不定期更新推進月間。

サプライズ・ホワイト

薄暗い路地にある自販機でお茶を買った。

今日は七月七日、七夕。
それ以外にも俺にとっては特別な日。
両親と弟、そしてもう一人、いや一匹か。
丁度七年前に妹とも言える存在の我が家初の
愛犬シロの命日。

　あの日は確かに暑かった。
確かに寿命だったし、その年は早くに夏の気候になっていた。
その頃には外の犬小屋では無く、家のリビングで家族総出で
シロを看ていた。
そして七夕。
昼頃だったか、リビングの何も写っていないテレビの前。
そこで風景の一部の様になってシロは眠っていた。
母は所用で外出、父と弟は仕事。
その時期丁度無職になっていた俺はその日もシロと一緒の
時間を過ごしていた。
その日も。
ふと思い立ち、家の二階の自分の部屋に小物を
取りに行った。
多分一分位。
リビングに戻った時はもう逝っていた。
やせ細った胸に手を当て、鼓動が無いのを確認し、
瞼を閉じてやる。
犬や猫は主人に死に様を見せないと言うのは本当だったらしい。
そんな事を回らない頭で考えていると勝手口の戸がノックされた。

「おっす、近くまで来たんでさ」
歩いて五分程の所に住む親友だった。

「・・・今逝った・・少し目離したらもう・・」
「・・シロ?」
「・・取りあえず上がって」
「・・ああ」

親友が家に上がり、戸を閉めようとすると

「何か無かった、こっち！」
所用と買い物を済ませた母が帰宅してきた。
帰ってくる途中に履いていたサンダルの紐が切れたので
急いで帰ってきたらしい。

亡骸を使わなくなった絨毯に包み、テレビの前に
安置して、三人でリビングのテーブルを囲み、
麦茶を飲んだ。

「二人は呼ばれたんだろね、きっと」
麦茶を飲み干した俺がそう呟くと、二人は寂しそうに
微笑んで頷いた。

「もう七年か・・早いなぁ」

シロの眠る裏庭の柵に寄りかかりながら、
当時の事を思い出していた。
視線を足元の地面に落とす。
そこに俺の手で穴を掘り、埋葬した。
手にしていたお茶のペットボトルを開け、
一口飲んで、草の生えた地面に残りのお茶を撒いた。

「少しは暑さも飛んだかな、シロ?」

空になったペットボトルに蓋をして、ズボンのポケットから
小さめの十得ナイフを出し、刃の部分で右手の小指の先を
少し切る。
その指先に膨らんだ血の雫をでこピンする要領で
弾いて地面に散らした。
命日から欠かさず七夕にはしている儀式めいた事。
俺本人も何故こんな事をしているのかは判らない。
でもこれで正しいと確信している。

「さて、暑いし、また明日。おやすみ、シロ」
そう言って挨拶を済ませ、俺は家の中へと入っていった。
当然その後、シロの眠る場所の地面が淡く輝いていた事なんか
気が付く筈も無かった。

携帯電話のアラームで起床し、べッドの上で部屋の天井を
眺めながら思い出していた。
昨夜の奇妙な夢。
断片的にしか覚えていない。
シロ。
光の玉。
奇妙な鳴き声。
そして今も残る違和感。
何かと繋がっている不思議な、それでいて
安心できる懐かしい感覚。

「朝ごはん出来たよー」
母の声でベッドを出て、二階の自室から
下の居間に下りていく。

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