ぼたんの花

ぼたんの花

2007/06/15
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娘の桂子(かつらこ)さんがお腹をこわし、何日か食べられず寝ていた時、
ぐうぜんお客様に出されていた好物のカボチャの煮物を見てしまった桂子さんを抱え、
次郎さんは、「こんな食事をみせたら可哀想じゃなか!」と怒鳴り、桂子さんを小脇に抱え、裸足で外に出て、桂子さんに決して上ってはいけないと言っていた、
二階建ての納屋の屋根の葺き替えの最中だった梯子にのぼり、

「こんな素晴らしい景色が見られるのだからカボチャのことなど忘れてしまえ」
と普段、子供の目線からは見ることができない景色をみせながら何度も
繰り返し言って聞かせ、桂子さんもカボチャより景色のほうがいいと納得。


桂子さんが免許とりたての時には、対向車が、女性ドライバーである桂子さんのほうに
ライトを照らした若者の車に近づき、若者の襟首をつかみ、一喝。


一昨年に読んだ『風の男 白洲次郎』の中には、次郎さんの子供好きは、
自分の子供だけを可愛がる男ではないということがわかる。
上山温泉で当時勤めていた東北電力のスキー大会のとき、地元の小さな子供たちが、
すぐ白洲次郎さんになついてしまうことに周囲は驚いている。
田舎の人見知りする子供たちも、いつの間にか、次郎さんの膝の上に乗ってしまったという。


子供たちに対しては、とても優しかった次郎さんも、大人たちに対しては厳しかったようだ。特にプリンシプルには非常に厳格だったという。
筋を通すだけでなく自分の頭で考えた自前の筋を持っていたと書いてあった。


その割には、自分の愛娘の婿殿対しては筋の通らぬことばかり。
なんとかこの縁談を阻止するために、正子さんに応援を求めるが、
正子さんは婚約者である牧山さんと二人だけで会って食事をし、
出した結論は「あれは大丈夫だわ」
正子さんが賛成にまわったのなら次郎さんは諦めるより仕方がない。

娘の結婚に、「いつでも帰って来い」と娘に言って、正子さんに叱られる。
(私も姉の結婚式の時に回ってきた色紙に書きました。”いつでも帰っておいで”と。
が、私は義兄も姉のお姑さんも大好きでした。)


結婚後も、娘婿の悪口をいい、
「それなら自分でムコを連れてきなさい。自分で責任をとれないから
連れてこれないのでしょう!」と痛いところをつかれ叱られる。


もっとも面白いエピソードは、夏休み軽井沢の別荘に桂子さんの子供と正子さんとでの生活。一番早起きの次郎さんは、なかなか起きてこない正子さんの寝室の前の庭で大きな音を立てて草刈機で草を刈り始め、あまりの煩さに正子さんは窓から怒鳴るけれど聞こえぬ振り。


そして正子さんは、次郎さんにスリッパを投げつける。
頭に命中したスリッパで、ようやく草刈をやめる次郎さん。

戦後、進駐軍にあれだけ盾突いた次郎さん、普通なら夫婦喧嘩を始めるところで
あろうけれど、真のジェントルマンの次郎さんはおとなしく退散。
正子さんのほうも草刈の音も静かになったら、また眠るのかと思うが、
起きてベッドに座り、スリッパが次郎さんに命中したことが嬉しくて笑っていたという。



娘と孫が寝ている部屋にも入ることができず、シーツを洗濯する月曜日だけは
大手を振って部屋に入り、その言い訳であるシーツの洗濯も次郎さんがやったという。
あの次郎さんがシーツを洗濯したり、正子さんの投げたスリッパが
次郎さんに命中してしまった光景など、いままで私が読んで知っている
家の外での白洲次郎さんと家庭の中での姿が1つになってよりいっそう愛すべき、
尊敬すべき人間に見えてきた。


戦後のいろいろな処理についての中で、怒ると英語になってしまった白洲次郎。
「プリンシプル」という言葉を常に発していたこと、日本は戦争に負けて
新しい国になったのだから、従来の考えを徹底的に捨てろ、
為政者は占領国といえどもアメリカに対しては強い態度で接触すべきである、
と言っていた次郎さん。



桂子さんは、振り返って
「父はただただ不器用に愛してくれたのだと思います。父には申し訳ないのですが、
今思いつける、父に教わったことと言えば、日本人によくある西洋人を
恐れるという気持ちがない、ということぐらいです。」

愛娘が、最後にこんな感想とは、なんとも次郎さんが可哀相に思えてしまう。

が、桂子さんがご自分のご主人を愛し、子供たちを愛し、ご両親から本当の意味での
独立をしたということなのかな、とも私は思う。


あのアメリカを相手に、唯一従順ならざる日本人であった次郎さん、愛妻と愛娘には、
とても従順であったようだ。

今度は、息子さんにとっての父親、白洲次郎はどうであったのか?と
私はとても興味が湧いてくる。





http://plaza.rakuten.co.jp/botannohana/diary/200507240001/


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「風の男 白洲次郎」青柳恵介著 新潮社 1700円+税





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Last updated  2007/06/15 07:10:23 AM
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