アオイネイロ

October 8, 2009
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カテゴリ: 小説
「紅亜様、御仕度が整いまして御座います」
「分かった。少し表で待っていろ」

兵士の言葉にそう返せば、兵士はさっさと部屋から出て行く。
一呼吸置いてから、紅亜は装飾のなされた冠を手に取った。
飾り、美しく見せる為のもの。そして、自らの地位を誇示する為のもの。
「必要無い、ね……重いだけだ」
一人呟いて、冠を頭へと乗せた。
腰へと剣を差して、外へと出れば、既に大勢の兵士達が待っている。

「行くぞ」


馬車に乗って向かう、隣国であるアーネ。
王の事は調べていた。今回の王の目的は、紅亜と年の近い王子と会わせる事。
適当に会話して、適当に気に入られて、相手の弱点を調べればいい。
それだけの事……。
「失礼ですが、双楓の国、一の姫『紅亜様』でおられますか?」
不意に声がかかって、紅亜は考えを止めた。
何やら兵士と男が話しをしている。
「私はアーネの国の遣いである白露(ハクロ)と申します」
そう名乗った男の声を聞き、紅亜は馬車から降りた。

「私に何か?」
「紅亜様のお迎えに上がりました。王の意向で、どうか紅亜様お一人で来て頂きたいと……」


途端に兵の者達がざわめき出した。

「姫様にお一人で!? 何を考えている! わが国を愚弄する気かっ!!?」
「紅亜様をどうするつもりだ!!」

ざわざわとさざめきだす兵士達を横目に、紅亜は真っ直ぐに白露を見つめた。
肩口で切り揃えられた、瑠璃色を含んだ黒い髪が風に揺れている中、男は一度も顔を上げない。

ため息混じりにそう言えば、途端に周りの兵達がざわめいた。

「紅亜様! そのような事」
「黙りなさい。良いのです。これは元より親交を深める為の訪問。武兵等必要ありません」

思わず声を上げる兵士達を黙らせ、紅亜は今だ膝をついたままの男の前に進み出た。
「道案内をして下さるのでしょう?」
「はい、お手を煩わせて申し訳御座いません。こちらです」
紅亜の言葉に、やっと体を起こした男が、そう言った。





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Last updated  October 8, 2009 04:59:29 PM
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