おんな鮎釣り師のホームページ

④野良犬のクロ・・・棲家へ招待される


台風が来た時、クロは駐車場でウロウロしていました。
クロの棲んでいる穴が増水した川のせいで水没したのかもしれません。
横殴りの雨と風の中を所在なげに、震えながらトボトボと歩いていました。
貧相な体がビショビショに濡れて、ますます貧相に見えました。

居ても立っても居られなくなって、雨の中に飛び出してクロを抱きかかえ
狭い事務室の中に連れ込みました。
タオルで濡れた体を拭きストーブをつけて体を温めました。
ところが震えは止まるどころか、ますます大きく震えだしました。
閉じ込められるのが怖かったのでしょうかね。
クロは家の中に入った事のない犬だったのかも知れません。

仕方なく外に居場所を作って、何かのおまけに貰ったTシャツを着せて
外に出してやりました。
生まれて初めて洋服を着せられたクロは、とっても迷惑そうでした。(笑)

クロは何度も振り返って私を見ながら駐車場の隅のフェンスの切れ目から崖の下へ降り、
気をつけてついて来いよと言うように、私を見上げました。
ほぼ直角に近い崖を降りるのは大変でした。
泥だらけになりながらやっと降りた所は、小さな川になっています。
そこから藪を抜けたり岩をよじ登ったり、行く手を阻まれて川を飛び越えて失敗して靴がビショビショになったり、大変な思いをしてドラム缶のある所まで辿りつきました。
クロはその間、人間って厄介やなと言うような様子で、私のまわりをウロウロしながら待っていてくれました。
よく見ると川の向こう側から来れば、遠回りだけどかなり楽に来れる事がわかりました。
クロも失敗した、こっちから連れて来れば良かったと思ったでしょうか?

クロの得意そうな顔に誘われてドラム缶の中を覗くと、小さな塊がうごめいていました。
見た目はお世辞にも可愛いとは言いがたい子犬達でしたが、クロが雪の降るクリスマス・イブに産んだ子犬です。
クロいい子を産んだな、偉かったなあ、お前は日本一のお母さんやでとクロを撫でながらいつまでも話しをしました。
クロはもうお母さんの顔になっていました。

それにしても4匹と聞いていたけど3匹しか居ないのが不思議でした。
クロが一番仲良くしているお客さんで、ドラム缶を運んでくれた人が見に行ったら
4匹産んでいたと嬉しそうな顔で教えてくれたのです。
一匹死んじゃったのかな?

(つづく)




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