アオイネイロ

September 12, 2012
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カテゴリ: 空狐-karagitune-
じっと見つめ合った時間はほんの数秒だった。
数秒で、私は我に返った。

「っ、だ、誰じゃっ!」
身を縮ま込ませながらも、私は威嚇するように少年を舐め上げて声を張る。
「ん? 僕はソラ。で、こっちがテン」
少年はというとにっこりと笑って飄々とそう名乗った。
ソラと名乗った少年の横に居た、真っ黒な毛並みの狼が、一歩こちらへ近づく。
「ひっ! く、来るでない!」
慌てて叫んで、懐から小刀を取り出す。

「っ、っ………!!」
刀を持つ手がカタカタと震え、背には壁があるというのに必死で後ずさる。
「そんな怖がらなくても、テンはキミに危害なんて加えないよ?」
「こ、怖がってなどおらぬ! ぬしもこやつの主人なら、さっさと止めよ!」
「んー。そう言われてもー」
わざと威圧的な口調で言うが、少年は薄く微笑んで首を傾げるばかりだ。そうこうしているうちに、テンは目の前までやってきて鼻先を私の手に押し付けてきた。
湿った感触が手の甲に伝い、びくりと身を震わせる。
『………間違いないぞソラ。この女だ』
くるりと少年の方に向き直り、狼がそう伝えた。
「っしゃべ……っ!?」
唖然とする私を、テンが横目でじろりと見やる。

「あはは、相変わらずテンは酷いなー」
不機嫌そうに鼻を鳴らす狼と、カラカラと笑う少年。
状況についていけずに、私はただただ茫然としていた。
いつの間にか体から力が抜けて、小刀が私の手から落ちてカラリと床に転がる。

「僕は、キミを助けに来たんだ。一緒に行こう、自由になろう」


それは一層甘く優しい声で、私は無意識のうちに差しのべられた手を取っていた。

「僕はソラ。………キミは?」

その水面の湛えられたような蒼い瞳を何処か哀しげに細めて、少年は、彼は私にそう問うてきた。
思えばこれが、私の存在のその価値の、はじまりだったのだろう。





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Last updated  September 13, 2012 12:33:53 AM
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