
昨日は生チョコを3キロ余り作りました。バレンタイン用にお客様に頼まれた物の仕込みです。私は、パティシエではないので、生チョコを3キロも作るのはめったにありません。うちは小さなレストランなので、同じデザートや同じ料理を大量に作ることは少ないんです。だから、ある日に手作りハムを1本仕込み、次の日にテリーヌを1本仕込み、ガトー・ショコラを2台焼き、次の日にチーズケーキを3台焼く。といった感じで仕事をしています。生チョコも普段は500~600g程度の仕込みがほとんどで、一度に3キロ以上作るなんてことはありません。
料理というのは面白い物で、、、せいぜい4~5人前くらいに適したものから、数百人前を一気に出せるものまで、ノウハウが違うんですね。私の場合、今まで一番大きな仕事は、60名あまりに250万円以上の料理を出すのを仕込みはほとんど一人でやったことがあります。もちろん、当日の最後の仕上げの盛り付けなどは手伝ってもらいましたけどね、、。
サンク・オ・ピエの今のお店のサイズで、せいぜい10名程度しか予約を取らないという体制で、夫婦二人だけでやっていますから、量をこなす仕事というのではなく、緻密で精度の高い仕事というのが最近の芸風ですかね。この店を始めてぼちぼち10年、それ以前からのお付き合いのお客様も多いです。中には20年余りお付き合いさせていただいている方も、、、。サンク・オ・ピエの常連さんの多くは、お店に来てメニューブックもワインリストも見ません。すべてお任せという方が多いんです。私が作る料理に私が選んだワインを合わせて召し上がるという形。注文があるにしても、今日のメインは○○で、、とか、今日は美味しいブルゴーニュが飲みたいから、料理もそれに合わせてとか、、、せいぜいそんな程度の軽いリクエストくらいです。
私の場合、料理は一期一会と思っていますから、同じ食事は二度とないと思っています。同じヴィンテージのワインでも、今日飲むのと1年後に飲むのとでは味が変わってくるはずですし、野菜や魚や肉も季節によって、種類や状態が刻々と変わります。ですから全く同じ料理を作って、同じワインを飲むなんてことはできるはずがないんです。で、やることといえば、その都度ベストを尽くすということにつきます。そして、終わった仕事を反芻し、改善すべき点を発見すること。職人仕事に完璧ということはありません。終わってみれば過去の仕事。少し時間がたてば、その仕事を越えようとする自分がいます。それはほとんどが、言葉にもならないような小さなことなんですが、その積み重ねが20年30年と続くと結構大きいです。
私の料理で一番気を使っていることが、素材への火の通し加減なんですが、この30年近く毎日肉や魚やフォアグラを焼いていて、随分とやり方が変わってきました。よく、「ステーキは、強火で表面に焦げ目をつけて旨味を閉じ込めるように壁を作り、、、」なんて言うのが、プロのコツみたいにまことしやかに語られることが多いですが、肉は強火で焼いても壁なんてできません。むしろ強火で焼くと肉の表面が急速に縮んで、肉の表面積が縮まり肉への内部の圧力が高まって、肉汁が出てきてしまうんです。強火で焼くことの意味は、メイラード反応(焦げることで出来る香りと旨味と風味の複雑な化学反応)で旨味を作るということなんですね。肉の塊を軟らかく焼き上げるには、弱火で長時間です。料理人の多くは、先輩に仕込まれたことを周到するだけということが多いですね。私のようにほぼ独学でやってますと、伝統的なやり方や料理の常識といわれていることでも、「本当にそれが正しいのか?もっと優れた方法はないのか?」と、いつも考えています。
生チョコも昨日は新しいレシピを創作しました。とても難しいので、少ししか作れませんが、お任せコースの常連さんなどにお出ししてみようと思っています。
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