ぼたんの花

ぼたんの花

2007/06/13
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テーマ: お勧めの本(7899)

最近の若い女性のあこがれる生き方をした正子さん。
愛娘である、牧山桂子(まきやま・かつらこ)さんから見たお二人の姿。


私は正子さんよりも夫である次郎さんの生き方にとても興味があった。
“従順ならざる唯一の日本人“と占領軍に言わせた次郎さん。
カッコイイ男も愛娘に書かれたのでは、ひとたまりも無い。

私が、何冊か読んだ本も次郎さんのことばかりだったけれど
この本は、母親としての正子さんの姿がとてもはっきりと映し出されていて
今更ながら、白洲正子さんのファンになってしまった。


当然、次郎さんと正子さんの血をひいた桂子さんの書かれた本は
ねちねちとした文体ではなく、お二人のさっぱりとした性格を受け継がれて、
私にはとても読みやすかった。

戦前に14歳から18歳まで自分の意志でアメリカに留学した正子さんと
旧制高校を卒業後、イギリスに留学し、9年間も日本に帰らなかったという
経歴の持ち主のお二人が結婚。


お二人のいろいろなエピソードが満載でとても面白い。
正子さんは、もともとお嬢様育ちで、桂子さんはいわゆるホームドラマに
出てくるお母さんのようなことは、一度もしてもらったことが無い、と書いている。

大きくなって母親を批判する娘とそれに対抗する母親のやり取りが随所に出てくる。
娘は、いつもお父さんの味方であり、お父さんは末っ子の桂子さんが
可愛くてしょうがない様子。

娘からみた個性の強い次郎・正子夫婦は、どうであったのか。
小さな娘が大きな父母を見上げる目線で書かれている。
桂子さんも、お孫さんがいる年齢であるにもかかわらず、小さな女の子の心に
タイムスリップして書かれているところがとてもいい。



終戦後、次郎さんが占領時代に終戦連絡事務局で働いていた関係で、
アメリカの将校の家のクリスマスパーティーに招待されたときの出来事。
大勢のアメリカの子供たちも招待されていたそのパーティーでもらった
きれいなお人形を、青い目をした女の子に奪われてしまい、
その女の子はじぶんがもらった猫のお人形を桂子さんに押し付けていってしまう。



大きなクリスマスツリー、ものおじせず話しかけてくるアメリカ人の子供たち、
子供心にも、戦争に負けたのは無理もないな、と思わせる光景の中での出来事。
日本人の子供だけなら、きっと桂子さんも負けてはいなかったのだと思うが
正子さんはアメリカ人の母親たちと楽しそうに話しているので気がつかず。
家に帰ってから泣きながらその話をお母さんに話した桂子さん。


当然、慰めてくれるだろうと思ったら、みたこともない怖い顔で
「なぜ取り返してこなかった!それはお前が悪い!」
しかし桂子さんは英語が出来ないので、相手の言っていることがわからない、
というと「日本語や英語の問題ではない!意思の弱さの問題だ!」
さすが次郎さんの奥様。言うことが違う。


正子さんと桂子さんの二人で、京都の骨董屋さんへ行った帰り道、
「これ何?」とすぐ質問する娘に、
「そのものが何かと聞いてどうするのだ。好きなら好きでいいじゃないか」という。
この感覚、私も同感です。箱書きは知らずとも中身の良さがわかればいい。


少し前に購入した、「白洲次郎・正子の食卓」で、簡単なレシピを書かれたなかに、
桂子さんが正子さんに対し、娘であり同姓である母親を父親の味方となって、
ちくちくと批判する、といっても微笑ましいエピソードばかりが書いてあった。


お嬢様育ちで、お嫁入りのときもお手伝いさん付で次郎さんと暮らした正子さんに、
普通の母親らしいことは何もしてもらえなかった、という目線から
一人の女性として、一人の母親として距離を置いてみるようになったのだろうか。
次郎さん、正子さんの血をひかれている桂子さんは、お母さんに対しての言葉も
“美辞麗句”は一切使っていない。


しかし、この本の最後の数行には、桂子さんが同じ女性であり母親である
正子さんをまっすぐ見る、そして人間として全体を見ることができるような
”精神年齢に達した”という感じで書かれている。


正子さんは正子さんなりに母親としてどれだけ桂子さんを愛していたか、
そして、とても素晴らしい母親だったということを娘の桂子さんご自身が
肌で感じられることができたのだと思う。




桂子さんが子供の頃、母親の正子さんに送ったもの、孫たちが正子さんに
送ったものが箪笥にあるから、自分が死んだらそれをお墓に一緒に入れてくれ、
といっていたものが、亡くなった一年後に正子さんの箪笥から出てきた。

本には書いていないけれど、桂子さんはきっとそのとき、
大粒の涙を流して泣いたのに違いない。


親というものは、生きていたときより、死んでからのほうが、親の全体像がよく見え、
とても身近に感じる時が多くなる。不思議。




『次郎と正子』牧山桂子(まきやま・かつらこ)著  新潮社 1400円+税





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Last updated  2007/06/13 07:48:43 AM
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