アオイネイロ

October 13, 2009
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カテゴリ: 小説
「しかし、あっさりと了承して下さるとは思っていませんでした」
歩きながら口を開いた白露が、どこかほっとしたようにそう言う。
この男も、国王の無理難題を押し付けられただけであろう。

「別に……兵等居なくても自身の身の安全くらいは守れますから」
「そう、ですか。お強いのですね」

素っ気無くそう返せば、白露は感心したようにそう言う。
別に強い訳では無い。元々は演技(ウソ)であって、紅亜には自身を守る術等知らない。
戦う事はできる。けれど、それは違うと知っていた。だから虚しいのだ。

「国王と王子は、どの様なお方で?」


ちらりと白露を横目に問えば、白露は一瞬瞳を揺らめかせ、そう答える。
元々男の口から“悪い事”が聞かされるとは思っていない。
けれど反応からして、『王子』はそこまで良い方ではないだろうと理解はできた。
悪い噂も聞く。
「……それはお互い様か」
小さな声でそう呟いて、自嘲気味に笑った。
冷酷非道の姫と謳われるのは自分自身だ。

「? 何か」
「いえ、何でもありません」

振り返って尋ねてくる白露に、薄く微笑んで首を振る。
「歩かせてしまって申し訳在りませんでした。ここが私達の国、アーネの入り口で御座います」

そしてその奥に家々が立ち並び、遠くに城の屋根が見えるという風景。
「双楓の国の姫様がいらしたぞ!」
よく通る声でそう言って、白露が門の前に立った。
ゆっくりと門が開いていく様を見つめる紅亜。

「歩かせてしまって申し訳ありませんでした。どうぞ、お入り下さい」


恭しく礼をして手を門の方へと向ける白露に、紅亜が軽く微笑んでそう返すと門を潜った。
ゆっくりと門が閉まる後ろで、白露が静かに紅亜の後ろをついてくる。

「ああ、双楓の国の姫様だそうだ」
「あらまぁお若い。お美しい方だねぇ」

国の民達が囁き合っている言葉が聞こえてきて、紅亜は内心ほっとした。
自分の悪い噂がこの国の民まで届いていなくて安心する。
そんな人達に微笑みかけ、城につくのにそこまでの時間はかからなかった。
その間白露はずっと紅亜の後ろを黙ってついてきていた。
監視役なのだろう。だからこそ紅亜も、注意を払って行動していた。
そうして辿り付いた城は、紅亜の城よりも少し小さいくらいのもの。
「どうぞ、国王様がお待ちです」
城の門兵が槍を手に仰々しく御辞儀をしてそう言うのを聞き、紅亜は城の中へと足を踏み入れた。





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Last updated  October 13, 2009 10:42:46 PM
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