アルネのやねうら

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パパの死


ご主人がホスピスに入院している、という妊婦さんがお産することになりました。
その方は、本当は別の病院で出産する予定でした。
しかし、夫の入院している病院で出産したいとの希望で、急遽うちの病院で出産することになりました。

予定より早く、その方は出産されました。
ご主人は車椅子で分娩室に入り、出産に立会い、生まれたての赤ちゃんを抱っこしたのでした。
思っていたよりご主人は元気そうで、私達もほっとしました。

でも、赤ちゃんが生まれて2、3日後、ご主人の容態は悪くなりました。
ママは、授乳の合間にホスピス病棟に通いました。
時には、ホスピス病棟から「容態がよくないので・・」と連絡がくる時もありました。
でも、ママは気丈でした。切なくなるほど、本当に気丈に振舞っていました。
年もまだ若かったと思います。ご主人もまだまだ働き盛りといった年齢でした。
ご主人の癌が分かったのは、ほんの1ヶ月前のことだったそうです。
それまで病気ひとつしたことがなかったそうです。

きっと普通に恋愛して、結婚して、妊娠して、これからも幸せに暮らしていくものだと思っていたことでしょう。
それなのに、神様は時に残酷な仕打ちをします。

ご主人は亡くなりました。ママが退院する前に。
もし、赤ちゃんがもう少し遅く、正期産で生まれてきていたら、きっとパパに抱かれることはなかったでしょう。
まるで、パパに抱かれるために早産になったようでした。

パパの死を乗り越えて、パパに愛されたこと、抱かれたことを胸に、赤ちゃんは成長することでしょう。




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