居ないから、ちょっと羨ましいかも」
「そう? 兄弟みたいな感じだよ。よくドラマや漫画で見るような、ロマンチックさなんて皆無に等しいし」
「何それ? そんなに色気ないの? 貴子って」
亜紀の話を聞いた純が、そう言ってあははと笑い出した。
「あまりにも近すぎるとね、色気とかって全くわかんないもんなんだよ。まぁ、それに相手がたかちゃんだしね」
「早川、ひでぇ! その言い方」
純はお腹を押さえながら、必死で笑いをこらえるも、ついクククと笑いが漏れてしまう。
「ちょっとー! あっちゃん! 人がおとなしくしてるからって、好き放題言わないでよね!
私のどこが色気がないってのよ!? 私もう十九なのよ。あっちゃんより四ヶ月もお姉さんなんですからね!」
「たかちゃん、そう言うのを俗になんて言うと思う?」
肩越しに貴子を見やる亜紀の顔を、きょとんと首を傾げて見上げる貴子。

にこり、と亜紀から思いっきり爽やかに微笑され、貴子の何かがぷつっと切れた。
「なんば言うとね! 私は童顔ばいっちばん気にしとると! こないだだってバイト先で、お客様から小学生と間違われたとばい!
ねぇ、どげん思うよ、小学生ばい 小学生! ちょっとひどすぎん!?
こげんセクシーな十九の娘ば捕まえてから、小学生はなかやろう」
 いきなりの方言丸出し。貴子のその豹変ぶりに、純はまるで珍獣にでも遭遇してしまったかのように、驚き顔で唖然として彼女を凝視している。

そのちょうしでバス代やら電車代、はたまた映画のチケットに至るまでぜ~んぶ子供料金にできたら、えらい生活費削減することのできるばい」
「そいじゃ犯罪やろがぁ!!」
「そうとも言う」
二人の方言丸出しの会話を聞いているうちに、徐々に胸底から笑いが込み上げてきて、ついに純は吹き出してしまった。
「ふはは、お前ら二人、ほんっと面白いよな? もう、さいっこう! 二人でお笑いコンビでも結成すれば?」
そう言いながら、内心では亜紀と貴子の関係がとても羨ましくてたまらなかった。
有りのままの貴子を引き出せるのは自分ではなく、この右斜め前を歩く童顔の友人だけなのだ。
分かっている。二人が一緒に居るのを見たあの日から、ずっと気づいていた。
けれど純はその事実から目を逸らし続けてきた。怖かったから…
それを認めてしまえば、彼女はすぐにでも自分の手の届かないところへ離れて行ってしまいそうで…
それが、どうしようもなく怖かった。
けれど結局、どんなに純が二人から目を逸らしたとしても、別れは自然に訪れた。それは偶然などではなく、きっと必然だったのだろう。
「見た? 桜井。これが本来のたかちゃんの姿だよ。
ね? 色気も何もあったもんじゃないでしょ?」
 少しブルーになりかけていた純のことなど気づく由もなく、あははと楽しげに笑いながら亜紀が言う。そんな彼に「確かに色気零だな。何しろ既にその九州弁が笑いを誘う」と、純も笑いを含んだ声でそう答えた。
「全く失礼かねぇ、二人とも。なぁんで九州弁は都会で使うと笑われるとやろう? じゃぁさぁ、九州の女性達はみーんな色気のなかってこと?」
ふてくされて唇を尖らせる貴子へと
「いや、そいはちょっと違うごたる。さっきのはあくまでも、たかちゃんの話であって、九州の女性全員に当てはまる訳じゃなか。って、こげんこと普通説明せんでも分かるやろう!?」
と、慌てて亜紀が返すも、それは全くもってフォローになっておらず、より一層貴子をすねさせる結果となった。
「ふんっ、もうよか! あっちゃんも桜井君ももう知らん! どうせ私なんかコンニャクイモたい!」
言い終わらないうちに貴子は歩む速度を上げた。ぐんぐんと遠ざかって行く小さな背中。時折吹く生温い夜風が彼女の髪をサラリと持ち上げては、街灯に照らされたカットソーの白を更に明るく見せる。
「ちょっ、たかちゃん!」
咄嗟に彼女を追いかけようとした亜紀だったが、隣の純へと視線を向けると
「ねぇ桜井! 桜井はたかちゃんの彼氏なんだから、ちゃんと責任持ってたかちゃんの機嫌直してよ」と、顔は笑ったまま、からかい半分に言う。一瞬--純の顔が曇ったことに、彼が気づくことはなかった。
「無理だよ。だいたい元はと言えば、早川が怒らせたんじゃないか、貴子のこと」
「たかちゃん今はちょこーっとすねてるけど、桜井が甘い言葉吹き込んだらすぐに機嫌よくなるって」
「あぁ、無理無理。俺もう…貴子の彼氏じゃないし」
「え…!?」
 一瞬、亜紀は自分の耳を疑った。彼氏じゃない。彼氏じゃない…ってことは--。
「別れたんだ、俺達」
亜紀が尋ねるよりも先に告げられた純からのその言葉は、彼の心を激しく波立たせ大いに動揺させた。
~To be continued~




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最終更新日  2006/09/14 12:56:33 PM コメント(2) | コメントを書く


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