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2012年04月25日
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カテゴリ: 實戦刀譚

兵器日本刀の本質


  焼刃深く錵匂深く見事なりとて
  新刀の大出来なるを帯ぶるは不覚悟に當るべき哉(や)に御座候
  扨(さて)事ある時は忽(たちま)ち其身に危き害あり
  又其折れ易きを知り乍ら造る鍛冶は不仁とも可申候
  故に愚老近頃は好む人の候とも是を造らず伜貞秀にも堅く禁め候也
  尤(もっとも)脇差などは短かき故に
  折るる事もなかるべきに仍て大亂を焼く事も候得ども
  刀に於ては子々孫々迄作る事勿(なか)れ
  直刃亂刃ともに中分なるを持前とせよと教へ申候
  但相州傳にて剛柔の鐵相持合ひたる作は皆焼にても折れ難く候。


  ここで水心子は、焼き刃の深い錵匂いの深い見事な刀は、
 非実用であるという事をはっきりさせている。
 そして左様な理屈を百も承知の上で、
 ただ見た目に見事な刀をつくる者は不徳義な刀匠であるとまでいい、
 自分等父子は深く戒めてこれを造らない事を断言して、
 刀匠道の一ヶ条としている。
  今度の事変で見た新刀新々刀についていえば、
 こうした点に非常な関心を持つべき事を指示した事実が多かった。
 中直刃浅い湾刀等、すべて焼き刃の浅い
 それから錵匂いのあまりくっきりしない刀に刃こぼれは少なく、
 その反対になればなるほど刃こぼれが多かった。
 こうした例は挙げたくないが、
 桑田部隊の某大尉の佩刀は、正真正銘の井上眞改であったが、 
 小豆粒ほどの刃こぼれが一ヶ所あり、その欠け口があまりよくなく、
 虫眼鏡で見ると、いかにも硬そうな目の詰み方であった。
 激しく闘ったらあるいは折れるかも知れぬとさえ思わせられたのである。
 井上眞改は、出来にもよるが時価一千圓以上のもので、名刀の部類である。
 桑田部隊では、眞改を二振り見た。
 二振りとも手のひらで押して試みるに、
 どうも無垢鍛えではなかろうかと思われるほど感じは硬直であった。
 大阪新刀には、相当に名のあるものでも、
 こうした感じのものが多いように思われる。
 あるいは案外無垢の一枚物が多いではないだろうか。ただし、
 それは横断して、その断ち目を見ないかぎり確たる判別はつかない。
  ただし相州伝では、鋼鉄の組み合わせ方に特殊の伝があるらしいから、
 皆焼きなどという強い焼き方をしても、決して折れないのであるという。
  同じ大阪新刀でも、出羽守助信、三品但馬守宗次、越前守信吉、
 摂津守宗吉等には、細直刃で強靭な じみ な実用刀があり、
 総じて、実用刀としての焼き刃は細い直刃がよい事は幾多の事実が証明していた。

  先年阿州侯の臣にて本山氏なる人刀の刃味はかねて試みたれど
  未だ折るる折れざるの試をなしたる事無之とて
  井上國貞(眞改)越後守包貞長船祐定
  ならびに愚老が作其他数腰宗(むね)と宗とを打合せて試候處
  大出来なるは残らず折れ小出来なるは刃切れに成候迄にて折れ不申候ひき
  右の故にや其後阿州侯より御注文の大小は皆中直刃に候


  水心子もまた中直刃の実用刀に利なるを述べている。
 一体に刀は、刃と刃とを打ち合わせては強いものであるが、
 棟(宗とも書く)に一撃を喰らうと折れ易い事には、幾多の実例がある。
 かの伊賀越仇打ちの時に、荒木又右衛門は、
 佩刀丹波守金道の棟を相手方の仲間に木刀で打たれて折れたのでもわかる。

  鍛へ候刀に不出来なる物御座候て折り捨てんと存じ
  振り上げて鐵砧(かなとこ)を二つ三つ打候へども折れ不申候ひしが
  その節彼(か)の本山氏居合わせられ其刀を所望有
  之不折次第を中心に記し差料にせられ候


  こうした事は、新刀の無銘刀中にも
 よい物のある事を裏書きした面白い事実である。
  刀匠はちょっとした気に入らぬ点でもあると、
 心外物として銘を切らなかった。あるものは折って捨てた。
 ところが、形や焼き刃に心外な点があっても、
 事実その実用的能力においては、すこしも遜色のない強靭な刀がある。
 そうした事がまた数打ち物の無銘刀にも移して考えられるのである。
 今度の事変でも、こうした名工の心外物で、非常な業物を見た。
 かの徐州北方線臺兒荘の東黄家樓附近の戦闘で、
 一挙に敵十四名を切って捨てた長瀬部隊のある伍長の刀は、
 二尺二寸五分の無銘新刀で、
 名のある刀匠の心外物といった刀であろうと思われた。
 かなりの激戦中で暴れ廻り、切っ先二分ほど折れ、
 物打ち下にちょっとした刃こぼれがあったほか何の異状もなく、
 曲がっても居らなかった。
  井上部隊の永井軍曹も、備前物無銘新刀で、敵を十数人斬り、
 銃身に刃があたって大刃こぼれを仕出かしたが、
 かなりがっしりした刀で、相当の乱戦中に用いて刀身が曲がりもせず、
 敵の銃身にさえあたらなかったら微疵も受けなかったわけである。






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Last updated  2012年04月27日 02時47分25秒


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