第一章:2つの世界
誰も足を踏み入れてはならない、終わり無きメビウスの輪の中に
少年は迷い込んでいた。
他の木々達が楽しそうに遊んでいる光景が少年の目に映し出されている。
少し走れば、手を伸ばせば、届きそうなその場所から
一歩も動けず立ち尽くしている少年には、
その光景が、もはや遠い遠い別の世界のように思えて仕方なかった。
自分の存在すら危うく、自分自身にも距離を置いた少年の心には、
かつて味わった事のない感情が溢れ、自らを支配していた。
その事実に誰も気付いてはいない。
少年自身ですら、その身に何が起こっているのか
把握できないでいた。
そして、自分の感情を表面に出さない事に少年は慣れすぎていた。
迷い込んだ世界で、少年は恐るおそる片方の足を前に出した。
一歩踏み出すごとに地面がグニャリと揺らいだが、
少年はなんとか出口を見つけようと歩き続けた。
周りの景色がぼやけてよく見えない。
少年は視力さえも、失い始めた。
初めての世界、ここには見たことも無い植物や生き物が
度々姿を現した。
少年の心の声を覗き見ては、勝手に声に出したり歌ったりするのだ。