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テーマ: 實戦刀譚(65)
カテゴリ: 實戦刀譚

奇怪萬字剣


  魂の抜けた刀(一)


  切れ味の神秘のひとつは、刀に個性があるという事である。
 同じ鍛冶が、同量の鉄を用い、同形同寸法の刀の幾振りかを作ったとしても、
 それぞれの調子と釣り合いとは、ことごとく異なるものがあるのであろう。
 一刀一刀はそれぞれの特異な創作であって、特異な個性をもち、
 類型的なものとして、無機物的な性能ではあり得ない。
 ここが刀匠の苦心の存ずるところで、
 打ちあげ、仕上げ、そりを入れつつ振ってみる。
 その時々のひとつの呼吸息合いといったようなものが、
 作者の気分と合致すれば、ここにひとつの生命がやどるのだ。
 刀を打つという事は、子を生むようなものだといわれるのは、
 そこの こつ 合いなのだ。
  どんな刀鍛冶でも、およそ刀の一振りでも鍛えようとする者には、
 それぞれ自家の見があって、この釣り合い気合いをとる事は、
 焼き入れ作業と共に、非常な苦心を払うものとされている。
 さればこそ、刀を磨〔す〕り上げるという事、
 すなわち長いから短く切りつめるという事は、
 ちょうど人間の背丈が高いから、
 足を切って低くしようとするのと同じ事であって、
 刀本来の生命を著しく傷つける事になるから、
 昔は心のある武士は、決して左様な事をしなかった。
 磨り上げ刀というものは、第一に釣り合いが乱れてしまっているから、
 ひいては、切れ味に大なる影響を及ぼすものと考えてよい。
 それだから、謹厳な武士は、
 「磨り上げ刀は、いくら名刀であっても、それで戦うべきではない。
 磨り上げ刀には、刀の魂が失せているからで、
 たって用うれば武運につきる。」と書き残している。
 天理原則に尚〔とうと〕んだ白川樂翁公は、
 決して自藩の侍には磨り上げ刀は用いさせなかった。
  まこと、かの織田信長は、天下の名刀を惜しげもなく磨り上げる事と、
 悪用乱用の好きな武将であった。
 彼には、愛蔵の長大な在銘正宗があった。
 さすがにこれを切りつめるのは惜しかったと見え、
 当時鑑刀でも名高かった三齋細川忠興に相談したところが、
 元来磨り上げの好きな三齋公の事とて、それに賛成した上、
 自ら下知して二尺何寸かに切りちぢめて、
 日常の御佩用然るべしといってすすめ、これに『振分髪正宗』と命名した。
 間もなく本能寺の変があって、
 磨り上げた忠興の妻の実父、明智光秀の弑〔シイ〕すところとなったのである。
  また別に正宗十哲の一である、
 長谷部國重作、二尺一寸四分の刀を愛用していたが、
 ある時、身の廻りの世話をしてくれる茶坊主の觀内というものが、
 言葉を返したというのでカッと怒り、
 件〔くだん〕の國重を抜いて切りつけたところが、
 す早く膳棚の下へ逃れて隠れた。
 信長はこれを追いつめて、
 膳棚ごとへし切りに切ってこれを殺したというので、
 のち、『へし切り長谷部』として、名刀の中に加えられ、
 本阿彌の名物帳にも載っている程であるが、
 こんな刀こそは、謂ゆる兇器で、名刀の籍から抹殺すべきものだ。
  信長が本能寺で光秀の軍兵に囲まれた時、
 火の中を廊下づたいにある一室にのがれたその一瞬
 廊下にあった膳棚がひとりでに倒れかかって、
 為に信長はまず第一番目の負傷をした。
 これは觀内の怨霊がさせたわざだと書いてあるものを見た。






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Last updated  2012年08月25日 21時30分01秒


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