セカイのオワリとイウ名の…

セカイのオワリとイウ名の…

先生へ。




あたしの大好きな貴女が泣いたのを見た。あたしの大好きな貴女が泣いたのを見て、胸がしめつけられる思いだった。

なぜだろう、と考えた。なぜ貴女は、他人のために泣いているのだろう。

どうしてなのか、わからない。

わからないのは、あたしが他人のために泣いたことがないからだろう。あたしは、自分のためにしか泣いたことがないから。

貴女は美しかった。すらりとのびた長い足に整った顔だち、高い背、よくとおる声をもっていた。そしてその全ては、あたしが持ち得ないものだった。

美しく明るくまっすぐな貴女を、あたしはいつも羨望の眼差しで見つめていた。あたしも貴女みたいな女性になりたかった。いつも、いつもそう思っていたのに。

あたしの大好きな貴女は泣いた。あたしのために、あたしの大好きな貴女は泣いた。
あたしのために、あたしのせいで。

だけどそれを見ても、どうして貴女が他人のために涙を流せるのかあたしにはわからなかった。わからないのは、あたしがあたしだから?

皆はきっと、他人のために泣くということを誰に教わらなくても知っている。
赤ちゃんが誰に教わらなくても生きるために泣くように。他人のために泣くのは、生きるため?

じゃああたしは死んでいる。生きながら死んでいる。

皆が当たり前にできることなのに、あたしにはできない。
皆がわかっていることなのに、あたしにはわからない。

あたしがどうして貴女になれないのかがわかった。

貴女は純粋な存在だった。

あたしがなぜこんなにも強く貴女に惹かれたのか、それはあたしと貴女が決して混ざり合うことのない存在同士だったからなのだ。
あたしは美しい貴女の美しい涙を見ながらぼんやりそんなことを考えていた。

あたしは世界に、この世界に適応できないのだろうか?いつのまにか混沌という名の砂にうずもれて消えてしまうのではないだろうか?・・・いや、もう消えてしまっているのかもしれない。

だってあたしは、生きながら死んでいるから。

だってあたしからは、自分勝手な涙しかでないのだから。カラカラに乾いた砂の中、あたしはゆっくり沈んでいく。
もう誰もあたしをつかまえられないけど、あたしも誰にも触れることはできない。

あたしは貴女を何度も泣かせた。その度にあたし自身も傷ついて苦しんで、痛かった。だけど貴女は、もっともっと痛かったことだろう。

あたしは大好きな貴女をずっと大好きでいたいから、もう貴女を苦しめたくないから、貴女の前からもう消えたい。

あたしは貴女のために泣くことができないけど、貴女のためにできることをしようと思った。

そのためならあたしはきっと何だってできる。

大好きな貴女へ、ありがとう。大好きな貴女へ、ごめんなさい。
貴女のことを大好きなあたしのことを忘れないで・・・


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