不定期更新推進月間。

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悪運。



「・・さん、遅刻しますよ、兄さん!」
揺さぶられる体と聞きなれない女の声に
段々と意識が覚醒する。
はて、俺に妹なんていただろうか・・

ザッッッ

意識にノイズが入り、起きかけた思考が乱れ纏まらなくなる。
暫く目を瞑ったままでいるとノイズは消えた。

「・・気分でも悪いんですか、兄さん?」

寝ていたベッドから上半身だけ起こして、
声の主を見、そして顔を下げて考える。
目の前に心配そうな表情でこちらの様子を伺っているのは
高校生位の制服を着た、肩までのストレートの紫の髪に臙脂の
リボンをしたおとなしそうな女の子。

「あー・・・一つ聞いていいかな?」
今だぼうっとする頭を右手で掻きながら、俯いたまま
女の子に問う。

「・・・何ですか、兄さん?」
「此処は何処?そして君は誰?」

そして俺は誰なんだろう?と顎にさすりながら考える俺の前で
女の子が俯いて肩を震わせていた。

「・・んなに私を衛宮先輩の家に行かせたくないんですか・・」

その搾り出す様な苦しげな呟きと、床を打つ涙の音。そしてエミヤと言う
言葉で、記憶の防波堤が決壊した。

今まで忘れていた記憶が頭の中に流れ込んで、
俺の意識を一瞬ですっとばした。

1.

額に冷たい何かが乗るのを感じて、意識が覚醒する。
目を開けるとさっきの女の子が心配そうに覗き込んでいた。

「・・・大丈夫ですか、兄さん?」
「お陰様で色んな意味で大丈夫。あ、タオルありがとさん」
「!!!!!」

額に乗せられていた冷たいタオルを手に持ちながら
看護に対する礼を言うと、何か信じられないモノを見たかの様に
目を見開き女の子が固まった。

「もしもーし」

女の子の目の前で手を振り、意識の有無を確認すると、
一瞬驚き後ずさりして

「兄さんが私にありがとさんなんて・・本当に兄さんなんですか・・」
なんて疑念特盛な瞳でこちらを見ながら呟いた。

「あー・・説明するには、ちょっと時間が無いかなぁ・・
先輩の家にはまだ行ける時間かな?」
「あ、えと・・」

女の子は自分の腕時計を見て
「はい、まだ急げば間に合いますけど・・」
と答えた。

「じゃあ詳しい事は学校から帰ってきてから話そう。
 んじゃいってらっしゃい」
「・・・・・・・」
また固まった。
そして今度は
「うっ・・・ひっく・・ひっく・ぐす」
泣き出した・・・。

「・・・何か気に障ったのならごめん。
 正直泣いてる訳分かんないんで・・」

苦笑しながら女の子の頭を撫でてやると、一瞬体が強張ったが
涙が止まるまでそこから動かなかった。


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