極上生徒街- declinare-

PR

プロフィール

矩継 琴葉

矩継 琴葉

カレンダー

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2007.09.30
XML
カテゴリ: 小説
※一部過激な内容が含まれています。ご自身の判断でお読みください。

第1話 堕ちる闇 明ける未来
第2話 目覚め×サイン
第3話 接触





5月24日 7時50分 城山警察署― 



「あぁ~、え~、川原で見つかった死体は~、んと、顔が滅多ざしにぃ――」


「続きは自分が」


 北山は林を睥睨する。
 それを無視し林が代わりに続きを始める。


「顔を滅多ざしにされ、他にも首、胸、腕、腹、足と全身をナイフで引き裂かれていました。ほとんど、人としての原形はとどめておらず、現在DNA検査中ですが、近くのアパートで女性が行方不明になっていることから、その女性と考えて間違いないそうです。死亡推定は遺体が発見された前日の21時から22時の間と思われ、帰宅中に何者かに襲われたものだと判明いたしました。現場に凶器はありませんでした。尚、連続転落死との因果関係は不明。ただ、犯行現場のマンションの防犯カメラに、黒ずくめの何者かが確認されました。それについては、現在捜査中です。以上です」


 林が機械的に報告を済ませた。
 それを微動だにせず聞いていた、まだ30代前半、いや20代後半にも見える女性が頷いた。
 北山と林の前にいるこの女性こそ、捜査一課課長の川澄美雪である。

 試験をトップの成績で通過、超難関の帝都大学に合格した。
 さらに主席で卒業後、警察学校へ入学し、大学と同様に首席を取り、即戦力として刑事課に配属された。
 期待を裏切ることは無く、連続放火殺人事件や通り魔事件など、数々の何事件を解決に導き、異例の特進で課長にまで上り詰めた。
 長い黒髪に、整った顔で美人であり、5ヶ国語をあやつる。頭脳明晰、容姿端麗と完璧で、多くの刑事は、クールビューティや、冷たいまでにクールなのを揶揄して、雪の女王様とまで呼んでいる。
 これが北山の無気力さの原因の一つでもある。好きになれない部下に、女の上司。古い人間である北山にとって、女の下にいるというのは納得がいかない。故に、大人気ない態度を取っている。



「……で、その黒ずくめの捜査はどこまで進んでいる?」


「はい、4件全てのマンションのビデオに同様の人物と思われる映像が残っていたため、画像を解析しました。しかし、全身黒ずくめで肌の露出も無く、映像も極僅かなため、完全に解析することはできませんでした」


 林の脇で、一人蚊帳の外の北山が欠伸をした。
 川澄は気にするそぶりを見せず、「そうか」と、いうとコーヒーを一口含んだ。


「ところで、関係あるかは分からないが、昨日の夜、男を逮捕した。取調べ室に様子を見に行ってみてくれ」


 「分かりました」と林が返事を返した。












「もう一度聞きますけど、あそこで、何してたんですか?」


「あ、いえ、ただ……」

 殺風景な部屋。机が二つに、テーブルが一つ。格子の付いた窓。取調室だ。
 何ともなマズイ事になってしまった。
 私は勢いよく飛び出したのだが、待っていたのは私服警官だった。



「ただ、ただ、ただってね、警察はただ働きしてないんだよ。こっちだって忙しいんだ、さっさと何していたか話しなさい」


「……いや、でも、言ったとしても信じてもらえないかと」


 散々答えるのを渋った。
 そこにいたのは、予知能力を信じていたわけであり、言ってしまうのは自分でも馬鹿らしく思っていた。
 現実世界に、「自分は、予知能力持っています」と言って信じてくれる人間など、天然か化石化してしまった純粋な人間だけだろう。
 それに、変質者まがいの行動を取ったあとでの説得力は皆無であり、逆に肯定しまう事態になりかねない。



「君も良い大人だろ! さっさと話したらどうだ!? 黙って聞いてやるから、何故深夜に、住宅地に居たかを話なさい!」


 取調官の態度が急変し、今に胸倉を掴み殴りかかってきそうな勢いで迫ってきた。
 かれこれ、7時間前後繰り返していたが、そろそろ互いに限界のようだ。



「……予知夢を見て、あそこに行きました」



 取調官が呆気に取られたようにフリーズした。
 完璧に何を踏んでしまった。



「おいおい、お前ふざけてんだろ?! 誰がそんな――」



「まぁまぁ。真顔で言うんだから、何か根拠があるんでしょうよ」



 フー、と50前後の男が取調室のドア付近で煙を吐いた。
 男はのらりくらりと入ってくると、取調官の肩を叩き代わるように言った。


「北山さん、あまり……とにかく、いつもみたいには――」


「わーってるよ」


 北山と呼ばれた男は軽く返事をし、タバコの灰を灰皿へと落とした。
 後ろについてきた青年は部屋の隅に陣取った。



「お前、なかなか面白いこと言うな」


「あ、いえ、冗談ではなく」



「根拠があるんだろ? 証明できること言ってみろよ」


 言ってみろと言われると逆に言いづらい。
 私は少し間を置いて答えた。



「……自分が捕まった場所の周辺で、女性が撲殺されるはずです」



 トントンと北山は灰皿に灰を落とし、無表情のままタバコを再び口元に運んだ。
 隅にいる青年は、直立不動で立っている。
 求めているわけではないが、反応が無いというのも気まずい。



「他には何かある?」


 フーと息を吐きながらめんどくさそうに北山が問いかけてきた。


「いえ、他には何も」


 すると今度は、大きなため息をつき「女性が襲われるねぇ……。そういえば、昔いたな、お前みたいな奴」声色を変えて「私は神の名の元に人を殺しました」声色をもどして「とかなんとか言っていた奴が」


 ガハハハと北山は下品に笑った。
 明らかに、馬鹿にしているのと、犯人と決め付けたような言い分に、私はキレた。


「何ですか! その犯人は俺みたいな言い方は!! 侵害です!!」



「あぁ?! 何だてめぇ! 刑事に喧嘩売るのか?!」



 負けじと北山も椅子から立ち上がり、胸倉を掴んできた。


「北山さん! 暴行はまずいです! 離れてください!」という青年の制しも北山は腕一本で振り払い、今にも殴りかかりそうな勢いで迫ってきた。



「てめぇ、刑事をなめるなよ! 予知なんてものがあったらな――」



 ドアが勢いよく明けられ、先ほどまで取調べをしていた刑事が息を切らしながら飛び込んできた。何かが起こったのは明白だ。
 これには思わず、北山も胸倉から手を引いた。



「……チッ。どうした木村?」



「それが……その男を捕まえた現場近くで、撲殺された女性の遺体が発見されました」



 北山が静かにこちらを睨み付けた……。




<第5話へ続く>





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2007.09.30 11:55:14


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: