ペトラプト・パルテプト

第1話 頭痛 その 2

『 おかえりなさい! 』






第1話  頭痛  ~ Mal de tête ~ 中編








そのきっかけは一昨日のお昼休みでの出来事だった。





私はいつも社員食堂でお昼ごはんを食べている。


職場の机でもいいのだが、ここの方がにぎやかだし、時々、いろんな人と食事できるのが楽しい。


ここなら悩めるぐらいメニューが豊富だから何を食べるのにも不自由しないしね。


それに持ち込みも全然OKなので、たまに朝早起きした日はお弁当を作ったりもするし、


コンビニで買ったものを持ち込んだりもしている。








「なぁ、巴ぇ~。明日、あんた空いてるやろ? ちょっとつきおうてよ。」





会社の飲み友達である理紗が声をかけてきた。


職場では2つ上の先輩だが、年齢は私と同じ25歳、大阪生まれ大阪育ち。


私が大阪に転勤以来、公私共にかなりお世話になっている。


もっとも、私にアルコールを教えた諸悪の元凶でもある。


まぁ感謝と恨みと半々程度かな!?







「えっ? 明日!? いきなり何よ? 私だって金曜の夜は忙しいかもしれないじゃない。」




「 またまた~! 巴に限って彼氏とデートなんかありえへんわ! どうせTSUTAYAで借りたDVDとか見るんちゃうん? 」







図星だ。なんでばれるんだろ? 確かに土曜日には返さないといけない。


いやそんなことより今週こそボージョレ・ヌーヴォーを開けようと思っていたのに。


今年の出来を占う意味でも…って、この焼酎派の理紗には通用しないか。







「え~なんでわかっちゃうのよ。もう!かないまへんわ~。」







私だって、だてに2年も大阪に住んでいない。少しだけれど関西弁には慣れてきたつもりだ。


ここぞという時には使ってみたくなる時があるのよね。







「あー巴…。ゆうとくけど、あんたの大阪弁、発音おかしいから、やめとき。今時、『かないまへん』なんて使うOLおれへんで。」







そうかなぁ? いい線言ってると思ったのだけどなぁ。よしっ、今度こそっ!







「あ~あ、やっぱり!? まだ慣れないのよね~。もう私(ワテ) には関西弁無理デすわ。」




「それも違うし…。まだまだ修行が足らんよなぁ。もうええから、明日行けるやろ?」







あ~あ、修行が足りないみたいだわ。仕方がない、つきあってあげようかな…。







「うん。空いてるけど、何? ショッピング? それとも飲みにいくの?」



「惜しいなぁ。合コンや、合コン。

 私のなぁ、友達がコンパしよ、ゆうてきて、かわいい子3人連れてきてって頼まれたん。

 それでかわいい子ゆうたかてなぁ、そんなにおらんでってゆうたんやけど、どうしてもってゆうから…。」



「…で、私? そうなんだ、私なんだ。」







自分で自分を指差しながらも、思わず頬が緩む。かわいいって…やっぱりわかっているのね。

さすがは理紗だわ。







「まぁ、あんたやったら、そこそこかわいいし、ええんちゃうかなぁって思てん。彼氏もおらんしなぁ。」



「へぇー。ついに理紗も認めるようになったのね…って、彼氏もおらんは関係ないでしょ!?」



「あるある!! 飲み出したら、泣く子も逃げる巴御前様のお通りやんか。レギュラーの西川君もビックリや! 」



「し、失礼ねぇ(笑)。私、そんなに暴れたりしないわよ。探検隊だって呼ぶ必要ないんだから!」



「え~ほんまかぁ? そんなんゆうたかていつも…、まぁええわ。ほどほどにしときや。マジで彼氏でけへんで。」



「あーひどい! そんなこと言うと、席に着いていきなり生中おかわり3つしてやるんだから!

 自己紹介で言っちゃうよ! 柏葉巴、25歳です。趣味は駆けつけ3杯 !! 」



「あっはははは、もう勘弁して~(笑)。そういうとこは巴さえてるわ。関西人になったらどう?」



「私は身も心も東京生まれの東京人です!! ったく、誰のせいでこうなったのよ!」



「それは私の教育の賜物や。私があんたのセンス磨いたったんやから、授業料払わなあかんのとちゃう?」



「よくそんなこと平気で言うわね! お給料の半分以上飲み代に使わされたOLがどこにいるのよ!」



「おかげで肝臓強なったから、ええやんかぁ。ちゃあんと身になってるやん。」



「えぇ体重ばっかり増えて困ってるんです!! だからほら!」



「大根サラダと飲むヨーグルト…、それに蒟蒻ゼリー!? 巴、貧しいランチやなぁー。」



「私だってねぇ、この歳で中年太りになるわけにいかないんだから。少しでもさ、ダイエットしないとスーツがやばいのよねぇ。

 それに理沙だって、人のこと言えないじゃない? そのパンストが網タイツになりかかってるんじゃないの。」



「ひど~い、これって最初から網タイツやんか。それにパンストが網タイツって、私どんなけ足太いねん!! 

 このセクシーな足のラインに似合ったオシャレがわかれへんの? そういうとこが巴のあかんとこやなぁ。」



「オシャレ!? それが?」



「そうや、これぐらいはおしゃれせなあかんのと違う? せやないと、せっかくの美貌がもったいないやんかぁ。なぁ。」



「その美貌って言葉が気になるんですけど…。」



「それに巴もなぁ、もうええ年なんやから、ちょっとはオシャレせぇな、その泣きぼくろがほんまに泣いてるでぇ。」



「泣いている…のかな。オシャレは関係ないと思うんだけどね。」



「なんぼあんたが彼氏欲しないってゆうたかて、いっつも一人ってゆうんもどうかと思うんやけど。

 もういっその事、彼氏作ったらええねん。そうや、そうしとき。オシャレして今度のコンパで彼氏ゲットしたらいいねん。」



「まだ行くって言ってないし…。それにいきなり言われてもねぇ…。」



「もう今さら何ゆうてんねん! コンパやったら男のおごりやんか! ただで飲めるで~。

 あっ、ちなみに女子の会費は3,000円やけどな。」



「そっかー。お給料前だしね~って、会費はいるのね。でもね…

 う~ん。悩んじゃうわ。それで場所はどこ? 心斎橋? 難波? もしかして梅田?

 この前の居酒屋、料理がひどかったわよ。焼酎だけ良くてもねー。あれは最悪だったわ。」



「たぶんミナミか難波の店になるんとちゃうかなぁ。道頓堀によう行くゆうてたから。」






「理紗…。もしかして私を田舎者扱いしている? 」



「なんで? 私、なんかおかしいことゆうた? 」



「だってさー、難波ってミナミのエリアじゃない。いくら私だってわかるわよ。おかしいでしょ!?」



「おかしかったら、笑わなあかんやんかー。」






「………っ! く、く、くやしぃ…。」



「どうや、これ!? 洋七師匠のギャグやけど、なんか使たらしびれるわ~。」



「前ふりがわかんないって! いきなりさぁ、そんな事言われても…。」



「あ~あんたなぁ、未だに伝説の漫才師B&Bわかってないんやなぁ。勉強足れへんでぇ。」



「わかるわけないでしょう? だって、私達が生まれる前じゃん。」



「巴はもういっぺん、漫才ブームから勉強し直さなあかんなぁ…。

 あれっ!? これ何? 苺大福? ダイエットしてるとかゆうといて、こんなん食べるん?」



「えっ!? あっ、これ? デ、デザートよ。別にいいじゃない、デザートぐらい…。」



「デザートって、普通、プリンとかアイスとかにせーへんの? 和菓子って…。巴、渋いわぁー。」



「だってこれが好きなんだからいいじゃない。特別なのよ、これだけはね。」



「ふ~ん。そうゆうたら、前も苺大福食べてたやろ? あんたほんまに苺大福好きやなぁ。

 なんで? 巴の実家って、和菓子屋さん?」





「ひ・み・つ !」



「あ~、もう、やらしいなぁ。海外三課の連中に言いふらすでぇ~。

 おたくの課長、実は年齢、二まわりごまかしてますって! 見た目は若いけど40過ぎやでぇって!」



「もう理紗ったら! 私まだ、課長代理だって!」



「実質、課長やろ? ええやんか。そんなに変われへんって! あんなおっさんなんかより巴の方がよっぽど仕事出来るのになぁ。

 まだまだうちらの会社もわかってないなぁ。」



「そんなこと言ってもねー。出世なんか、そんなに興味ないのにねー。」



「嘘つきやなぁ! そんなかわい子ぶってても、似合わへんわ。

 でもまぁ、巴がうちの課と違って良かったわ。上司にあんたみたいな酒飲みがおったら、部下はたいへんやからなぁ。」



「どう言う意味よ!」



「甘いもん好きの酒飲みほど性質の悪いもんはないってゆうやんか!? 」



「そんなの初めて聞くわ。何? 大阪のことわざ?」



「ちゃうちゃう! 普通、酒飲みは甘いもん、嫌いやで。アテにならんし。酒がまずなるやろ!?」



「アテ? あぁ、おつまみのことね。」



「そうそう。そやから、甘いもの好きはお菓子で金使い、それで、酒飲むのにも金使う。

 使うてばっかりで、お金がなんぼあっても足らへん。」



「へぇー、そうなんだ。どっちも美味しいのにね♪ 」



「美味しいって、ほんま、あんた怖いわ。

 あっ、もうこんな時間や。そろそろ戻らなあかんなぁ。ほな、またメールするから、よろしくやで~。」



「えっ? もうって? まだ余裕でしょ? なんで?」



「私はあんたと違って管理職ちゃうから、いろいろせなあかんことあるねん。またね。」







そういうと理沙は走っていった。社員食堂も少しずつだが人影が減っている気がする。


私は午後からの会議までかなり余裕があるから、ゆっくりとデザートに取りかかることにした。


熱い緑茶を湯飲みに注ぎながら、頭の中は次の日の合コンのことでいっぱいになっていった…。


今思えば、その時にきちんと断れば良かったのだ。







いつもならこの手の合コンは断るんだけどな…。

つい理沙の話術に乗せられちゃったみたいね。乗った私が悪いのよね。








普段の私ならここまで飲んだりしない………こともない。


けど、これほどひどい二日酔いは久しぶりだ。







あー、これで一日つぶれてしまうんだわ…。


あまりの痛さに気を失いそうだけど、もう少し寝ればマシになるわよね。






それにしてもどれほど飲んだのだろうか? 全然記憶にない。






ここにこうして無事に自分の部屋に帰って自分のベッドで寝ているから少しは理性があったのだろう。






知らない男の部屋に泊まるよりよかったはずだ。





ふと気になって、横目でちらっと確認する。





よかった。一人だ。こういう時は自分を褒めたくなる。




以前、友達の男の子の部屋で目が覚めたことを思い出してしまった。








そうか…、あの時からだわ。巴御前なんて不名誉なあだ名を付けられたのは。



そんなに暴れたりなんか……少しはしているかもしれないけど……ひどいよね。






なにも考えたくないときに限って色々思い出してしまう。


そのたびにおとなしくなりかけた頭痛が暴れだす。






もういい加減に頭の中で銅鑼を叩き続けるのは勘弁してもらいたいものだわ。







男ね…。




そりゃあ私だって、彼氏の一人ぐらいほしいわよ。特にこういう状態の時にはね。


やさしく抱きしめてくれて、そっと氷枕を用意してくれたら、後でなんでもしてあげるわよ。






あいつはやさしかったなぁ…。



どんな時でもキスを忘れないし、いつでも笑ってた。あれからもう半年になるんだ。






別れた事に後悔はしていないけど、肌のぬくもりだけは未だに忘れられない。



やっぱり理沙の言うとおり、女は心と身体は別の生き物なのよね。



それを素直に肯定できないところが、私は大人の女になりきれていないのかしら。







さっきから必死で何かをごまかそうとしている私がいる。


だから、こういろんな事を考えるのだわ。







わかっている…。わかっているからもう少し我慢できないかしら。



それだけは避けたい…。でも、もやばいかも…。





かなりまずい状況なのは間違いない。





駄目…。





胸と言うか、胃のむかつきがギリギリまで迫っている。


まだ身体は動けない。でもいやに細かく計算している。






「巴、ここが我慢のしどころよ。」






声に出して自分を励ます。


そうでもしていないと耐えられない。





頭痛が容赦なく襲い掛かって、私の意識を消そうとする。




すでに胃が別の感情を持ち始めている。


早く楽になりたい…と。





私の意思に関係なく身体がそれぞれの場所で意識を持ち始めたようだ。



相反する感情…。





こんな時に限って手近なところに眼鏡がない。



今、何時だろう?














to be continue





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