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Ride 'Em Cowboy
Photo by Terry Alexander
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大藪作品『傭兵たちの挽歌』
U.S. GERBER Folding Sportsman II 用スキャバード製作企画
第七章「煉獄の戦士」Vol.02

  『(※ 前回 からのつづき)
   モーテルに戻り、レミントンM七〇〇BDLのライフルをアキュライズ(チューン・アップ)
  する作業にかかる。
   八ミリ・レミントン・マグナムの実包は、アフリカ猟のスタンダード口径である三七五ホー
  ランド・アンド・ホーランド・マグナム薬莢(やっきょう)の首を八ミリ   
  言うと約三二三五径    にネック・ダウンし、肩の角度を鋭くし、二百二十グレイン弾頭の場
  合にはデュポンI・M・R四八三一マグナム火薬を約七十五グレイン押しこんであるから、反
  動は小さいとは言えない。
   だから片山は、銃身全体をフリー・フローティングさせずに、銃身の前半部だけをフリー・
  フローティングさせ、後半分をマイクロ・ベッドを介して銃床の溝(みぞ)に密着させるよう
  にした。



Remington Model 700 BDL





Youtube -
Remington Model 700: full disassembly & assembly
by Si vis pacem , para bellum.
https://www.youtube.com/watch?v=lA4EjAciTAs






Glass Bedding a Barreled Action by The Real Gunsmith
https://www.youtube.com/watch?v=tAcYkBfL2WE






Gunsmithing - How to Glass Bed a Rifle Stock Presented
by Larry Potterfield of MidwayUSA
https://www.youtube.com/watch?v=oOo-_Ss7aIs






Glass Bedding the Savage M-11 into the Bell & Carlson stock.
by cavedweller1959
https://www.youtube.com/watch?v=I9q_522StCI







   引金の逆鉤(シアー)をオイル・ストーンでラッピングし、引金の切れ味が自分の好みに
  ぴったりくるように、引金機構の調節ネジを回した。ロック・タイトで調節ネジを固定する。
   ライフル・スコープのマウントやリングも一度外し、また組立てながら、ネジをロック・タ
  イトで固定する。

  がかかるので、モーテルを出た片山は、ダットサン二八〇Zに乗り、ルート四五のフリー・
  ウェイをフォート・モンティに向った。
   道の左右に広がる草がまばらな牧場に、放牧されているヘレフォードやアンギス種の牛に
  混って、草原のスピード・ランナーのプロングホーン・アンテロープの群れが石鉢(いしばち)
  から水を呑(の)んでいるのが、遠くに白っぽく見える。枯れたデザートグラスが丸まって飛
  び、路肩には轢(ひ)き殺されたコヨーテやヤマアラシ(ポーキー)の死体が転がっている。




Youtube -
Pronghorn -- Berrendo o Antilope Americano (Antilocapra americana)
by manolodorecho
https://www.youtube.com/watch?v=8t3QXPLKwm0






Why Do Tumbleweeds Tumble? by Deep Look
https://www.youtube.com/watch?v=dATZsuPdOnM






   自殺(スーサイド)サーキットと呼ばれるロディオは、町中心部の大広場で行われることに
  なっていたから、フリーウェイを降りて町に入ると、ノロノロ運転をしいられた。馬を積んだ
  派手な色のトレーラーがいたるところに駐(と)まっている。
   メイン・ストリートに羽根飾りをつけたインディアンたちやスパンコールを光らせたロディ
  オ・ガールズ、それに昔の騎兵隊員に扮した連中のパレードがやってきたので、交通渋滞に拍
  車がかけられた。
   片山は裏通りに車を捨てて会場に歩く。切符とビック・マック・ハンバーガーとコークを
  買って、仮説スタンドのベンチに腰を落ちつける。もう満席近かった。
   ロディオは、“アンソシエーテッド・サドル” と呼ばれる、ホーンが無いか、あっても小さな
  鞍(くら)をつけた暴れ馬に乗るサドル・ブロンコ・ライディングからか始まった。
   サドル・ホーンが特殊なのは、普通のホーンだと、跳ねあげられてホーンの上に落ちた時、
  尻の穴に食いこんだりすると悶絶(もんぜつ)するからだ。




Youtube -
How to Bronc Ride - Reed Neely by George Veater
https://www.youtube.com/watch?v=GC4PrN2eNFQ






   片手で握った手綱のロープだけで暴れ馬をあやつろうとするライダーで十秒以上馬上にとど
  まることが出来た者は少なかった。脚や手を折ったり内臓打撲で気絶する者が続出する。
   鞍無しの暴れ馬の胸革の把手に片手でつかまって、振り落とされないようにと、ライダーが
  馬上で八秒間以上頑張(がんば)ろうとするベアーバック・ブロンコ・ライディングも、使用
  する馬が小さくて敏捷なので大変だ。
   このレースでも怪我人が続出するが、ロディオの出場者だし、賞金稼(かせ)ぎのプロだか
  ら同情しなくてもいい。以上二つのレースは、ライダーだけを採点するのでなく、馬も採点さ
  れる。暴れない馬は失格だ。
   暴れ牛を相手にする道化師の曲芸や、体にぴったりのジャンプ・スーツをつけた美女のト
  リック・ライディングをはさんで、走る馬の上から雄牛に跳び移り、頭をねじってひっくり返
  すまでの五、六秒の時間を競うスティア・レスリング・・・・・・これも走る馬の上から逃げる仔牛
  に投げ繩を掛け、馬から跳び降りざま仔牛を縛りあげるカーフ・ローピング    十秒ぐらいの
  あいだにやってのける    など、次々に試合が行われる。
   夜になり、人工照明が入っている。
   片山は久しぶりに戦士の休息ともいうべき時間をエンジョイした。トイレも要所要所に配置
  されている。
   競技の最後は、若い娘たちが、スタート・ラインから見て、それぞれ三十メーターほどの間
  隔を置いて三角形に配置されたドラム罐(かん)のマーク点を結ぶコースを、愛馬にまたがっ
  て、いかに早く旋回するかのタイムを争うバレル・レーシングであった。
   車ならジムカーナ、スキーならスラロームのようなレースであった。直線では愛馬に振るっ
  ていた鞭(むち)を口にくわえ、馬ともども斜めに傾きながら頭を真っすぐに起し、土煙をあ
  げてビールやタバコの広告入りのドラム罐のまわりを旋回する娘たちの表情と躍動する肉体に
  は鮮烈な色気がある。片山はハワイで知りあったバレル・レーシングのローカル・チャンピオ
  ンのベッキーを想いだした。
   ロディオが終ると、片山はモーテルに戻る途中、ヒューストンでレストランに寄り、噛みし
  めると肉汁が口のなかではじけ飛ぶステーキと、ベーコン・クリスプ    カリカリに焼いて脂
  (あぶら)を抜いたベーコンの粉    とサワー・クリームを掛けたベークド・ポテトで夜食を
  とった。
   モーテルに戻り、カツラとコンタクト・レンズを外してベッドに転がりこむと、五秒もたた
  ぬうちに眠りこむ。

   翌朝、熟睡から覚めた片山は、レミントンM七〇〇ライフルを組立て、M十六自動ライフル
  の焼き鈍(なま)された銃身を昨日買った銃身と交換した。
   モーテルのコーヒー・ショップで朝食をとったあと、ジャンボ・サンドウィッチを包んでも
  らい、自動販売機で清涼飲料水の罐を数本買った。
   部屋に運んであった荷物を全部車に積んでレミントン・ライフルと銃身を換えたM十六の試
  射に出発する。防弾チョッキのテストと、コマンドウ・クロスボウの試射も行う予定だ。
   射撃場や遠く離れた原野まで行かなくても、牛馬が巣穴に脚を突っこんで骨を折ってしまう
  ためにペスト並みに扱われている、地リスの親玉のようなプレイリー・ドッグを退治してやり
  に来たと言えば、牧場主は喜んでゲートを開いてくれる筈だ。持主の許可さえあれば、牧場で
  発砲することは何ら違法ではない。ここは狭い日本と違い、牧場のスケールもケタ外れだか
  ら、片山が牧舎から遠く離れたところで何をしようと、牧場側に気付かれることはない筈だ。



   翌日の昼過ぎ、片山は国内便でニュージャージー州ユーイングのローカル空港に着いた。そ
  こからニューヨークのマンハッタンまでは陸路で約六十マイルだ。
   空港のレンタ・カー会社から、目立たぬフォード・フェアモントのセダンを借り、大量の荷
  物をその車のトランク・ルームに収める。
   マーキュリー・ゼーファーと兄弟車であるフェアモントは、ヨーロッパ車や日本車から学ん
  で、コンパクトだが車内は広く、最高速は低いが操縦性はアメ車のセダンのなかでは抜群だ。




Ford Fairmont 4 Door Sedan














   片山は空港からすぐ近くの、トラックの往来が激しいインターステーツ九五にフェアモント
  を乗り入れた。
   インターステーツ九五は、別名タバコ・ロードと呼ばれている。タバコ生産地であるため収
  税が安く、したがって単価も安い南部のヴァージニアのタバコを、収税のために高い北部に密
  輸するトラックが多いためにつけられた名だ。
   インターステーツ九五ハイウェイに入って少し行くとレスト・エリアがあった。
   キャリフォーニアでは信号がない高速道路をフリー・ウェイと呼び、信号があるのをハイ
  ウェイと呼ぶが、東部では信号があっても無くても高速道をハイウェイと呼ぶ。
   フリー・ウェイとはもともと通行料金が要らないという意味で、日本の東名や中央道のよう
  に料金をとられる自動車専用道路は、合衆国ではトール・ウェイとかエクスプレス・ウェイと
  か、さまざまな名称がある。
   レスト・エリアのトイレで片山は金髪のカツラを脱ぎ、眼球が痛くなるコンタクト・レンズ
  を外した。紙袋に入れ、車のダッシュ・ボードに仕舞う。
   ドーナッツとフライド・チキンとコーヒーの軽食を済ませた片山は、タバコの密輸トラック
  らしい十数台のコンヴォイが通過したあとを追いかけた。
   このあたり東部や南部は、ロッキー山脈越えをする大陸ルートとちがって、道がかなり平坦
  (へいたん)なので、十八輪トラック(エイティーン・ホイーラー)であっても、ホワイト・
  オートカーやマーモンやフォードやジェネラル・モーターズなどの、二百五十馬力から三百馬
  力程度のエンジンを積んだトラクターが多い。大型トラック(ビッグ・リグ)の場合のトラク
  ターは牽引車の意味で、運転台とエンジン部の総称だ。引っぱられる荷台がトレーラーだ。ト
  ラクターのエンジン部分が運転席の前に張り出しているのをコンヴェンショナル・タイプと呼
  び、キャブ・オーヴァー・タイプは日本と同じく運転席の下にエンジンがある。
   片山は十八(エイティーン)ホイーラーのコンヴォイの一キロほどあとを走る。パトカーを
  見張るためのバック・ドアと呼ばれるトラックを抜き、コンヴォイに追いついた。
   職業トラックは五十五マイル制限を守っていたのでは商売にならないし、長い登り坂の手前
  で充分にスピードをつけておかないと、十数段変速のギアをいかに巧みに操作しようと、車体
  も積荷も重いから、坂道で見る見るスピードが落ち、低いギアを使わねばならぬから燃費を浪
  費する。平坦地でさえ、大型トラックは一度スピードを落すと、スピードに乗るまでじれった
  いほど時間がかかる。空荷でさえ三十五トンにも及ぶからだ。
   だからトラック軍団はC・B(シチズン・バンド)の無線機でトラッカー・スタングの隠語
  を駆使し、数キロ先を行くフロント・ドアの見張りトラックやバック・ドアのトラックと連絡
  を取りながら走っている。
   取締まりのアドヴァタイジング(パトカー)や速度検査(ベアー・トラップ)レーダー・覆
  面パトカー(ラッパー)や警察ヘリコプター(エア・ベアー)に注意しながらトラック軍団は
  七十五マイル    約百二十キロ    で地響きたてて突っ走った。重いのと空気抵抗のためにそ
  れ以上のスピードは出ない。
   罰金でもって町の財政を助けたり、取締まりの警官のポケット・マネーにするためにパト
  カーやレーダーが待ち構えている町の近くでは五十五マイルにスピードを落す。
   ハドソン川をはさんでニューヨーク・シティと向かいあうニュージャージー州フォート・
  リーでトラック軍団と別れた片山は、パリセード公園の近くでマーキュリー・ゼーファーを盗
  み、荷物をその車に移した。



Ford Mercury Zephyr















   ゼーファーをフォート・リーの中心部に近いレンタ・カー会社の近くに移しておき、タク
  シーでパリセード公園まで戻った。
   フォード・フェアモントを運転してレンタ・カー会社に行き、その車を返す。
   カツラとコンタクト・レンズをつけてから、マーキュリー・ゼーファーを運転し、ハドソン
  河のワシントン・ブリッジの有料橋を渡り、ハーレム河も渡ってニューヨーク・シティのブロ
  ンクスに入る。ニューヨークは、もう寒い冬に入っていた。

 (つづく)




大藪春彦 著『孤高の狙撃手』(エッセイ集)
光文社文庫
 2004/6/20







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Last updated  2021年01月31日 18時54分11秒


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