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たまにはいいだろう、と心の中で呟いて、私は食器棚に目を向けた。たまには、たまにはなんて言いながら、結局私は私を甘やかす。でもまあ、いいじゃないか。誰だって自分は大切だし、自分が大好きだ。誰かが私を甘やかしてくれる訳でもないのなら、自分が自分を甘やかしたっていいじゃないか。どうせ、なんて言葉を使って、私は心の奥にあるもやもやを片付ける。先刻言われた言葉が頭をよぎる「お前は自分のことしか考えてない」と。どうしてそんなことが分かるのだろう? 私の頭を覗きでもしたのだろうか? 私が普段どんな風に考えて生活しているのか知りもしないくせに、自分のことしか考えてないヤツ、だなんて勝手なレッテルを張り付けられても困る。でもまあ、どうせ私は他人から見たらそうなのだろう。と、やっぱり私はそれをそうやって片付ける。誰かを思っての行動だって、「当たり前」と片されてしまったり、逆にそれが迷惑になる場合もある。やったって、やらなくたって怒られるなら、やらない方がいいにきまってる。その方が、自分も納得できる。だから私が、他人にそんな風に認識されてしまっても、仕方のないことなのだ。実際私は、どうせ何もしていないのだろうから。それでも私は私を嫌いにはなれないので、今日もまたこうしてありきたりな日常を歩む。歩み続けるしかない。だから、たまにはいいだろう、と考えてお気に入りの真っ白なティーカップに手を伸ばすのもいつものこと。その陶器の冷たさにそっと唇を寄せて、お湯が沸くまでの時間を楽しんで先日買ったチョコレートの箱を開けて、私はそっと微睡んだ。このささやかな夢が続くように祈りながらこの小さな幸せが壊されないように願いながら崩れたガラスの音に耳を塞いでつつけば崩れてしまいそうなせかいから目を逸らして。
November 26, 2013
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「ああ、ああ。分かった」彼は突如として、私の言葉を遮りそう言った。「つまり君は、そういうことだろう? 百聞は一見にしかずとは言うけれど、千聞、万聞は時として一見を超えることすらあると、そういうことだろう?」彼は言った。そう、言った。果たして私は、否、私達は今の今まで何の話をしていただろうか。そんな百聞は一見にしかずなんて言葉が、今までの会話で出てきただろうか。と、私は首を捻った。けれども、まあ。彼の話が突然変わるのはいつもの事だった。だから私は曖昧に頷いた。頷いてしまった。彼は続ける。話を続ける。流暢に、朗々と、明確に、淡々と、「つまりそれは知識ということだろう? 知識が、文字として、言葉として、音として紡がれて受け継がれていくことで、それは不安定で曖昧な視覚情報よりよっぽど確かになるということだろう?脈々と受け継がれていく文章は、言葉は、明確に知識として保存されるだろう? けれど視覚は、色も形も、その光や見え方さえも、ほんのちょっとのきっかけで変わってしまうだろう? 曖昧で不鮮明で、適当で薄弱。所詮は根無し、のようなものなのだろう?」彼はそう続ける。何度も何度も尋ねるように聞く割に、私の答えなんてとんと求めていないように、すらすらと話を続けていくのだ。話し続ける、のだ。「僕としてはそれもその通りだと思うけれども、それでもやはり一見は一見なんだと思うのだけれどもね。百聞では及ばない。一見の大切さなのだろう。だから人は、見たがるのさ、聞きたがるのさ、そしてそして……話したがるのさ」話したがりの彼が、そう言う。「見ることは大切だよ。そう、曖昧で不鮮明で適当で薄弱な視覚でも、それでさえも百聞には勝るのだからね」つらつらと言うのだ。私のことなどおいて、おいて。「見ることは知ることにもなるのだからね、大切さ。どんな事でもだよ。恐ろしいこと、美しいこと、悲しいこと、楽しいこと、輝かしいこと、全てだよ」だから……と、彼は続けた。「君が今から見るだろう世界も、それはそれは、素晴らしいものなのだろう?」彼は言った。鬱蒼と笑って、そう言いきった。海に沈む私に、沈みゆく私においていかれる、私に。
October 2, 2013
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誰かが言っていたんだ、海と空は繋がっているとコポ……コポリ、泡がふわりと、目の前を通り過ぎて浮かんでいく。コポリ……コポ、コポ……いくつもいくつも浮かんでいく泡は、銀色の光を纏ってゆっくりと浮上する。目を閉じれば、ふわりと体が浮かんで、まるで泡と一緒になったような錯覚にさえ陥る。――まだ、もうちょっと下までそう思いながらゆっくりと体を動かそうとした時だった。不意にひと際大きい泡の粒が、幾つも浮かんできた。そうして下から現れたのは、泡を伴ったひとつの影。浮いてきたのは、友人だった。彼女は自分の手首を指先で叩いてみせて、そして上を指差す。残念、時間切れだ。彼女の言葉に指で丸を作って返すと、私は上へと向かう。彼女と共に、泡と共に、ゆっくりと浮上する。私の息と、泡の音が混ざり合って、しんと静まり返った世界に溶けて消えていく。やがてザア、という音と共に光が溢れかえってきらきらと輝き出す。白い泡と、波と、光が混ざり合って、そうして私はそこから顔を出した。途端に波のザザア、という音がやけに大きく耳に響く。隣で友人が同じように顔を出して、ぷはっと大きく息をついた。カモメの鳴き声が聞えて、風が水面を撫ぜる。「…………」「………、かえろっか」隣で呟くように言った友人の言葉にうん、と頷き返して、私達はばしゃばしゃと水を揺らしながら、波に揺られながら岸辺へと向かったのだった。
September 27, 2013
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夏の暮に、怖い話でも一つ。あなたは霊感というものがあるだろうか?そう問われると、最近の私は大抵曖昧に笑って誤魔化す。イエスかノーかの二択なら、あるのではないかと思うのだが。結局は、存在するかも分からないものの有無を問われたところで、血液型のようにおいそれと答えられないのだ。昔は「あるよ」と簡単に返して、仲間うちで、友達同士で、あるいはクラスメイトと怪談話できゃあきゃあと盛り上がったものだ。結局は、私も他人も、話半分面白半分に語り、聞き、を繰り返していただけだ。見間違えや聞き間違えだったり、私なんかは想像や空想、本で読んだ内容やテレビで見た内容に侵され、あたかも本当にあったことと思い込んでいるのかもしれないし、あるいは夢だったのかもしれない。不確かで、曖昧なものだが、あったような気がする、から恐怖の対象になるのだろうか。そんな私の、ごく最近あった怖い話のひとつ。*窓と鏡と足音と*霊的現象に遭遇するのは、学校が多い。けれどそれ以上に、私は小学生の頃から心霊現象は家で遭遇することが多かった。その日もいつもと何ら変わらない一日。夏休みで、大学が休みで、バイトもなくて、まあいつものように一日中部屋でだらだらと実の無い時間を過ごす日だった。前日まではやることなんかも考えていたはずだが、そんなもの当日には当たり前の顔をして無視していく。後で後悔するのも、もう決まり切ったルーチンワークのような、とはいっても私はそれを仕事とはしていない。そんなものが仕事になったら行きつく先は自宅警備員だ。ともかく、そんな風に、パソコンを前に小説を読んだり、ちらっと書いたり、動画を見たり、お菓子を作ってみたり、紅茶とケーキを食したり。ほぼ一日中パソコンの前で過ごしていた。私のパソコンは、丁度窓の近くにある。パソコンの画面を見ていると、窓が目に入る位置。そこから入る風が夏の暑い日を少し癒してくれる。けれどその日は、風なんて吹いておらず、じりじりと暑い日差しの為か窓は閉じられていた。エアコンをつけていたのかもしれない。兎にも角にも、窓は閉まっていた。私の部屋は二階にあり、窓から見えるのは地面や景色ではなく、隣の家の壁だ。その間には人が二人は立てる隙間がある。窓から落ちない為か、一応柵もついているが、勿論下から登れる作りにはなっていないし、そんな柵の上に私が乗ったとしたら恐らく壊れるのではないかと怖くて実践できない。そんな窓の外が、ふと、気になったのだ。いや、気になったのではないのかもしれない。ただ、何とはなしに、不意にパソコンから視線を外し、窓の外を見たのだ。窓の下のふちは、窓の手前にある棚に置かれた小物で見えないようになっている。だから、見間違いかもしれない。窓の外にある柵を、小さな手が握っているように見えたのだ。窓棚に置かれた小物のせいで、手が伸びているのは見えないし、その手すら上の方の親指辺りしか見えていなかった。だから最初、私は当然のようにそれを引っかかった葉っぱか何かかと思った。めずらしい。どっから吹いてきたら引っかかるんだか、とも考えた記憶がある。そしてそのまま、私は再びパソコンをいじる。多分その30分後くらいに、私は一度席を立った。その時にちらっと、窓を見たのだ。先程先端しか見えていなかった手が、中指程まで見えていた。それでようやく、私はそれを手だと認識した。思わず二度見した。一瞬目を離した隙に消え去る、なんてことはなく手は変わらず柵を握っていた。小さい手。丸い手。子供の手だった。しばらく凝視したのち、私はそこから視線を外してキッチンまで行った。見に行くなんて真似を、私はしない。大抵こういうものは、全て見なかった振りをすることにしている。飲み物を持って帰ってきたときには、柵には枯れ葉が何枚か絡まっていた。ああ、やっぱり見間違いか、と思って。その日はそれっきりだった。その日の夜。布団に入って、眠りについて、目を覚ました。夜。夜中。窓の外からコツコツ、と音がした。眠かったし、面倒だし、怖くもあったので起きなかった。布団の中で目を瞑ったままじっとしていた。コツコツ、二回ずつ、叩く。軽い音だ。コツコツ、コツコツ、うるさいな、と、布団を頭からかぶった時。足元からも同じ音がした。足元、丁度、姿見のおいてある場所から。コツコツ、コツコツ、窓と、鏡から、余計煩くなったその音は規則正しく、二回ずつ。やがて今度は階段からトントン、と軽い足音が聞えて来た。今日は随分賑やかな日だな、なんてことを考えながら布団の中でうとうととまどろんでいた。恐怖とかは無い。例えばこれが、物凄い音で叩かれたり、声が聞えて来たり、気配を感じたりしたら別だろうが、あくまで小さな音だ。階段を登る足音が段々と近付いてきて、近くのドアの開く音がした。そのドアから、私の部屋は目の前だ。窓から、鏡から、コツコツと、音がして足音が、ギシギシと聞えて私の部屋の前で、止まった。その時、窓の外から、いや、私の家の近くにある公園からだろうか何にせよ遠くから聞えた声だった。子供の声で「もーいいかーい?」と、こんな夜中に遊んでいる子供がいるはずもない。それでも子供の声は複数だった。笑っている声と、「もーいいかーい?」というかくれんぼの時の常套句。コツコツ、という声は止んでいた。変わりに窓の外から、遠くから、子供の声。その頃には私はもう眠くて眠くて仕方無くて確か、小声で、ぼそりと「まーだだよー……」と返したのだと思う。子供の「えー」「まだー?」という不満げな声を聞きながら私はそのまま眠りについた。朝起きて、はて、夢だったのかそうでないのかと不思議に思った。夢だったらもう少しはっきりと分かりそうなものなので、私自身は夢ではないと思っているのだけれどしかし、けれども、私があの声に「もーいいよー」と返していたらどうなっていたのだろうと、時々思い返しては考えるのだ。けれどあの一回以来、夜に子供達の声を聞くことも、窓の外に何か見ることもない。勿論姿見も、何の変哲もなくいつも通りそこにある。
August 26, 2013
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ソラはよく食べた。部屋に荷物を置いて、宿の一階でやっている飲食店で適当に、大量に食べ物を注文し、それを部屋に運ぶとベッドの上にぴょんと飛び乗ってもくもくと食べ始めた。そんなソラの影から、テンがふっと姿を現す。『ったく、持ち金考えて頼めよ……』出てきてそうそう、テンはぶつくさと文句を言う。『オイ、楓。さっさと食わないとこのアホに全部食われちまうぞ』そう言って、テンは机の上に広げられた食べ物をひょいと咥えて、そのままぱくりと丸呑みする。「んー、おいひいよーかえで」『テメェは食い過ぎだ』にこにこと上機嫌で食べ物を口に運ぶソラに、テンは相変わらず不機嫌そうに吐き捨てた。楓も、そっと二人の傍に寄って、ベッドに腰掛けると食べ物に手を伸ばす。「見たことのない食べ物ばっかり……。ソラとテンは、いつもこんなものを食べているの?」『何だ、サラダにパンに、肉だろ? そんな珍しいか?」楓の言葉に、二口目(と言っても、テンの一口は結構大きい)を食べ終わったテンが首を捻る。「えっと、パンは知っているわ。でも、こんなふかふかしたパンは初めて見た。私が知っているのはもっと小さくて固いパンよ。お肉も、サラダも……私の知ってるものとは違う。………でも、美味しそうね」ほかほかと温かそうな湯気をたてる食べ物を見つめて、楓は興味津々で微笑んだ。「うん、おいしいよ。ほら、かえで、食べて食べて!」ソラが無邪気にそう言ってフォークを差し出して来るので、楓もぱくりとそれを口に入れた。「あったかい……! 美味しい! すごい、こんなに美味しい食べ物があるなんて……!」それは温かく、軟らかく、楓が今まで食べてきたものとは比べ物にならない味だった。しなびた野菜や、いらなくなった肉の切り落とし、空気に触れて固くなったパン以外、食べたことがなかった楓には、それはもう魔法のように感じられた。『………。おい、ソラが馬鹿みたいに買ってきたんだ、もっと食え』「うんうん、いっぱい食べていいよ。おいしいご飯は大事だからね」ぶっきらぼうな口調で言うテンと、にこにこと笑いながら皿を楓の前に出してくるソラ。「人と食べる食事って、こんなに美味しいのね。私、知らなかった」新しい知識を大切にしまうように、楓はそっと胸に手を添えてそう呟く。そんな楓の言葉に、食べ物を口に運んでいたソラとテンがぴたりと動きを止めた。「そうだよね~。みんなで食べると、美味しいもんね」『………俺は元々獣だからそういうヒトの感覚はそこまで無いが……、まあ、そうだな』にこにこと返すソラに対し、テンはぶっきらぼうにそう応える。「あれー、テン。照れてるの?」『……うっせぇ。さっさと食え』そんな二人のやりとりを見ながら、楓は再び小さく微笑む。『おら、楓。オマエも笑ってないでさっさと食え』「ほら、かえで。これも美味しいよー」そうして、楓が生まれて初めて誰かと一緒に食事をしたこの日は彼女にとって一生の宝物になった。まるで何も無いように、静かに、平和に、一日が過ぎてゆく……。*「オイ、ミノリ。見つけたぜ、やぁっぱアイツ等だ。オンナが一人とひょろっこいガキ一人だ」「ガキ? 俺と変わらない年じゃないのか?」「テメェもガキみてェなモンだろ? ま、オマエよりちっせェ、アタマの軽そうなヤツだったぜ」夜の帳も落ちた、暗い暗い闇の中で二人は囁くようにそう話す。「んじゃあまあ、ちょっかいかけに行くとするか? ふはっ、あの終始笑顔浮かべたガキが、どんなツラするか楽しみだな」堪え切れずに噴き出したように、彼は嘲笑をその顔に浮かべて鼻で笑った。ひゅるりと、夏にしてはやけに涼しい風が二人の間を吹き抜けた。
August 2, 2013
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息抜き 単発「ふとした時に、他人がとても疎ましく思えたり、憎らしくなったり、羨ましくて殺したいって思ったこと無い?」牢屋ごしに、彼女は私と瓜二つの顔と声で、私が普段出すことの無い声と表情で、そう言った。彼女に会うのはかれこれ50年ぶりくらいだ。不安定だった魔力はすっかり安定していて、何の戯れか今の私と同じ格好をしている。黒く長い髪と、琥珀色の瞳。そして私の今とっている姿。あの日マスター達と旅をした、彼女達が14歳だった頃の背格好。黒いワンピースに、黒いケープ。裾には白の花の刺繍があしらわれている。鏡を見るようにそっくりな私と彼女、けれど、無表情な私と正反対に彼女は残忍な笑みをその顔に浮かべて「私は、あるわ」そう言った。「アナタは? 千歳」その問いに、私は静かに首を横に振った。「そう……つまらないわね。まあ、アナタはそうでしょう。私はアナタのことだってずっとずっと羨ましかったわ。いつもいつも、くびり殺してやりたかった」静かな口調で、彼女は歌うようにそう言った。私はそれには答えず黙ったまま、彼女の牢屋の鍵を開けた。「まあ、今のアナタは憐れよね千歳。知っていたでしょう? 自分が化物であること。それとも忘れてた?」うっすらと笑みを浮かべたまま、彼女はベッドの上に座ったまま動かない。まん丸い瞳が猫のように細くなって、私を捉える。「………わすれて、ない。ちとせは……、私は、この結末も、わかってた」瞳を伏せてそう吐き出すと、彼女は少し驚いたような顔をした。「へぇ~、アナタの事だから『マスターといっしょなら、きっとだいじょうぶ』とか考えてたのかと思ったわ」言いながら、彼女はやっと立ち上がって私の元まで歩いてきた。「まあ、いいわ。あのコは私のマスターでもあるわけだしね。すこし癪だけど強力してあげる」千迣は、にっこりと笑ってそう言った。邪気の無い彼女の笑顔を、私はこの時はじめて見た。
June 16, 2013
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「ねえねえ。この町で一番安い宿ってどこ?」ソラがにこにことした表情で、本日二回目のそのセリフを言う。相手は、今しがた通りすがりにソラとぶつかった男性。中性的な顔立ちをした、楓とそう変わらないであろう年の青年だった。ぶつかったソラがおかまいなしにそう尋ねるのを聞いて、思わず慌てたのは楓の方だ。いくら世間に疎い楓でも、質問よりも先に軽く謝ることの方が先決であろうと分かる。しかもソラの口調は、普段と変わり映えしない非常に砕けたものだ。怒られても不思議はないだろう。けれど青年は気を悪くした風もなく、ソラと楓を見つめて「ああ、悪ぃが俺も旅人なんでな。ここいらには詳しくねぇんだ。俺が今泊まってる宿も安くていいと思うぜ?」と教えてくれた。「そっかー、じゃあそこにしようか。ねぇ、僕達をそこに案内してくれないかい?」こてりと首を傾げて、ソラは青年に向かってそう言った。「ふはっ、変なヤツだな。別に構わねぇぜ」噴き出したように笑って、けれど青年はそう言ってくるりと踵を返すと「着いてきな」と言って歩き出す。ソラも楓も、静かにそれに従った。着いたのは小さいながらにしっかりとした造りの宿だった。猫が毛糸玉にじゃれついている看板が印象的な、可愛らしい宿だ。「ここだな。宿は二階で、一階にはメシ屋もあるぞ」「ご飯!? やったぁ、僕もうお腹ペコペコだよ。かえで、はやく中に入ろう」青年の説明に、ソラは上機嫌で中に入っていく。「え、えと。ありがとうございました」既に食べ物で頭がいっぱいであろうソラに変わって、楓が青年に小さくお辞儀をした。「ああ。気にすんなって。まあ、また会う事があったら、そん時ゃヨロシクな」にやり、と口端を釣り上げて笑った青年は、そのまま人ごみの中へと姿を消していった。その姿をぼうっと見送った後、楓も慌ててソラを追って宿の中に入った。既に宿の手続きを済ませていたらしいソラが「二階の端っこの部屋があいてるって」と言って朗らかに笑った。ああ、あの青年とソラの笑顔は、全然違うんだな。楓はその時、ふと、何とはなしにそう思いながら、ソラの後ろをついて部屋に向かった。
June 14, 2013
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じわりと額に汗が滲んで、普段からこんなに歩いたことのない私の息が切れてきた頃、ようやく新しい街についた。勿論テンもソラも、体力の無い私を気遣ってゆっくりと進んでくれたのだろう。それでも私は初めての慣れない旅にへとへとだった。『まずは宿だな』そんな私の状態を慮ってか、テンがそう言う。「そうだねー。ご飯食べれる宿がいいなぁ」『アホか。いいか、いつも通り一番安い宿をそこらの奴に聞け。最低二人以上には聞けよ』ソラの言葉に、テンが強い口調でそう言いながら、ソラの真後ろに立った。『おい楓。このアホ頼むぞ』振り返ったテンがそんな風に言ってきたのに対し、私は思わず首を傾げた。「テンは一緒じゃないの?」『俺の体躯見てみろ。人里なんか行ったら大騒ぎになるだろ』私の言葉にテンは不機嫌そうにそう返すと、尻尾を一振りしてするりと、ソラの影の中に溶けて消えていった。「っ!?」「あはは。テンも“虚人”だからね、人じゃあないけど。僕等と同じ、妖の力を持つ存在さ」驚いて目を白黒させる私に、ソラは楽しそうに笑ってそう説明する。「ひ、人じゃない“虚人”もいるのね。だから、喋れるの?」「そうだよ。それにテンはとびきり強いからね。僕は大体テンのお世話になっているんだ」テンが聞いたら目を向いて「俺はテメェの世話係じゃねぇっ!」と怒鳴りそうなセリフを、ソラはさらりと口にした。「さ、そろそろ行こうか。かえで」「うんっ」ソラの言葉に、私の心臓は高鳴った。はじめて、生まれた場所以外の村に踏み込むのだ。「じゃあ、まずは宿だね」隣で言ったソラの言葉さえ、殆ど聞えていない程。私は新しい世界に、焦がれていたのだろう。
April 12, 2013
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ざわり、風がこれまでに無いくらいに騒いで、彼女の着物の袖を攫ってゆく。白と蒼を基調としたその着物は清楚な女性を思わせた。実際その着物を身に纏う彼女の容姿は美しく、肩まである髪は黒というよりもくすんだ紫に見える。日が強く当たればより一層色素が増して、濃淡の強い紫に変わった。それが彼女をより美しく見せ、そして高貴に見せる。「一人の虚人が仲間を集めているらしいぜ」彼女の後ろから、男とも女ともつかぬ声がそう告げた。彼女がその言葉を受けて小さく笑った。「へぇ……。どうやって逃げ出したんだろうな? 虚人は本来、生まれた場所で隔離されて惨めったらしく生かされるってのによォ」口端を釣り上げて笑いながら、彼女はそう言う。「その姿で言われても説得力ねぇよ」後ろの声が呆れたように言うと、彼女は喉の奥を鳴らしてククッと笑う。「まあそうだよな。俺も、お前も似たようなもんだしなァ」彼女の眼が、ふっと遠くを見るように和らいだ。「何だ、同情したのか?」「ばァか、違ェよ。俺は他人に同情なんかしねェタチだ」クツクツと喉の奥で嗤って、心底楽しそうに女性が言う。「なァ、ミノリ。ちょっかいかけに行こうぜ」「はぁ……? お前が自分から動くなんて、めずらしいな。オレは別に構わねぇぜ」振り返った女性は、鬱蒼と笑う。「ばァか。俺は面倒事はご免だが、他人が嫌がるコトに関しては行動的だ」「あー……はいはい。じゃあ、ぼちぼち出発するか?」ひんやりとした空気が二人の頬を撫ぜる。女性は下駄をカラン、と鳴らして鼻歌交じりにその場を後にした。夏だというのに、地面に生えた草という草が凍りつきその冷たい地面に倒れ伏す者共は息も無く、薄い氷に覆われたその姿はまるで雪像のようだったという。
March 18, 2013
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ゆらゆらと左右に揺れながら歩く少年の、白銀色の髪を追いかけて歩を進める。彼は気ままで、鼻歌交じりに歩みを進める。そんな彼の横を、真っ黒な狼が寄り添うように歩く。別に狼は彼に付き従っている訳で無く………『オイッ、右じゃねぇ。その道は左だ』「あれ、そうだったっけ? ありがとうテン」ふらふらと道を間違えそうになる彼の目付役だ。テンという名の漆黒の毛並みをしたぶっきらぼうな狼と白銀色の髪に空色の瞳の掴みどころのない少年、ソラそして、そんな二人とつい最近。ほんの一週間前に出会った私、楓。この三人(二人と一匹?)で、旅というものをしている。「かえで、疲れてないかい?」「あっうん。大丈夫、ソラは?」くるりと振り返って笑顔で問うソラに、私はどきまぎとそう返す。いまだに、他人と話しをするのはどうも慣れない。『コイツが疲れたなんて言い出しやがったらぶん殴ってやる』「あはは、テンは乱暴だ。だいたい、その姿でどうやって僕を殴るのさ」ドスの効いたテンの声など堪える様子も無く、ソラはからからと笑う。よく笑う少年だと、初めて会った時から思っていた。ここ一週間一緒に旅をして、それはより強いものになっていた。私はソラが怒った所も、泣いた所も、困った所も、まだ見たことがない。たった一周間といえど、一日中一緒にいるなかで私は、ソラの笑った顔しか見たことが無かった。微笑んでいるか、朗らかに笑っているか、にこにこしてるか笑顔に差はあれど、常に笑顔だ。テンは気難しい顔をしたり、怒ったり、本当に時々、優しい顔をしたりする。『何だ、楓。人の顔ジロジロ見て』「わっ、ご、ごめんなさいっ」そんなことを考えていたら、テンがこちらを振り返ってそう言った。「ちょっとテン。かえでを怖がらせちゃダメだよ。ただでさえテンは顔が怖いんだから」そう言いながら、ソラはやっぱりおどけたように肩を竦めて笑っていた。『テメェは………ん? 街が近いぞ』何事か言い返そうとしていたテンが、鼻をひくつかせてそう言った。「街ですか?」私が思わず聞き返した。自分の故郷以外での、初めての街だ。声も自然と弾む。「テンの近いは信用できないよ~、なんたって鼻がいいからさ。まだまだ歩くよ」『今までの道のり考えりゃすぐだろ。少なくとも、俺が走ったらすぐ着く』ソラの言葉に、テンが半眼になってそう返す。そんなやりとりに笑いながら、私の心は次の街に奪われていた。
March 16, 2013
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一日に平均すると12人程の人間が、交通事故で亡くなるらしい。そう。彼もそうして死んでいった。スピード違反の車が、パトカーに追いかけられて逃走。その末信号無視をして横断歩道に突っ込み、その事故で三人が怪我を負い、一人が死亡した。その一人が彼だった。たまたま横断歩道を渡っていた児女をかばい、死亡。はあっと吐き出したため息は、夜の空に白くけぶって消えてゆく。なくなってしまった。彼が死んだ痕跡は跡片も無く片付けられて、彼が通っていた教室の机も、最初は花が飾られてあったのに何時の間にかなくなっていてなんにもなくなってしまった。16年も生きていたはずの彼の痕跡が、たった数カ月で何一つなくなってしまった。「なあ………、俺は」どうしたらいい?震える声がそう吐き出した時ざわりと風が不自然に舞い上がった。目の前にあるのは桜の花びら。今は冬で、この近くに桜の木なんて無くてああ、でも彼が好きだった花だ。なんて思った。「そこに、いるのか?」ふわりふわり舞う不自然な花びらは、しかし決して応えてはくれない。「ッ、いるんだろ!? そこに!!」思わず追いかけた。必死に足を動かして、桜を追う。花びらは、俺が追いつけるようにゆらゆらと揺れながらけれど止まることは許さないスピードで進んでいく。建物の中に入っても、桜の花びらはありもしない風にひらひらと舞っていた。階段をのぼって、のぼって、のぼって屋上に出た。彼と最後に語らった、彼のお気に入りの場所。天気の良い日は日向ぼっこをして、俺はいっつもここで学校をさぼっていた。そして授業を終えた彼がきて、俺を見つけて呆れたように笑うんだ。屋上のふちに、桜がふわふわと浮いていた。ゆっくりとそちらに向かう。「なんだよ。数か月も経ってから現れやがって、何を伝えたいんだ?」なあ、言いながら伸ばした手が桜の花びらに触れる。瞬間ひと際強い風が俺の背を押した。古ぼけたフェンスが、俺の重みに耐えきれずに嫌な音をたてて外れる。あとはもう、どうしようもない。落ちていく俺の周りを、桜の花びらがひらりひらりと舞う。「なんだよ。寂しかったんだな。……ったく、素直じゃねーの」俺は笑って、指先だけを伸ばして花びらに触れた。彼のひんやりと冷たい肌を、思い出すようだった。昨晩未明、男子高校生一名が立ち入り禁止のビルへ侵入し、屋上から落ちて死亡するという事件が発生しました。警察は、自殺によるものであると考えて捜査を進めている模様。男子高校生は、三ヶ月前トラックの暴走事故で死亡した少年と同じ高校に通っており、仲も良かったと………ブツッ………………………………………………………………心配すんなよ。お前の元に行くくらい、お安い御用だ。俺だって、寂しかったよ。
February 26, 2013
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目が覚めてから、私は今日やるべきことを頭の中で反芻した。書類を出しに行って、図書館に本を返しに行ってそう、あと夕飯を作ろう。やるべきことの順序を決めて、着替えを済ませると外へと出た。ここ最近使われることが増えた自転車をこぎながら、まずは図書館へと向かう。空は晴天、けれど風は冷たく、自転車で移動すると耳がじんじんと痛くなってくる。また返しに来なくてはならないことを考えると、今日は本を借りる気にはなれず、返却ポストに数冊の絵本を押し込んで再び自転車にまたがった。さあ、書類だ。いそいそと目的の場所に向かい、軽い挨拶を済ませ書類を手渡す。やっと終わったと肩の力を抜きながら、再び私は自転車を走らせた。最近できたパン屋の前を通り過ぎれば焼き立ての小麦の香りが鼻孔をくすぐる。そんな時、ふと目に入ったのは「あいすくりーむ工房」の文字が踊る看板。さあどうしようかと束の間考えて、けれどたまには良いかなんて自分に甘い私が自転車を止めた。丁度同じように店内に入っていく女性二人を尻目に、私もいそいそと中へ入る。店内は静かで、女性客と私しかいない。フレーバーの並ぶボックスを覗きこみ、少し考えた後レジに向かう。そう種類が多くなければ、決めるのは早い。カウンターで目当てのものを注文してお金を渡す。「コーンでよろしいですか?」という店員の問いに「カップで」と返した。さくさくのワッフルコーンなら好きだが、それ以外のものならアイスの味だけで楽しみたい。少しして出てきたのは、カップに入ったイチゴミルクとブルーベリーのジェラート。それを受け取って、店内をぐるりと見渡した後外へ出る。少し寒そうだけれど、日向ぼっこでもしながら食べたい気分だった。真っ青な空とぽかぽかした日差しに目を細めながら、私は木でできた古っぽいイスに腰掛ける。時折ひゅうっと吹きぬけていく風が冬の寂しさを匂わせて、なのに振り注いでくる日差しはうららかで春を感じさせる暖かさだった。ゆったりと微睡みながら、ジェラートを口に運ぶ。冷たい甘みが口いっぱいに広がって、思わず笑みを浮かべた。ここの店は、隣に牧場がある。ちょいと覗けば牛の姿を見ることだってできるのだ。そんな新鮮なミルクを使ったここのアイスは、勿論美味しい。滅多に入ることはないが、たまにはこうしてのんびりするのも悪くないなんて思いながら、空になったカップをゴミ箱に入れて私は再び自転車にまたがった。さあ、次は買い物だ。と、気合いを入れて近くのスーパへ行く。日向に自転車を止めて、中に入れば真っ赤な苺が真っ先に目に入った。誘惑にかられながらも、カゴを持ってその横を通り過ぎる。作るものはもう決まっている。昨日小説の中で食べているシーンを見かけて、思わず食べたくなってしまったピザだ。パプリカを手に取って慎重に吟味しながら、形のよさそうなものをカゴへと投げる。あとはスイートバジルとイタリアンパセリ。やっぱりこれは生のものがいいな。なんて考えながら次々とカゴに入れていく。そして真っ赤なトマト。次に乳製品のコーナーに向かって、モッツァレラチーズを手に取る。いくつかあるうちの二種類を目にとめる。モッツァレラは、まんまるのあの状態が好きだ。けれどピザ用の薄いものも売っているし、どうしようかなんて考えて、結局、二つともカゴに放り込んだ。仕方ない、ひとつはカプレーゼにしよう。そんな風に考えて、会計を済ます。家に帰って早速生地を作りにかかった。パリパリのクリスピーも嫌いじゃないけど、今日はもっちりした生地がいい。強力粉と薄力粉、牛乳とドライイーストを混ぜて丹念に練って、しばらく置く。発酵させている間に、今度は近くの酒屋さんへ向かった。ピザはイタリアンだから、やっぱり赤ワインが一番合いそうだ。けれど甘めのカクテルなんかも飲みたい気分で、リキュールを取り扱っているか不安に思いながらも酒屋さんへと向かう。少し小洒落た趣ながらも、落ち着きのある酒屋。看板には大辛口純米や大吟醸の文字。良いものが揃えられているが、滅多に敷居をまたぐことはない店だった。お目当てのものは、『ディサローノ アマレット』というリキュール。有名どころだと、ゴットファザーなんかのカクテルに使われているものだ。私が飲みたいのは、イタリアン・アイスティーやコットンフラワーなんかだが。とにかく、目当てのものは入り口をすぐ入ったところにあった。大分古いもののようで、少しほこり被っている。店員のおばさんに声をかけると「ああ、それねぇ。古いから、いくらだか分からないの。お父さん帰ってくる頃に、また来てくれないかしら」困ったようにそう返された。それなら仕方無いと、再び家へとって返す。今度はソース作りだ。作るソースは二種類。一つはマヨネーズと醤油と七味を混ぜたもの。もう一つはトマトソース。オリーブ油とニンニクを鍋で温め、香りが立ってきた所にみじん切りにした玉ねぎを投入する。白ワインやホールトマト等も入れて丹念に混ぜ合わせ、味付けの確認をして、火からおろす。発酵した生地を薄く伸ばせば、段々とピザの形になってくる。その上に作ったばかりのトマトソースを乗せ、ベーコンと、薄く切ったトマト、モッツァレラチーズを乗せてオーブンに入れる。時計を確認して、再び酒屋へと向かう。戻ってきた店主から、目当てだったリキュールを買って外へ出るとぽっかりとほの暗く蒼い空に浮かぶ月。家につくと、香ばしい香りが部屋に漂っていた。お気に入りのジャズを流して、夕飯の準備を整える。買ってきたばかりのお酒をグラスに注いで今日一日を終わりにする。劇的の無い小説。一日の流れを書いた日記。煩雑な自分史。
February 25, 2013
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「私、外に出たい。いつまでもここに閉じ込められているのはいや……」差しのべられた手を取って、私の口からは考える間も無くそんなセリフが飛びだしていた。「うんっ、行こう行こう。やったねテン、賑やかになるよ」『しっかしまあ、俺にナイフ向けてきた時とは偉い違いだな』嬉しそうににへらと笑って言うソラに、黒い狼は苦笑交じりでそう返す。「あっ、あれは……、街人が、そういう風に喋れと……」『何だ、何から何まで自分達とは違うって線引がしてぇらしいな。胸糞悪ィ』慌てて言いわけをする私に対し、狼は不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。「まあまあ、テン。それより早くここを出ようよ、僕お腹空いちゃった」『全く、お前はマイペースだよな。まあいい、これ以上ここにいる必要もねぇしな。行くか』狼の発したその言葉を聞いて、ソラが待ってましたとばかりにぴょこりと立ち上がって外へと飛び出す。『改めて自己紹介するが、俺はテンだ。宜しくな、楓』私の方に向き直ったテンがそう言って尻尾を軽く振った。改めて呼ばれた名前に、なんだか胸がドキドキと騒いだ。「よ、よろしく。テン」『おう、じゃあ行こうぜ。ソラが待ち侘びてる』ぎくしゃくとした挨拶を返せば、テンはひらりと身を翻してそう言った。低く、落ち着いた声色はどこか安心をおぼえるものだ。「テン、かえで、早く!」ソラの言葉に促されて、一番最後に自分の部屋を出る。ひゅるりと吹いた風が私の長い髪を攫っていく。地面に足をついて土を踏みしめた瞬間、言いようのない高揚感が私の全身を支配する。嬉しくて、嬉しくて嬉しくて、どうにかなってしまいそうだった。自由。これが、自由。どこに行ってもいいのだ。これから目の前にいる猫のように掴みどころのないソラという少年と、テンというぶっきらぼうな黒い狼と一緒に、遠くへ、行けるのだ。『さて、まずはメシだな』「うんうんっ。早く行こう」歩き出した二人の後ろにぴったりとくっつくようにして、私は私が今まで育ったその小さな社を後にしたのだ。
January 18, 2013
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物心ついた時、両親なんてものは既におらず、その存在すら知ることはなかった。何で、等と疑問を持ったことも一度もない。ただ、そういうものなのだと思っていた。「お前は鬼子だ、災いの子なんだ」何度も良い聞かされたその言葉も、ただ、そうだというふうに受け取るしかなかった。私の世界は狭かったのだ。街の外どころか、この一つの部屋しかない家からすら出ることは稀で、出たとて朝早くか夜遅く。人のいなくなった頃合いを見計らってそうっと外へ出た。だから勿論他人とかかわることなぞ無かったし、関わろう等とも思わなかった。疎まれ忌避される忌人。一度も街の外に出たことがなかった。街の外どころか、街にすら行った事など無い。興味はあった。けれど行くことは叶わないと分かっていたし、諦めてもいた。それが“虚人”である私の、生まれ持った性なのだ。力を持ってして生まれてきてしまった、私への罰なのだと。思っていた。「僕はソラ。………君は?」透けるように蒼い瞳の彼は、私に手を差し伸べながら優しくそう問いかけてきた。咄嗟のことで言葉に詰まりながら、ややあって私は小さな声を絞り出した。「……キサラギ。と、街の者は呼んでる」だから多分、それが私の呼び名なのだろうと考えていた。けれど目の前の少年、ソラも、そしてその脇に佇む黒い狼も、私の言葉を聞いてなぜか顔をしかめた。『それは違ぇ』ややあって、狼の方が低い声でそう言い放った。訳が分からずきょとんとしている私に対し、ソラは苦笑交じりの顔を向けながら狼の頭をくしゃりと撫でた。「キサラギって言うのはね、古の言葉で“鬼”って意味なんだ。それは君の名前じゃないよ」優しく、子どもに言い聞かせるみたいにソラはゆっくりと言葉を紡ぐ。「じゃあ、私の名前は……?」不安になって思わずそう聞き返す。その答えを目の前の少年が知っている筈が無いのに。今までずっと、鬼だと呼ばれていたことに気付きもしなかった。その現実が、私を何故だかとても心細くさせた。その時、びゅうっとひと際強い風がこの部屋の中に吹き付けた。ソラが開け放ったままだった扉から風が吹きこんできて、それと共に真っ赤なカエデがひらりと私の視界を遮った。炎のような赤いそれは、風に煽られてひらひらと舞い踊りながら私の目の前にぱたりと着地する。するとそれを見ていたソラが、クスリと笑みを零した。「僕はこれから、君のことを“楓”と呼ぶよ。どう? 君のその綺麗な瞳の色みたいじゃない?」床に落ちたカエデの葉を拾って私の髪にあてがいながら、まるで悪戯っ子のように笑ってソラはそう言った。私の顔を覗きこんできた、彼のその海のように蒼い瞳に、私の紅い瞳が映ったような気がした。彼は私に、自由と、名前と、それから紅く色づく恋心を教えてくれた。
November 16, 2012
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じっと見つめ合った時間はほんの数秒だった。数秒で、私は我に返った。「っ、だ、誰じゃっ!」身を縮ま込ませながらも、私は威嚇するように少年を舐め上げて声を張る。「ん? 僕はソラ。で、こっちがテン」少年はというとにっこりと笑って飄々とそう名乗った。ソラと名乗った少年の横に居た、真っ黒な毛並みの狼が、一歩こちらへ近づく。「ひっ! く、来るでない!」慌てて叫んで、懐から小刀を取り出す。けれどテンと呼ばれた狼は、躊躇する事なくこちらへ向かってくる。「っ、っ………!!」刀を持つ手がカタカタと震え、背には壁があるというのに必死で後ずさる。「そんな怖がらなくても、テンはキミに危害なんて加えないよ?」「こ、怖がってなどおらぬ! ぬしもこやつの主人なら、さっさと止めよ!」「んー。そう言われてもー」わざと威圧的な口調で言うが、少年は薄く微笑んで首を傾げるばかりだ。そうこうしているうちに、テンは目の前までやってきて鼻先を私の手に押し付けてきた。湿った感触が手の甲に伝い、びくりと身を震わせる。『………間違いないぞソラ。この女だ』くるりと少年の方に向き直り、狼がそう伝えた。「っしゃべ……っ!?」唖然とする私を、テンが横目でじろりと見やる。『それと、俺はソラのペットじゃねえぞ。こんなアホ主人にしてたまるか』「あはは、相変わらずテンは酷いなー」不機嫌そうに鼻を鳴らす狼と、カラカラと笑う少年。状況についていけずに、私はただただ茫然としていた。いつの間にか体から力が抜けて、小刀が私の手から落ちてカラリと床に転がる。「僕は、キミを助けに来たんだ。一緒に行こう、自由になろう」淡く微笑んだまま、少年は一歩だけ私に近付くとそう言った。それは一層甘く優しい声で、私は無意識のうちに差しのべられた手を取っていた。「僕はソラ。………キミは?」その水面の湛えられたような蒼い瞳を何処か哀しげに細めて、少年は、彼は私にそう問うてきた。思えばこれが、私の存在のその価値の、はじまりだったのだろう。
September 12, 2012
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光輝と名乗った少年は、騒がしいのを好まないらしかった。周りからちやほやされ、あっという間に友人もできたのに何故か昼休みは毎日私のいる裏庭に来た。「いつも一緒にいる友達と食べればいいのに」「ハハ……。いくら仲が良くても、一日中一緒に居たら辟易してしまうこともあるんですよ」彼は軽く笑ってそう言った。文学が好きだと言う通り、彼は時々中学生が使わないような単語を使う。「疲れるってこと? 友達なのに?」「僕は友達付き合いが苦手なんです。静かな方が好きですし……」そう言いながら、手元の本をめくる。「ふうん」「山本さんは? いつも一人です」そう指摘され、私は足元を睨んだ。「私は、オンナノコと一緒にいると目立つから」「……そう、ですか?」「そうだよー。頭ひとつ以上とびぬけるからね」きょとんとする彼に、何でもないようにそう言って肩をすくめて見せる。「山本さんは、一人が好きなのかと思ってました。クラスの子と話している時も、あまり楽しそうじゃないというか……。あ、すみません。僕の気のせいかもしれないですけど」手元から顔を上げ、彼は慌てたようにそう謝る。「………ううん。何か、ほら……みんな子どもっぽくて、話しが合わないっていうか」何となく、それっぽい返事をしてみると、自分自身で納得できた。そう、みんな子どもっぽくて、幼稚で、話しが合わないんだ。「山本さんは、大人っぽいですからね」ふわりと微笑んで、彼はそう言った。「大人っぽい、かぁ……。あ、でも、野々宮君と喋ってる時は楽しい……かも」次の日から一緒にお昼を食べてくれなくなるかもと、不安になってそう付け足す。「僕も、山本さんと喋ってると楽しいです。落ち着きます」その日の夜の事だった。夢を見た。夢の中の私は、何故か野々宮君になっていた。低い視界。本屋さんにいた。欲しい本が届かなくて、精いっぱい手を伸ばして触れることすらできない。店員さんは忙しいのか、見当たらない。諦めて、店から出ようとした時、ふっと影ができた。私からすれば初めての経験だった。誰かの影が私を被う。見上げれば、長い手が欲しかった本を手にしていた。「………はい。」そう言って手渡された本。思わず顔を上げると、そこには見なれた顔があった。私が居た。私が無表情で、その本を差し出していた。ドキリとする。その時初めて、私は、私をカッコイイと思った。それは酷く単純なことで一度認めてしまえば、実にあっさりとあんなに嫌だった身長も、手や足の長さも、目線も、服も何もかもとは言えなかったが肯定できてしまったのだ。目が覚めて、やっぱり私の目線は高いままだったけれどなんとなく楽しくて、口元を綻ばせて笑った。
August 6, 2012
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大きい女の子と、小さい男の子私は、いつからだったろう。「あ、クマが来たクマ」クスクス笑う男子の声が聞えて、私の気分は暗く沈む。席についてカバンを置く。「あ、ねえー玲子。ちょっとあれ取ってー」クラスの女の子がそう私を呼んで上を指差した。掃除用具入れの上の段にある、辞書だった。私はそこまで歩いていって、手を伸ばしてそれを取る。「はい」「ありがとー! やっぱ玲子は頼りになるな~。そこらの男子じゃ役に立たないしさ~」辞書を渡せば、純粋に嬉しそうにそう言ってくる。私の胸は、ズキリと痛んだ。「俺等じゃなくて、山本が馬鹿みたいにデカいんだろー」すぐ後ろにいた男子から、そう非難の声が上がる。「なんたってクマだからな」「ちょっと男子ィ! 玲子、気にしなくていいからねー、もー」笑う男子をたしなめるようにして、辞書を持った女の子がそう言ってくれる。私は背が高かった。小学校高学年になると、ランドセルが似合わなくて嫌いになった。みんなが着ている可愛い服が着られなくて、ハイソックスが七分くらいになって、中学に入って、クラスの誰よりも背が高くなった。男子にからかわれ、女の子に庇われて、すごく、すごく嫌だった。目立つことが嫌いだった。なのにどこにいても目立ってしまう。動物園の動物にでも、なった気分になる。街を歩けば誰もが振り返る。こそこそ話しとクスクス笑いが聞えて来る。自然と、猫背になった。少しでも縮めばいいと思った。嗚呼、嫌いだ。自分も、全部。全部。その日、転校生が来た。男の子で、勿論私より背が低い。ひょろりとしていていかにもひ弱そうだった。身長をちょろっと耳にした。私より10センチは低いなァ、と心の底で考えた。小さい男は嫌いだ。よわっちいし、ちっちゃいし、鬱陶しい。その日一日、その子は女子に囲まれ質問を受け、困ったような顔をしながら返事をしていた。カッコイイ、という声が何度か聞えた。あれが、カッコイイ?不思議に思えた。カッコイイなんて、到底思えなかった。あんな、ちっちゃいオトコノコ。*その日は購買でジュースとお菓子を買った。牛乳が背が伸びると聞いてから飲まなくなった。バランスよく食べないと背が伸びないよ、と言われてから、不健康なものを進んで食べるようになった。校舎裏の庭にある、大きな木に寄りかかって、お昼にする。「あの……」声をかけられて振り返ったら、あの転校生の男の子がいた。「すいません。隣、いいですか?」声をかけられ、無言で少しずれる。ストン、と隣に座った。「何で敬語なの? 同い年なのに」そう指摘すると、彼は照れたように笑った。「クセなんですよ、すみません。あ、山本さん、ですよね?」「うん。えっと、何だっけ」「野々宮光輝です」思いだせなくて言葉に詰まると、光輝と名乗った彼はにこりと笑ってそう言った。続く
July 23, 2012
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日が傾き始めてほんの少しで、あっという間に黄昏が訪れる。私の部屋の中に差しこんでいた光がゆっくりと潰えていく様を、私は今日も窓から見上げる。私自身の影が伸びていって、最後には黒く消えてゆく様を。その時だった。ざくざくと土を踏む音が聞えて、私はびくりと肩を揺らした。こんな時間に誰かが此処にやってくる筈は無い。子ども達だって、大人からきつく言われている筈だ。食べ物だって、ちゃんと朝届く。なら、誰………。思わずじりじりと腰で下がって、狭い部屋の隅に縮こまる。すぐに足音は私の家の前までやってきてぴたりと止まった。「ここでいいんだよね、テン」『ああ、ここだ。匂いがする。間違い無い』ゆったりとした、少年とも女性ともつかぬ声と、低く無感情な声が聞えて来る。「………っ」「しつれーい」軽い声と共にガラリとドアが開いた。外見は神社のそれと寸分変わらぬ私の家は、ドアを開ければ部屋はひとつしかない。そしてそこに、布団と小さな机があるだけだ。ドアが開き、木々の間から覗いていた夕日の光が部屋の中に差しこんでくる。目が合った。華奢な少年の、蒼い瞳と。
July 23, 2012
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「――お前は猫のようだね」いつだったか、誰かがそう言った。僕は笑った。「自由気ままな野良猫だ」それがいいさ。猫は自由だ。僕も自由に生きる。気ままに、*雲一つ無い抜けるような青空の下で、ソラは大きく伸びをした。その仕草はまるで猫のようで、少し緩んだ口元は常に微笑を湛えている。年の頃は14程で、小柄な少年だった。短い白銀色の髪はぴょこぴょことあっちこっちに跳ねていて、蒼い瞳はぱっちりと大きい。女装でもすれば一見すれば男とは分からないだろう風貌の彼は、寄り掛かっていた木から背を離してゆっくりと立ち上がった。「なあ、テン。あとどれくらいで次の街に着く?」口元に笑みを湛えたまま、ソラは呟くようにそう尋ねる。すると次の瞬間、木陰から音も無く漆黒の毛並みをした狼が現れた。テンと呼ばれた狼は、ソラの横に立つと鼻先を上に向けて数回動かす。『あと少しだ。人の匂いが近いから、日の沈む前には街に入れるんじゃないか?』「そかそか……うんうん。じゃあ行こうか、テン」ソラは嬉しそうに何度か頷いて、テンの頭をくしゃりと撫でた。一人と一匹が、ゆっくりと歩を進める。ゆらり、ふたつの影が揺らめいた。
July 20, 2012
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このブログ内だけで作ろうと思ったオリジナル小説。*この街は迷路だ。ここを訪れた人間は誰もが口を揃えてそう言った。ひたすら続く石の家はどれも同じ形をしていて、規則正しく並んでいる。二階建ての造りに、硝子窓。黒い鉄の装飾が施されたドア。勿論全く同じな訳ではないのだ。この街の者達にしか分からない違いがある。この街がこうした規則正しい迷路のような構造になったのは、ほんの数百年前の事である。この街はこうして、“あるモノ”を隠している。ひっそりと、街の奥の奥に隠されるようにしてあるのは小さな森。そしてその中に、木でできた小さな家がある。―――私は、そこに隠されている。
July 19, 2012
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真っ暗で何も見えない。唸り声が聞えたような気がして、目を開けた。「…………」目を開けても景色は変わらず、黒。手を動かして自分の顔をぺたぺたと触った。「あれー、起きたー?」声が、した。低く、ゆったりとした、優しい声。「……今、何時?」掠れた声で呟く。「今? 三時だよ。おやつの時間。おやつ、食べる?」そう返ってきて、同時に温かく大きな手が僕の頬に触れた。「ううん。だいじょうぶ」「……………」ここは、どこ?あなたは、誰?私は………目が覚めても、眠りについても深い深い、海の底では日の光等届かない。
July 5, 2012
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最近の近況報告ですw今日タイ人にナンパされましたー(・A・)oちょっとあんまし何言ってるかよくわかんなかったんですけどね。むこうもそんな日本語得意じゃないっぽかったしもしょもしょと小説も書いてます。色々読んで書いてしてますが和風、洋風と順番に話し書いてますかね。そのうち中華でも書いてみたいです。あと最近分かったこと・官能小説は書いていてもそんなに楽しくない真夜中のテンションで一気に書いちゃわないと続きかけないですもん。あと、パターンが似たり寄ったりにしかできないので展開とかをあまり深く考えられないですからね。頑張るなら描写だけど官能小説で描写頑張るとなー………あと私が個人的に得意じゃないので、書くと段々辟易してくるタイプです。活き活きと書いてる人スゴイ。この前BL小説書いてる人で、雰囲気の描写とかがめっちゃくちゃ上手い人を発見しました。BLて言うても、いちゃついてもいないしエロでもないのでそんなに気にせずさらっと読めましたしねーうん。そんぐらいです。何かエロとBLについてしか語ってない気がするとか、、、うーん、面白ければなんだっていいんですけどね。
February 12, 2012
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進んでないようで、進んでいるんだもがいているのに、焦れているのに一歩も進んでないことなんて、ないあなたの一歩と、隣の一歩を比べなくてもいいすべき事が分かっていても、分からなくても迷った分だけ結果はちゃんとついてくる………はずだよね(´∀`;)ぇへへ迷い中でわたわたと更新しない日の方が多くなってきててねー少し前日記を整理しました。ハクちゃんは自分がいなくなる時に跡形も無く全て消し去って颯爽と去って行ってしまったのに。口が悪い私の少し特別な友人は、今は何をしているのか。。。ここ最近はバイトと大学に追われています。テストも近いのでまあ大変。のんびりまったりしてる訳にもいかないのですけどどことなく休み明けでぼんやりしがち。もうちょっと、
January 12, 2012
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昨年はお世話になりました。今年も宜しくお願い致します。。ハイ。一人寂しくお正月です(●´・ω・`●)家族は田舎に帰っていません。ロンリーです。お酒買って来て一人さびしく呑んでます。んー、寝てしまおうかw
December 31, 2011
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明日、30日の冬コミに出陣します!友人のお手伝いで売り子します(●´・ω・`●)ジャンルはマクロスFで、CPはブレランです*当日は私もルシファーランカのコスをして売っているので是非遊びに来て下さいまし。。
December 29, 2011
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今晩和。お久しぶりです><メリクリでした。私はやたらでかいケーキ食べましたが皆さんはいかがお過ごしでしたでしょうか?今日でやっとこさ二十歳になりませう(●´・ω・`●)これで年作りせずに堂々とお酒が飲めますね(`・ω・´)b本日はしなと一緒にお買いものへ~。そんでメイク道具買いました!はちみつのリップクリーム。今度の冬コミ用に、緑の眉用ライナーリキッドアイライナー口紅ファンデーションですん*それと別にラッシュでボディソープと洗顔スクラブを買いました。久々にお買いものできたなー(∀)おまけ最近のうちの子の近況。人が作ったスイートポテトをむさぼる図。
December 26, 2011
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静かな夜だった。その日の夜は本当に静かで、私がたてる物音とパソコンから流れるジャズピアノ。それと窓の外で静かに振り続ける雨の音それが混ざり合って延々とこの部屋に響いていた。響いていたというより、私の耳に微かな心地良さと共に流れ込んでくる。静かで、優しい夜だった。花の形を模したランプが橙色の灯りをちらつかせ、ランプの下にある木馬を模した銀色の置物をきらきらと輝かせている。夜の雨、静かな部屋。お気に入りの音楽と、落ち着いた環境。好条件の中、私はいつになく穏やかな心地で、上機嫌でいた。温かなブランケットは新品で、机にはアールグレイとチョコレィト。だからか、きっと少し浮かれていたのだろう。いつもよりのんびりし過ぎてしまったそして私は、後ろから入ってきたひとつの影に全く気付かなかったのだ。*部屋に入ってすぐに、私は口元を覆った。玄関まで嫌な臭いが届いてきている。生臭いにおい、明りの一切灯らない家。玄関の棚に置かれていたであろう細々とした置物が、ことごとく床に落とされて悲惨とも言えるぐらいに散らばっている。その先のひとつの部屋からぼんやりとした灯りが洩れていた。音楽に興味は無いが、カフェでかかっていそうなものが流れていている。そして、パソコンのキーボードを叩く微かな音もそうっと足音を殺して私はその部屋へと向かう。カチャリという音すら立てず、部屋のドアをそう……っと開いた。足元に飛び散った血飛沫ひしゃげて原型を留めない腕切り口から溢れだす、どす黒い体液その隣でまるでこの部屋の住人のようにむっとする匂いの中夢のように穏やかに湯気の立つカップに口をつけ、手元に置かれたチョコレートをつまみパソコンから音楽を流し、そしてキーボードを叩くひとりの少女の姿があった。
December 6, 2011
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「此処は……?」うっすらと目を開けて、真っ暗な闇に少し戸惑いながら呟いた。「気が付いたか」淡々とした抑揚のない声が降ってきて顔を上げると、目の前に人が立っている。「その声は、疾風?」「ああ」問いかけに人影が頷いたと同時に、部屋に明りが灯った。疾風が火のついたランタンを持っている。「疾風、私は一体……」そう言いながら立ちあがろうとして、手足が動かないことに気付いた。両手は後ろで縛られ、足も拘束されている。「は、疾風」驚いて疾風に声をかけるが、疾風は黙ったままこちらを見て動こうとしない。そしてつい、と動くと、そのまま部屋にある燭台に火を灯し始める。「う……」すぐ真横で声がして見ると、そこには同じように縛られている紅亜の姿。よく見れば、千歳や天音、凜の姿もあった。「ここは?」起き上った紅亜は、半ば朦朧とした声で呟く。全ての灯りを灯し終ると、疾風は無言のまま自身の持っていたランタンの火を消した。「疾風? アンタ、何してるワケ?」「部屋の火を付けていた」紅亜の問いに、疾風が抑揚のない声で淡々と答える。「……此処は何処でしょうか? 何故、私達は此処へ?」「貴様等が知る必要は無い」蜻羅の問いかけに、疾風は蜻羅達を一瞥すると吐き捨てるようにそう言った。「なっ!?」「はや、て……」驚く蜻羅と紅亜の横で、千歳が悲しそうな声でその名を呼んだ。しかし疾風は答える事無く、無言のまま部屋を後にした。ガシャンと、檻の閉まる音が部屋に響き渡る。「っう………」押し黙った部屋の中に、天音のうめき声がやけに響いた。「天音、御無事ですか?」「っ、蜻羅……疾風が、疾風が……っ!」蜻羅の言葉に、天音は苦しそうに顔を歪めながら何度もそう言葉を零す。よく見れば天音の体にはあちこちに傷があり、塞がり切っていない場所からは血がうっすらと滲んでいた。
October 3, 2011
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書きたい衝動が強いのです。いつかじゃなくて今やりたいことが沢山あって全て投げ打ってでも、小説家になりたいと思うんだけど保身的になって、いつまでも踏み出せないままでいる気がする夜中になっても夢中になって、空が白むまで読みふけるようなそんな物語を綴りたい今しか出来ないことをめいっぱい詰め込みたい。昨日は手慰みにマジパンで赤ずきんを作りました初めて作ったわりには可愛くできてよかったです(´∀`*)最近はとかくやりたい事が沢山あって出来うる限り全てのことをやってゆけたらと思うのです
October 3, 2011
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あのひとの目が好き睫毛が長くて、伏し目がちな目が好き声が好きゆったりとした、小さな……小さな声喋る時は、伏し目がちに小さな声で喋るのあのひとの後ろ姿が好き細くて、飛ばされそうで抱き付きたくなるあのひとがすきああ、わたしはいまあのひとさえいてくれればなんにもいらないの
October 1, 2011
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「おい、昨日の新聞見たか?」「見た見たっ。『吸血鬼到来!』……でしょ?」ざわざわとした教室の中飛び交う会話は、昨日今朝のニュースで持ちきりだった。「吸血鬼、ねぇ……」そんなクラスメイトを横目に、藾琉が小さく呟く。「本当に居るのかなぁ~?」「さあて。でも居たら凄い発見だね、生き残りが居る事になるんだから」苺夢の不安気な声に、沙ゞがそう返す。「生き残り?」「吸血鬼って言ったら、随分昔に『吸血鬼狩り』で全滅したって言われてただろ? 歴史で習ったの覚えてねぇのかよ」きょとんとする時歌に、葵が呆れたように説明する。「吸血鬼は食事の為に他人の血を根こそぎ奪って殺す生き物。『教会』も手を焼いたって噂されてやすな」るかが時歌の机の上に広がったお菓子を食べながら言う。「うーん、今回殺された人の血が全部奪われてたってこと?」「おまっ……ニュースぐらい見ろよ。それで吸血鬼到来って噂になってんだろ」葵の突っ込みに、時歌がにゃははと笑った。「近々この学園にも現れるかもねー」「ちょ、ちょっと藾琉さ~ん。怖い事言わないでよぉ」藾琉の言葉に、苺夢がそう言って眉尻を下げる。「ま、でも。学園には『ウィザード(十二の魔法師)』も居るんだから大丈夫でしょ」沙ゞがのほほんとそう言った時、丁度教室のドアが開いて担任の先生こと山ちゃんが入って来た。その後ろには、水干姿の10歳前後の男の子が居る。「誰?」「さあ、転校生?」「ちっちゃすぎね?」クラスメイト達が、今度はその少年に対してざわざわと反応し出す。「昨日今日のニュースは皆見ていると思う。くれぐれも気を付けるように! それと学園内には普段の結界とは別にワシが直々にもう一つ障壁を設けた。騒動もある故しばらくは外出禁止になる。以上!」小さな男の子は、高い声で偉そうにそう並べ立てると裾を翻してさっさと去って行ってしまった。「………え、誰?」ぽかんとする皆の前で、山ちゃんが大きく咳払いをひとつして「えー、今校長先生から直々に指示があったように、これから暫く外出禁止になるから覚えて置くように!」そう言ってみせた。「校長って、あの校長?」皆の頭に浮かぶのは、薄くなった髪と低い身長と大きなメガネをかけたどっからどう見ても冴えないオッサンの姿である。「今の、校長?」足首まである長く柔らかそうな栗毛の髪を下の方で緩く縛った水干姿の、10歳前後の愛らしい少年では決してない。「ああ、本来の姿で来られたのは時間が無かった所為だ。気にするな」山ちゃんも何と言って良いか分からない顔をして、ただそれだけ言った。「何で、何でいつも本来の姿で居ないの!?」先生方の中には本来の姿とは違った姿で過ごす人も居るが、皆若く美しい姿を取る。なのに本来の姿は可愛らしい男の子なのに、仮の姿は冴えないオッサンの校長。意味の分からない言動に、クラス内は暫し茫然としていた。
September 19, 2011
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――遥か昔、夢の中に異性が現れた場合。その相手が自分の事を想っていると考えられていた。今日、蜻羅はとても疲れていた。何故だったか、記憶を辿ってもとんと思い出せない。いや、思い当る節も無いが、兎にも角にも、蜻羅はそれは疲れていた。だからベッドに横になって、1分もたたないうちに眠りに着き………リィィン……辺りに響く鈴の音で目を開けた。――呼ばれた……どこかで声が聞える。「此処は?」「夢の中だな、我の」呟いた声に返事が来て、蜻羅は慌てて振り返った。疾風が居た。普段の白いローブ姿では無く、和装でイスに座っていた。「え、っと……呼び、ましたか?」「いや」少ししどろもどろになりながら問いかけると、疾風は小さく首を横に振る。そして、鋭い双眸でじっと蜻羅を見つめ、やがてゆっくりと立ち上がった。瞬間、と言ったら良いものか少し迷うくらいに瞬き一つの間に疾風の姿が蜻羅の視界で揺らめいて、消える。「なっ……!?」慌ててきょろきょろと見回すが、暗闇が続くばかりで何も無い。今しがた疾風が座っていたはずのイスも、もう無くなっていた。「此方だ」声と共に、ぐいっと服を引っ張られた。視点を下にやると、千歳と同じくらいか、それよりも小さいかくらいの少年が、蜻羅の服を強く引いていた。「は、疾風?」少しも動じず、何か知っているかのような彼の様子に、蜻羅はただ困惑して声をかける。すると疾風は横目でちらりと蜻羅を見上げ、むっつりと口を噤んだまま速足で歩き続けた。速足だったのが、段々と駆け足に変わってきた頃蜻羅はふと、自分の視界が変わったような気がして小首を傾げた。先程まで蜻羅の服の裾を掴んでいたはずの疾風が、蜻羅の手をしっかりと握っている。今まで真下にあった疾風の頭も、目の前にあった。疾風の背が伸びたのかと一瞬考え、しかし蜻羅は自分自身が小さくなったのだと気付いた。しっかりと握っている手が、二人とも小さく柔らかい、幼子のもので普段なら走っても大した距離では無いのに、既にお互いの息は切れ、額に汗が滲んでいる。繋いだ手がじっとりと汗ばんで、手を離すべきか少し迷ったが考えている間に疾風が握った手にぎゅっと力を込めたので、結局離す事もままならなくなって蜻羅は俯いたまま引かれるままに前へと進んだ。自分の小さな足が、床を踏む度にカラン、コロンと軽快な音を立てる。鮮やかな模様の描かれた長い袖は、走る早さに合わせて左右に揺れた。「着いたぞ」その声に、蜻羅ははっと我に返った。息を切らしながら振り返った疾風は、幼さを残したその顔に小さな笑みを浮かべた。そして、しっかりと握っていた手を離すと、二、三歩後ずさって距離を取る。「あ……っ」慌てて追った手は、虚しく宙を掻いて「また、何処かで会えたら……」淋しそうに笑って、目の前の少年がそう言った瞬間真っ暗だった暗闇に光が差し込み「待って、待って下さい! 貴方は……」言いかけた蜻羅の言葉を遮るように、少年は口を開いた。しかしそれが音になる事は無く蜻羅は、閉じていた瞳をゆっくりと開いた。「ん……」窓から朝日が差し込んでいる。「朝。……何か、夢を見ていた様な気が致しましたが」ぼんやりと呟いて、蜻羅は温もりが残った掌をきゅっと握りしめた。
September 3, 2011
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「いいか………、我が合図したら貴様はすぐに反対へと走れ」押し殺した低い声で、彼はそれだけ言うと壁から奥へと目を光らせた。「あ、あの……わたし」「愚図愚図するな。とろい奴は好かん」掠れた声で話しかけようとした瞬間、被さるように鋭い声。「いいか……、今だっ!」鋭い声と共に、彼は男共の前へと躍り出た。瞬間、私は弾かれたように彼に背を向けて走り出す。刀の擦れ合う音と共に、卑下た男共の叫び声が混じる。ただ私は、その時必死で転びそうになる足を叱咤しつつ走り続けた。*「疾風、似合ってるよ」「………この服は以外に動き易いんだな」和装に身を包んだ疾風が、感心したような声でそう言う。「そうだねー。袴だし動き易いかもね、戦いでは袖がちょっと邪魔かな?」「武器によるケド、疾風が今腰に差してる刀ならまだ平気なんじゃないの?」藾琉の言葉に、紅亜がにやにやと笑いながらそう返す。「そう、だな。疾風、刀で大丈夫だったか? 大剣みたいな大きい剣は、流石に専門店に行かないと売ってなくて」「いや、問題無い。少し軽すぎるが、その分動きが速くなる」心配そうに聞いてくる葵に、疾風は刀の鞘に手をかけながらそう答えた。「その言い方だと、もう試したのかい?」「ああ、昨晩少しごたごたがあってな」沙ゞの問いかけに、疾風が苦虫を噛み潰したような顔でそう返す。「ほほう、珍しいですな。疾風はそういうの以外にさっさと逃げてくるのに、強い相手だったんですかぃ?」「いや、雑魚だ」るかの問いに疾風が一言そう言った時、丁度部屋のドアが叩かれた。「お客さんに、用事があるって人が来たわよ」ドアの向こうから、宿屋のおばちゃんの声がする。「あ、はーい!」「誰かな、かなぁ?」時歌がベットからぴょんと飛び下りてドアへと向かう。「この町には、知り合いなんて居ないと思ったけど……」そう言いながら皆は下へと降りて行った。そこに居たのは、一人の女性。「………お前は」「疾風、知り合いなのぉ~?」疾風が軽く目を見張ったのを見て、苺夢がそう尋ねる。「あ、昨晩は……ありがとうございました」女性は疾風を目にとめると、いそいそと近づいてきて深々と礼をした。
July 25, 2011
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幸せに、この二人のキャラが安定しないのよ。「ね、綺砂」「……………」話しかけても返事は無く、嘩音は内心ひっそりとため息をつく。「そういう所、すごく似てるよね」「誰に?」聞えていないと思って呟いた言葉に、返事がきて嘩音は思わず顔を上げた。綺砂はさっきまで読んでいた本を閉じて、こちらを見ている。「読み終わったの?」「いや、あと少しだけど……。もしかして嘩音も読みたかったの?」嘩音の問いかけに、綺砂が首を傾げてそう聞いてきた。「別にぃー。どんな内容なのか少し気になっただけ」昔一度だけ、話題作りの為に綺砂が読んでいた本を借りた事があった。3ページで眠くなって断念したが「今回の話は、大竜(ドラゴン)に攫われたお姫様と、それを助ける剣士の話だよ」瞼を閉じてそう語る綺砂の横顔を眺めながら、嘩音はぼんやりとその話しの内容を想像する。「この話は“ノーテ・フロウ”の書く物語にしては珍しくハッピーエンドじゃないんだけど」「ハッピーエンドじゃないの?」綺砂の言葉に、思わず問い返す。大竜に攫われたお姫様と剣士の話。似たような話は探せばいくらでもあるだろうが、ハッピーエンドにならない話は嘩音は今まで聞いた事が無かった。「うん、そうだね。お姫様は最後、大竜と仲良くなるんだ。だけど何も知らない剣士がお姫様を助けに来て、大竜を殺してしまう」綺砂の言葉を聞きながら、嘩音は複雑な顔をする。もしも、私だったら……綺砂が助けに来てくれるだろうか、そしたら「初めて出来た友人を失った悲しみに、お姫様は嘆き、大竜と共にその城に閉じこもってしまう」「剣士は?」静かに語る綺砂の声を心地よく感じながらも、気になって問いかける。「大竜を倒した時の傷によって、瀕死の状態になる。それを、近くの村娘に助けられる」やがて傷の回復した剣士は、村娘に別れを告げて再びお姫様の元へ時間の経過により落ち着いたお姫様は、剣士に謝り、自分はこの大竜の城に残るといことを告げる。剣士は一度王国に戻り、王様にその旨を伝える。王様は最初納得しなかったものの、剣士の働きによって徐々に理解を示した。剣士は王国とお姫様を繋ぐ者として、その間を行き来してはお姫様の生活に必要なものを運んだり、話し相手となったりする。「剣士はお姫様が好きだった」だからそんな生活に満足していたし、お姫様も剣士に惹かれている所があった。けれど、「それをよく思わない者もいた」剣士を助けた村娘。その娘は剣士に恋をしていた。助けた日から、お姫様に会う為に頻繁にその村を訪れるようになった剣士に村娘はますます惹かれていっていた。けれどある日、村娘は剣士がこの村に訪れる理由を知ってしまう。嫉妬に狂った村娘は、剣士が王国に帰っている間にお姫様を殺してしまった。何も知らずに戻ってきた剣士は、お姫様が死んでいるのを見つけて、悲しみにくれた。王国に戻ってその事を国王に知らせるが、剣士はお姫様を殺した罪人とされてしまい、国を追われることとなる。「お姫様のこと、好きだったのに?」「好きだったから、身分違いの恋に狂って殺したと思われたんだ」綺砂は何を考えているのか分からない表情で、淡々と語る。「行くあての無くなった剣士はお姫様の住んでいた、大竜のお城に行くんだ」そこで、城の中にいる村娘を見つけ同時に、村娘がお姫様を殺した事実を、その城に住みついていた悪魔から知らされる。「最初、剣士は信じなかった」けれど、村娘の言動が段々と怪しくなりある日村娘が、教会の裏でそのことを懺悔しているのを聞いてしまう。「剣士は村娘を殺し、そして……二人の女性を殺したという罪で、死刑になる」嘩音は息を呑んだ。「でも、お姫様は……」「そう。御姫様を殺したのは村娘だよ。けれど、目撃者も居ないし、当人を剣士が殺してしまったから」証拠は何も無くなってしまった。「何だか、釈然としないお話だね」「そうだね。けれど」嘩音の言葉に、綺砂は何か言いかけて止める。けれど……きっとこれで良かったんだよそう、言ったような気がした。「私は、もっと幸せになれる未来があったと思う」小さく、聞えないぐらいの声で、そう呟いた。私が変えて見せる。悲劇じゃない物語に
July 21, 2011
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私の尊敬する人は、パパでもママでもない。パパもママも好きだけど、尊敬とはちょっと違う。「紅亜!」「嘩音? いつもいつもよく飽きないねぇ」私の姿を見て、紅亜は呆れたようにそう言って苦笑する。「ねえ紅亜! 私好きな人が居るの」「……………へえ」私の言葉に、紅亜は物凄く微妙な顔でこっちを見て、特に驚いた風も無くそう言った。「びっくりとかしないの?」「びっくりって、……相手は綺砂ってトコ?」私の言葉に、紅亜はあっさりとそう言う。逆に私がびっくりした。「何で? 何で分かるの!?」「何でって……いっつも一緒にいるし、嘩音が綺砂以外の男の話ししてるのってアタシは聞いたコトないケド?」勢い込んで尋ねると、あっさりと返ってくるその答え。………確かに。「意中の相手の話しを一回もしないのは、流石にナイでしょ。ましてやおしゃべりの嘩音が」イスに背を預けて大きく伸びをしながら、紅亜はどうということも無く言う。「うぅ……」何も言い返せずにいる私を見て、紅亜はクスリと笑った。「しかし、懐かしいねぇ。昔の蜻羅と疾風を見てる気分だ」「昔の?」紅亜の声色が柔らかくなったのに気付いて、私は顔を上げた。「ああ、ずっと昔ってワケでも無いから20~30年位前のコトだったかな」思い出しながら語る紅亜は、どこか楽しそうででも、切なそうで「紅亜は、恋とかしなかったの?」嘩音の身近の人達である両親や、そして疾斗と凜も、あとニンゲンの葵とかその他の人も、結婚している人や恋人が居る人は多い。そんな中で紅亜の恋愛事情は、今まで一度も聞いたことが無かった。「さあ、てね。したような、しなかったような」紅亜は飄々とした顔ではぐらかす。「えー、教えてよ」「誰にも言わないって約束できるならね」私の言葉に、紅亜は少し考えてそう言ってきた。私は迷うことなくこくこくと頷く。すると紅亜は悪戯っぽく笑って、「疾風のコトが好きだったんだケドね」と、そう言った。「…………え?」私の反応に、紅亜は余裕の笑み。「それ、本当?」「嘘じゃあ無いね」いつも通りの表情で、声色でそう言う紅亜。「でも、疾風は」「そう。まあ、失恋ってコトかな?」肩を竦めてそう言ってみせる。「でも、まあ。アタシにはそれよりも好きな人が居たから」「え? それって、えっと……」浮気、とは違うけど何と言っていいか分からずに、口をぱくぱくとさせる。「んー、嘩音にはちょっと難しいかな」「その人は?」困ったように笑う紅亜に、問いかける。「死んだよ。もっとずっと、50年くらい前に」「………っ」疾風は、その後に好きになった人。「だけど、それは」「さ、この話しはココまで」言いかけた私の声を遮って、紅亜は立ち上がった。「アタシはこの後出かけるから、その“好きな人”と遊んでいらっしゃい」ニヤリと笑って、紅亜は出て行ってしまった。背中を見送った後、私は止めていた息を一気に吐き出した。
July 20, 2011
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私の好きな人は、彼に似ている。整った容姿に涼し気な目元。私より長いさらさらの綺麗な髪は、彼女に似ている。彼も彼女も、二人ともとても美しいから美青年と美女から生まれたあの人は、とても美しい。女の子と間違えられること、度々。その度に困ったような顔で私を見るから、毎回私は笑ってやる。少しそのことを気にしてる。私の好きな人は、本が好き。よく木陰で本を読んでいる。夏でも長袖のことが多い。汗ひとつかかずに涼しい顔で本を読んでいる。ちょっと憎らしい。彼の隣に座るとよく分かるが、彼の居る場所は風が吹き抜けてとても涼しい。だけど私はずっとじっとしていられないから、結局またお日様の下に走り出る。やかましい私と違って、物静か。馬鹿な私と違って、頭も良い。でも結構おっちょこちょいで、物凄く鈍い。これは多分、二人に似たんだ。運動は私の方が少し得意。身長は私の方がほんのちょっと高い。私の好きな人は、私の好きな人は私のことを好きではない。友達。ただの友達。まだ、それでも良い。もう少し先までは
July 19, 2011
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「ねえ、疾風」「…………」少女の呼びかけに返ってきたのは、沈黙とガラスが鳴らすカチャリという音。美青年と称すれば誰もが頷くであろう整った容姿に涼し気な目元。長い髪は窓から差し込む陽の光を浴びてきらきらと輝き、眩しくも美しい。そんな彼の瞳は手元を一心に見つめて少しも動かないでいた。手元には細工の施された色ガラスで作られた、一羽の鳥。翼を広げて今にも飛び立ちそうなその小鳥は、清廉であり儚くも美しく、そして柔らかい空気を纏っている。神々の居わす世界にはこんな鳥が飛んでいるのだろうか、とぼんやりと考える。そんな風景が浮かぶくらい、目の前のその小鳥は綺麗であった。彼がそれに最後の硝子をはめ込み、小鳥の翅は鮮やかな色彩を放つ。完成したのだろう。彼の肩から少し力が抜けた。小さく息を吐き、そうっとそれを持ち上げる。すると窓から差し込む光で、小鳥は更に美しく輝きを増した。思わずため息が零れ落ちた。その音でやっと気付いたのか、彼はちらりと横目でこちらを見やる。「それ、いくら?」「………まだ決めていない」尋ねると、にべも無い返答。こんなぶっきらぼうな人物から、こんな美しいものが生れ出るのかと思うと少し妬けてくる。「……顔は良いのに」「何がだ?」呟くと、聞えていたのか妙な顔で見られた。別に、と誤魔化してその鳥に再び目を向ける。こんな美しい鳥が、仲睦まじく飛んでいたら更に綺麗に見えるだろう。飛んでいなくても、互いに寄り添っているだけでも「ねえ、疾風」「何だ」呼びかければ、今度はすぐに返事が来る。「これ、私に売ってよ」「これから置物になるよう加工する所だが?」彼は私の言葉に驚くこともなく、ただそれだけを告げる。足が不安定だから、このままではこの小鳥は立たないだろう。「これ、オス?」「決めてないが」彼の言葉とは関係ない問いかけをするが、返事はすぐに来る。「じゃあ、オス。ね、メスも作って」「二羽にするのか?」彼の言葉に、私はこっくりと頷いた。「オルゴールが良い」「蓋の飾りには少し大き過ぎないか?」両手で救うように小鳥を持って、彼はそう言う。「少し大きめのオルゴールにして、写真とかも入るように」「分かった」私の我儘に文句ひとつ言わず、彼は次の作業に使う材料を机上に準備して行く。幾らになるのか知らないが、働いてもいない小娘が買えるような代物では無いだろう。彼の店の常連の、羽振りの良い客が見たら数十万は平気な顔で出すであろうことは容易に想像がつく。数十万は下らないだろうと思えるような品なのだ。これにオルゴールと、もう一羽の鳥。眩暈がするような金額に違いない。今からどうやってそのお金を貯めようかと思案に耽っていると、「完成は早くても三日後だ」「そんなに早いの?」流石に三日ではお金など集められない。「早くて、だ。今までのペースで行くと二週間ぐらいになる」淡々とした声色でそう告げられる。三日よりはましだが二週間で数十万を稼ぐのはほぼ不可能だろう。「お金、そんなにすぐ払えないよ」「………ならば明日から二週間。此処で働けば良い」私の言葉に、彼はどうということもなくそう告げる。「………疾風がそう言うなら」たったそれだけであの美しい小鳥が手に入るとも思えなかったが、他ならぬ疾風の言葉なので一応は、頷いた。
July 18, 2011
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お日柄もよく……!曇り時々晴れですよ(●´・ω・`●)今日はせいろさんと苺夢ちゃんと一緒にアンサンブルを聴きに行きます*そんな本日のコーデべいびぃのいちごちゃん柄です♪最近はバイト続きでロリィタ服どころかスカートもあまり着れないので久々にろりぃただと嬉しいですね(・∀・)最近は日記の方も滞っているので……ちょこちょこ書いてゆきたいです。
June 19, 2011
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明日は漢検ですよー。勉強してない(●´・ω・`●)*ろりぃたばとん*◆お名前は?夜月紫です◆年齢を、差し支えなければお願いします。19歳ですねー。16歳ぐらいで止まってたかった。。。◆ご職業は?学生してまふω◆ロリィタファッションを知ったのはいつ頃ですか?中学1年くらいからーですかね。可愛いけど高い!っていうイメージが^^;友達と欲しいねーって話してました*◆ではロリィタを着始めたのはいつ頃からですか?高校入ってからですね。ろりぃたを着てるコが居たので、一緒に買いに行きました。初めてお迎えしたワンピースがコルネットでした♪◆ロリィタにも甘ロリ・ゴスロリ等色々有りますが、自分は何だと思いますか?主にクラシカルロリィタを着てます。全般大好きなので、ゴシックロリィータや甘ロリ、パンクなども時々着ますね。◆好きなブランドをお願いします。Innocent Worldさんでよく買い物してます。PUTOMAYOやBPN、APなども好きですよ(浮気性w)◆では何故そのブランドが好きですか?Innocent Worldはあの落ち着いた雰囲気の中にある可愛らしさが好きっ><色合いとか、派手でなく地味じゃなく……。PUTOMAYOはごく最近ちょっとハマってます。軽い服が多いので、重たい服が面倒な時とかに着てけて便利(笑)にゃんことかアリスとか、大好きなもので埋め尽くされてる柄もツボです><Angelic Prettyはあの可愛らしさが大好きです*オリプリとかむっちゃ可愛くて、画像見てにやにやします(・∀・)BPNはエレガントでカッコイイ!すらっとしてるシルエットとか、ボタンの色合いとかにすごく惹かれますv◆逆に、あまり好きではないブランドは有りますか?特に無いですかね。。。?強いパンクはあまり着ませんが……。BODYLINEは着ませんね。◆一番お気に入りの服は何ですか?フリルの、パフェ柄の黒いワンピースです。クローゼットチャイルドで購入したのですが、とってもとってもお気に入り♪◆では、何故一番好きか理由をお願いします。レースご豪奢さとか、柄とか、ですかね?◆手に入れたい!今一番欲しい服は有りますか?2度に渡り予約完売して結局買えなかった、イノセントワールドのアンネッテワンピースですね。あと同じ理由でロイヤルクラウン刺繍ワンピースの水色です。◆逆に手放そうとしている服は有りますか?ん~……。メタモルフォーゼのベリー柄のスカートですかね……?◆ロリィタ服で好きな色は有りますか?赤、ボルドー系の色大好きです!特に赤系は靴が良いですね。真っ赤な靴。どっちかというと不吉なイメージがありますが、大好きです*あとは黒やミルクティ色など茶色系とかとか。ラベンダーとかも好きです。◆では好きな色の組み合わせ(サックス×ピンク等)は有りますか?ショコラ×ミント・ショコラ×ピンク黒×ボルドー・ボルドー×ショコラ黒×ピンクなどなど色々*◆ロリィタファッションの際使うお気に入りアイテムは有りますか?カチューシャが大好きです。大きいのも小さいのも、リボンの付いたカチューシャは大好き。◆逆に、買ったけどロリィタファッションとは合わなかったアイテムは有りますか?ロリィタのものはロリィタのお店でしか買わないので、そういったのはあまりないですかね?ロングスカートとかは私の身長のせいで似合わない、とかなら……。◆ボンネット・カチューシャ・ヘッドドレス・ベレー帽どれが好きですか?カチューシャですね。ボンネットも持ってるのですが、カチューシャの量が群を抜いて多いです*◆ヒール靴とぺたんこ靴どちらが好きですか?ぺたんこの方が断然歩きやすくて好きですが。身長が小さいのでヒールの方がいいのかも……?でも背が高くなるの嫌いなので、やっぱぺたんこが。。。◆ロリィタ服を着る際気をつけている事は有りますか?仕草とか行動とかが、服とそぐわない。なんてことにならないように;姿勢や歩き方、等は気を付けています。あとはスカートが他人の邪魔にならないように……とか?◆ロリィタ服はどの位の頻度で着ますか?バイトがある日は着れないですが、それ以外でわりとちょくちょく着てます。大学にも着てってますが、朝が早いとメイクができなかったり、疲れているとちょっと……という場合もありますねー(- -;)◆主に出没する場所は何処ですか?新宿、原宿辺りはよく買い物に出かけます。あとはー、松戸辺りとかに……w◆ロリィタ服を着ていて一番良かった事は何ですか?幸せで仕方ないですw可愛いものに包まれて、ぬいぐるみを抱きしめて、お人形さんになっちゃいたいくらい!誰かに「可愛い!」って言ってもらえると嬉しくなります♪◆逆に一番嫌だった事は有りますか?うーん………出費?◆ロリィタファッションを辞めようと思った事は有りますか?勿論無いです!本当はいくつになっても着ていたいけど、可愛いお洋服は可愛いコに着て貰いたいと思ってるので、年が年になったら辞めちゃうかな。。。そしたら部屋のインテリアや小物とかで我慢しますw◆ロリィタ関係で読む雑誌は有りますか?ゴシック&ロリータバイブル。今月号に友達が載ってます!『しな苺』ってHNなので探してみて下さいな。お人形さんみたいでかぁいいですよ♪KERAも時々立ち読み程度で……。◆一番初めに買ったロリィタ服は何ですか?コルネットのボルドーワンピースですね。あとはBPNのジャケット、とかかしら。◆月幾ら程ロリィタファッションに使いますか?2、3ヶ月に一回の割合で4~5万ぐらい使ってると思います。◆ロリィタ小物や服等手作りした事は有りますか?そういうのは大得意な友達が4、5人はいるので任せてます(`・ω・´)黒ブラウスを一度家庭科の授業で作り、あとは帽子ぐらいですかね。。。◆上手くいきましたか?ブラウスは、なんせ家庭科なので実用性にはあまり……な感じ。帽子は割合上手くいきます。得意なのはきっと帽子です(笑)◆憧れのロリィタさんがいらっしゃいましたら教えて下さい。MANA様や、翠ちゃんですかね。身近な友達では、しなちゃんです。服のセンスも、小物作ったりする技術もすごいしなんといっても可愛いですからw私もあれくらい可愛くなりたいな~。。
June 3, 2011
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一日一小説第二弾!ちなみに『リブロ・チッタ』はフランス語です。「ねえねえ、明日暇?」放課後。帰り支度をする生徒や、お菓子を広げてくっちゃべっている生徒、レポートをやっている生徒達などで教室が賑わっている中、いつものメンバーが藾琉の机に集まっていた時、時歌がそう切り出した。「ボクは暇だよぉ~」すぐさまそう返す苺夢と、手帳をチェックする藾琉や沙ゞ達。「ん、暇だね」「ウチも暇だな」皆が次々と頷くと、時歌も満足そうに頷いた。「よっし、明日遊びに行きましょー♪」「どこに?」時歌の突然の提案に、沙ゞがそう問いかける。「最近できた『リブロ・チッタ』っていう遊園地」「ほほう、『本の町』ですかぃ。面白そうですな」時歌の説明にるかがおにぎりを食べながら返した。「でしょでしょっ。この前ネットで見てみたんだけどす~っごく面白そうだったの」「ふうん。幾ら?」盛り上がる時歌に、藾琉がお財布を出しながら尋ねる。「えっと、入場料が10シンク(約1000円)だよ」「ん、なら大丈夫か」時歌の返答に、サイフをぱちんと閉じて頷く藾琉。「じゃあ、明日の朝10時に寮の出口前で」「ういさー」そんな会話をした後、適当に喋った後各々の部屋へと戻った。*「ここがその『リブロ・チッタ』?」先生に外出届を出し、近くの町までワープした後、ドラゴンタクシーに乗って40分。葵一行はとりあえず目的地へと辿り着いた。どこぞの宮殿のような建物に『リブロ・チッタ』と書かれた看板がかかっている。中へ入っていくとフロントがあり、そこに女性が座っていた。「いらっしゃいませ。6名様ですか?」「はい」受付嬢の言葉に頷いて、葵がお金を払う。それに続いて皆もお金を払い、チケットを貰った。「では右の扉へ進み、これから『リブロ・チッタ』へと向かう媒介を設定して下さい」「媒介ってぇ~?」受付嬢の言葉に、苺夢が首を傾げる。「このアトラクションの中で使うキャラクターのことだよ。決められたパーツの中から好きなものを選んでキャラクターを構成するの。オンラインゲームと一緒だよ」「へえ。ウチはオンラインゲームはやったことないなぁ」時歌の説明に、葵がそう言って肩を竦める。「多分オンラインゲームで一番楽しいのってキャラクターの構成だと思う」「……確かに」藾琉の言葉に、時歌が最もな顔で頷いた。「とりあえず、キャラの設定行きやしょーか」るかの言葉で、皆は右の扉へと進んだ。長くなりそうなので切ります。続きはまた明日に……。
May 22, 2011
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一日一小説第一弾!オチなんて無いです。「あ、紅亜。ご主人達が探してたよ?」前からぱたぱたと駆けてきた天音が、そう言って笑う。「アタシを? 何かあったワケ?」そう問いかけるが、天音はにやにや笑うだけで何も言わない。「あとはもう紅亜だけなんだって」「………何が? ていうか、イヤな予感しかしないんだケド」嫌な笑みを浮かべている天音に、紅亜は眉を寄せて返す。「まあ、一応純粋に困ってるみたいだから、助けてあげてよ」「困ってる?」天音の言葉をそのまま返す。目の前の天音は少し悪戯っぽく(楽しそうに)笑っているわけであって、主人達が困ってることなど気にもしていないようにしか見えない。それでも困っていると聞けば、行かない訳にはいかなくなってしまう。何があるのか分からないまま、天音は取りあえず自らの主人の住む部屋へと戻った。部屋に辿り着いてドアを開けた瞬間、騒々しい声が耳に触れる。「だーかーらっ! 何で最初っからそれを言わないの!!」「い、いやぁ……私も、さ、この前知ったってゆーか……?」怒鳴る、沙ゞの声。と、いつもより元気の無い時歌の声。「あ、紅亜ぁっ! 紅亜来たよぉ~!」苺夢がぱっとこっちを向いて、ほっとしたようにそう言う。「あ、紅亜っ!!」葵が大声でそう叫んで向かってくる。「な、何……? そんな大声で言わなくても聞えるんだケド」若干引き気味に応える紅亜。「オマエ、楽器得意だったよな?」がしぃっと紅亜の肩を掴んで聞いてくる葵。目が坐っている。「え? あ、ま、まあ……ね」「紅亜、これ何だか分かる?」藾琉がそう言って指差した先には、美しい装飾が施された琴に似た楽器。琴とは違い四角形の形をしており、台の上に乗せられている。「………ああ、揚琴だね」「おお! 流石紅亜しゃんですな。演奏できやすかぃ?」紅亜の言葉に、一同何故か安堵の息を吐く。るかの問いかけに、紅亜はとりあえず頷く。「よっしゃ、紅亜で決まりだな!」「あの、さぁ……勝手に決めないで欲しいんだケド?」葵の言葉に、もはや置いてけぼりの紅亜が声をかける。「今日の夕方、演奏会でこの曲を弾いて欲しいんだよ」沙ゞがそう言って楽譜を差し出して来る。「ん? それぐらいなら、別にいいケド?」楽譜に一通り目を通して頷く。「聞いてた? 今日の夕方だからね?」藾琉が念を押すように言う。練習時間なんて無いに等しい。今は既に3時を回っている。「時間は?」「日の入りくらいだからぁ、6時かなぁ~?」苺夢の言葉を聞きながら、紅亜は床に転がっていた棒を手に取った。軽く叩けば、美しい音色が部屋に広がる。楽譜を床に伏せ、目を閉じて一呼吸おいてから、紅亜は手を動かし出した。紡ぎだされた音達が重なり合ってメロディを奏でる。「おお………」「すっご……」思わず感嘆の声を上げる皆。「で、何で突然?」演奏し終わって問いかけてみる。「異国の文化に触れようっていうヤツで、くじ引きの結果これが出たんだよ。その楽器について調べれば良かったはずなんだけど、急遽予定が変更されたらしくて、演奏者を探さなきゃいけなくなったんだ」そう説明しながら、葵がひとつの紙袋を紅亜に差し出してきた。「コレは?」「衣装。私と沙ゞで作ったやつだよ」あっさりと応える藾琉。「着ろと……。随分派手なもの作ったね」広げて見ながら、紅亜がそう感想を述べた。赤の生地に金の刺繍が入ったもので、薄いヴェールがそれを被ってうっすらと輝いている。「派手? でもチカの言葉を使ってる国の人達ってこんな感じのもの着てない?」「緋色は王家の色で、庶民が身につけることは許されないんだよ。普通揚琴を奏でるのは王家では無いからねぇ。どっちかって言うと聞く方だったし」そう言って肩を竦めて見せながらも、紅亜は大小(長細?)わかれた帯が3枚もあるそれを魔法のような手際で着用した。「すごい、本当に着れるんだ」「作っといて?」「いや、作り方見ただけだし……」言いながら、藾琉と沙ゞが紅亜の周りをまわって衣装の確認をする。「うん、うん」「よし」「じゃ、さっさと行こうぜ!」「だね、急がないと山ちゃんにどやされるし」言うが早いが、揚琴をもって玄関へと向かう皆。「………御主人達はいつもいつも忙しそうだねぇ。退屈とは程遠い生き方で羨ましいよ」呆れ半分そう呟きながらも、紅亜も葵達を追うようにゆったりと玄関へ向かった。
May 21, 2011
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痛み恐怖で逃げ出したい人達が沢山いる変わってあげたいくらいそんなに難しい仕事じゃないから私にだって、できる。報われない仕事を一生懸命にこなしていく人達文句だけを言って表には出てこない代表者さん。変わりに糾弾を受けるのは、一生懸命に仕事をしている人達。報われないと知りつつ、逃げずに頑張る人達。いちばん可哀想なのは、人間じゃない何も知らない、何もしていない、何一つ悪くない動物達。いつもいつも、人が酷い仕打ちをしているのに文句ひとつまともに言えない、動物達。自然にあるものを使い、自然に寄り添って生きている彼らを邪魔している私たち。ごめんなさい。いつも、それでも私は、今こうして電気を使い、機械に頼り、資源を燃やし、奪い、生活している。何も言わないで、じっと息を顰めて、耐えているのは動物達。それでも浅ましい生き物だから、私は、私達は、何かを非難せずにはいられなくて自らの地位を守る為だけに沢山のものを犠牲にしてゆく。報われない悼みは神に祈れば救われるのでしょうか?同じように、自然が癒してくれる私達は、酷く無知なのです。全ての残酷さを兼ね備えながら非常に純粋に、全くもって無知なのです。
May 8, 2011
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タイトルは某魔法少女のセリフです。お久しぶりですねー。ブログ休んでる間に色々やってました!あ、あと前回の日記は消しちゃいました。コメントくれた方々すみませぬ><まず、大阪行ったのと、あとなんと!リスを飼いました中国リスなので、中国っぽい名前をと思い蘭花(ランファ)君と小苺(シャオメイ)ちゃんです。手前が小苺で奥が蘭花です。リスは人に慣れにくいらしいのですが二匹ともそんな事微塵も無く。人の服に潜り込んだりなんやりしてきて、座って本読んでたりすると大いに邪魔してきます。まあ、この子達の事は追々また書いてゆきたいと思います♪
April 26, 2011
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最近自分の中でマクロスと、パソコンで絵を描くことが流行ってます。ってなわけで2作目ばばん!今回はサイズちっちゃく、服の影も一応ちゃんとあるのよ!!らくがきのつもりで描いたのに一回保存したら画質がめちゃくちゃ劣化してそれを直すのに手こずってたらいつのまにか一日が経っていましたー。。。マジでマウス持つ手がどんどん痛くなります。描いてて最初っから最後まで楽しかったです^^背景はどっかから借りてこようと思ってたのに何か色々アレでソレでコレだからてきとーに描きました。浜崎あゆみの曲をめずらしく聞きながら作業しとりました。声が透明で好きです。
March 23, 2011
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またたびこんばんわ。おばんです~♪今日の深夜3時頃に、満月が13年振りに大接近するそうです*『The Moon Age Calendar』という素敵サイトさんに書いてありました(笑)そういえば、昨日今日と久々にバイトに行きました(電車止まってた為)ホワイトデー貰いましたwチョッパーの靴下・ベリーのチョコレート・缶かんのクッキー・プーさんのチョコレート・マシュマロショコラとフナンシェ家族以外で5人もの人からもらったのは初めてですねー(・A・)そういえば、「好みのタイプを芸能人で言うと?」と聞かれ「Gacktかなぁ~」「あぁー……意外とミーハーだね」という会話をし、別にミーハーとかじゃなくて、なんて言うか違うんだよぅ!と説明をした後「あ、草薙君も好きですよ」「!?」と、いう会話もしました。全然違うやん!って言われます。よく言われます。私は雰囲気が良い人が好きなんです。どちらもとても雰囲気(オーラー)が良い方々です。雰囲気としては全く正反対ではありますが、どちらもとってもいいんですよ!明日は映画を見行くずら!まるさんとせいろさんに会ってきます。マクロスF・サヨナラの翼。2回目♪どきどきです。
March 20, 2011
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すごく日本中が浮足立ってますね。。。3時間の停電で何故買占めようとするんだろう……なぞい(- -;)一体何を買い占めるものがあるんだか。。。スーパーでおばさんが水を三箱くらい買占めてて、店員さんにまで図々しく持たせて「いやあ、水がないと大変ですもんね」と店員さんが話しかけたら「ばかねぇ、ここだけの話、オークションで売れば幾らか稼げるのよ」とか大きな声で言って、その場に居た人達から批判されまくって「早い者勝ちよ。並ばない方が悪いのよ!」とか言って去って行ったそうな。障がいを持った方や、お年寄りの方は買いたくても買えません。並びたくても並べません。重いものが持てないんです。大変なんです。てゆーか、オークションで売ったって、今交通機関が麻痺してるので届く訳がないです。馬鹿なことしてないで下さい。今の子どもたちを幻滅させないで下さいよ。見本となって下さいよ。ほんと、びっくりしました。今日は電車が止まってバイトに行けなかった為、家でのんびり過ごしました。丁度グリーで募金活動してたんで心ばかり参加したりしまして、早く復旧するといいなぁ。明日は追試です; 電車動くんだろうかというか、放射能が飛散してる中大学行くの大変だなぁ。。。雨降ったら黒い雨になりますよ。外出の際は本当に注意しないと><;皆さんも雨には注意してくださいな。
March 15, 2011
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3日以内に震度7以上の地震が起こる確率が70%だそうです。今のうちにそれに備えた準備をした方がよさそうです。停電問題予想外の節電が成功してる為、今のところ停電はしないようです。しかし電力が足りなくなった際、告知された時間帯に対応するエリアが停電する可能性あり。電気会社の人達は、今予想外の事態に必死になって対応してくれています。酷いクレームなどの対応で、精神がすり減っています。たかが3時間です。被災地の人達はいつ復旧するか分からない恐怖の中にいます。なるべくでいいです、おおらかな気持ちで対応して上げて下さい。誤った情報のチェーンメールが数多く流れています。そのようなたぐいのメールを受け取った方はそれ以上広げず、即刻削除して下さい。準備・お風呂に水を貯める(断水の恐れがある為)・懐中電灯は、コンビニのビニール袋を2重に重ねると光が拡散してより明るくなります。・ホイッスル(最低限の労力で助かる確率が格段に上がります)・現金・身分証・印鑑・保険証・非常食・飲料水・携帯電話・非常用充電器・マスク・毛布・手袋・防寒具・ラジオ・雨具・布テープ 等コピーなので既出です。いつも通りの生活が送れる方は、なるべくいつも通りに生活を地震酔いは目をつぶって深呼吸を繰り返すことで多少軽減されます。交通機関の麻痺の影響で、宅急便などに遅れが出ます。今日明日の交通機関も危ういそうです。電車の方は帰りに気を付けて下さい。
March 14, 2011
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日記更新できました><とりあえず、無事です。安否確認メールありがとうございました!丁度原宿におりまして、地下から慌てて地上へと避難。激しい被害は見受けられませんでした。よかった。交通機関が激しく麻痺し、今日中復帰が無理だったので苺夢ちゃんと二人でカラオケオールしました。漫喫はどこもいっぱい。コンビニも何も無い状態。うるさいせいもあり、一睡もできませんでした><次の日、5時ごろの電車に乗り、そんでも全然動いていなくて3~4時間もかかってなんとか家に到着って感じでした。苺夢ちゃんと別れた後、電車1、2時間待ってる間に朝飲まず食わず+睡眠不足+不安や寒さなどからストレス性パニック障害を起こしかけ……死ぬかと思った←呼吸が浅くなって、意識が失われてゆくのですが、今回はちゃんと気を付けていたので早めに気付いて対処ができました(・∀・)人と話すことが一番良かったのですが、話せる人がいなかったので、ついったーで気を紛らわせてました。。。ふらふらと帰ってきて、そのまま布団敷いて寝ました。バイト寝過して超遅刻しました(´;ω;`)「顔青いよ?」と心配され、朝から飲まず食わずなことを思い出し廃棄の野菜ジュースと、ヨーグルとを貰い、余ってたおでんも頂いちゃいました今日は沢山の人の優しさに救われたよー(- -)ほんと、被災地の人たちが心配です。ついったーでも様々な情報が得られるので、是非見てみて欲しいです。残された人達が一刻も早く救助されますように。。。訛り実況のきりんさん、無事であって下さい!!*追記きりんさんの無事が確認されたそうです。よかった。。。。他の人も無事であれ!><
March 12, 2011
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正義って何よって言ったときに君ならなんて答えるんだろうその全てが、不正解であると思うのだけれど悪口を、「おかしい」って批判するのが、正義?人がいじめられたら、助けてあげるのが、正義?ねえどうせさ人間は少し過剰なくらいが好きなんだから過剰に批判して過剰に擁護してそしてそれ以外は、沈黙。過剰じゃないって文句言ってる時点できっと、多分それは過剰だよ言葉を紡いでる時点で過剰じゃないものなんてないのさ僕が今発している言葉も全て
March 8, 2011
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あなたの後ろなう(●´・ω・`●)最近の流行に則って、ついったーに現れるメリーさん知らない人からフォローされていて勝手に自分の画面にもメリーさんの呟きが流れる……!日に日に増えてゆくその人の呟き『私、メリーさん……。本屋なう』『私、メリーよ。橋渡ったなう』『私、メリーさん。玄関なう』『私、メリーさん………あなたの後ろなう』最後のつぶやきを見た瞬間あなたの後ろでケータイをいじる微かな音が……未だかつてない未知の現代ホラー!その恐怖に、あなたは耐えられるか……。という映画が、本夏公開!!………すいません、嘘です(・ω・)ちょっと思いついてしまっただけです。あったら面白そう。『着信アリ』に続く超ホラー映画!って感じで誰か作ってくれないかなー(笑)
March 5, 2011
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