谷 甲州

『天を越える旅人』  谷 甲州

とりあえずはひとこと「おもしろいっ!」
山田正紀の『宝石泥棒』を知った時の感激に似ている

早い話
お坊さんが山を目指す
そういうお話なのだけど
これがなかなか複雑で・・・
谷甲州の作品を読む時に、ひとつのキーワードがある
それは<情報>
全てを情報という観点から解き明かしてゆく
時間、物質、エネルギーetc.
全てを<情報>に変換する事で
三次元的、四次元的、多次元的、無限次元的宇宙を理解させてくれる
その観点がとても斬新(といっても、そう新しい作品ではない)で
物理学的、天文学的な小難しい定義やら法則やらをちらつかせながらも
これが意外と、わかりやすい

ストーリーをざっと紹介
ミグマはチベットの僧院に幼くして預けられた身寄りの無い修行僧
彼は何度も同じ夢を見る、雪山(ヒマール)で寒さと恐怖に凍えて死にゆく夢
本当に死んでしまったのだと錯覚するほどに現実味を帯びた夢
その夢を解き明かすべく、夢に見た地を目指して旅に出る
曼荼羅に込められたメッセージを感じ取り、時間を空間を超える能力を導き出し
自分が、目指す場所を目前にヒマールで息絶えた人の生まれ変わりと確信し
さらに遥か過去から転生し続け、宇宙を探求し続けてきた存在である事を知る
過去の人格を統合し確固たる自己を確立して目指すのはヒマール
認識(ブッダ)とは?法(ダルマ)と智慧(サンガ)の統合は?方法は?
その答えをみつけたとき、ヒマールに続く大いなる宇宙の真理を見る資格を得る

‘山岳SF小説’とでも言えばいいのかな
タイトルにしてからが・・・なんとなく、小難しそう
だいたい、ほんとに死んでしまったかと思うほどの悪夢を何度も体験したら
自分ならもたない、それだけで息絶えてしまうことだろう
そう思うのだけど、ちっとも小難しくない、それにミグマは強い
それくらいでは死なない、いや死んじゃってるかもしれない
でもそんなことはどうでもいい、ミグマは何度でも時間をさかのぼる

時間を空間を移動して、未来を知り、過去をも変えてしまったら
違う人になってしまうのではないか
それが、私自身が常に持つ思いなのだけれど、
その思いに反しているようで、このストーりーは微妙に反していない
全てが統合されてこそ、ミグマなのだから

なんとなく、次がありそう
次がないと、待たされ続けるだけの人がいる・・・いや、魂がある
大いなる存在感を残したままの魂だから、続けないと。。。
谷甲州さま、お願いです
続きを書いてください 、あの魂を思い出して救ってやって下さい m(_ _)m


【谷甲州の作品】



『遥かなり神々の座』


『遥かなり神々の座』 谷 甲州

‘実は・・・実は・・・’の連続する激しいストーリー展開にのめり込んでしまい
厳寒のヒマラヤからの冷たさを隙間風ほどでも、瞬時でも感じようものなら
ストーブが熱く燃える部屋で、コタツに座り込んでいてさえ
風邪をひいてしまうかと思うほど、体温を奪われてしまう

主人公は日本人、滝沢、運の悪い登山家
度々の遠征失敗で仲間を失い帰国した滝沢を待つのは、別れを告げる恋人
そして、林と名乗る謎の人物の脅迫めいた依頼
舞台はネパール、中国チベット自治区に近いヒマラヤ山脈
目指すはマナスル山
滝沢は、カトマンドゥからマナスルへ向かう登頂隊の名目上の隊長となる
しかし実際向かうのはマナスルではなく。。。
やがてヒマラヤ周辺の国々と、チベットから蜂起したカムパゲリラの2派
それぞれの思惑に翻弄されての逃亡劇となる

私としては、自然に親しむのは好きなほう
海の潮の香りよりは、どちらかといえば山の木々の香りの方が好き
でも山登りは好きなほうではない、だいいち疲れるし、坂道苦手だし
子どもの頃海抜500メートルくらいの隣町の小山に上って充分懲りたし
ハイキングくらいならなんとかね
そこに山があるからという理由でか?
ハングリー精神?危険を求めてしまうものの性(宿命)?
何も、命をかけてまで、辛い体験しに行かなくてもね
私がのほほんとしてるおばちゃんだからわかんないんだろうか?
寒いの苦手だから目をそむけちゃうんだろうか?
山を求める人の気持ちはわからない
なのにこの本を読もうと思ったのは、単に谷甲州の書くものに興味があったから
これまでに彼の作品ではSFとジャンル分けされる物しか読んだことがなく
いささか抵抗があったのだけど、読み始めてすぐに惹き込まれた
チベットがらみのストーリーにも興味があったし
なかなか素晴らしいと思う
山が好きとか嫌いとかに関係なく
設定も20年以上も前のことだけど
時代が変わってしまったとかも関係なく
思わず地図を広げて、足跡を追ってみたくなる
そんな読み応えのあるストーリーでした

2003年12月記


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