冗長な会話から一転?あら筋のような感じですが、
読んでみて下さい。十何年も前に書いたので、
もう開発されてる技術もあるかも・・・
時を経て、べスは科学研究所に勤めることになった。
ジョンは定年間近で協力することは出来なかったが、
陰ながら応援していた。
ローリーは故郷の町に帰り、
機密の仕事に携わりながら、
自分の研究をひそかに続けていた。
二人は決して約束を忘れて訳ではなかった。
つまずき、あきらめかけても、約束を思い出し、
負けるものかと自分に言い聞かせていた。
研究はなかなか思うように進んでいなかったが、
着実に基礎研究はしていた。
べスは人間から遺伝子を取り出し、
それのみで培養する技術は出来ていない。
だが、遺伝子をロボットに
組み込む技術は出来ていない。
それどころか、組み込むべき人造人間すら、
完成してなかったのである。
べスの専門はバイオ技術だった。
人工臓器、人工血液は出来ても、
人工脳は出来ない。ましてや増殖する
人工細胞など夢のまた夢だった。
いつになったら人造人間が出来るのか、
気が遠くなる思いだった。
もちろんその研究だけしているわけではない。
科学研究所の研究員としての仕事も
果たさなければいけない。
自分の研究は、主に自宅の研究所に
持ち帰ってのことだった。
実験道具は父に援助してもらい、
少しずつ揃えてはいたが、とても足りない。
研究所に勤めてる関係で安く手に入るとはいえ、
高価な器具は手が届かない。
このテーマを正式な研究として
認めてもらおうとしても、
人間、ロボットどちらからも
異端の目で見られる。
それぞれの誇りがあるだけに、
中間の人造人間など許せないのだ。
その頃は、既にロボットの地位が向上し、
彼女以外に現役で、
人間の研究員はいなかった。
あとは科学研究所の所長などの管理職、
といっても名誉職だが。
他には、定年間際で実際にはもう
研究をさせてもらえない人間達。
その中には、べスの父親も含まれていた。
父の世代以降は、もう人間の研究員は
ずっと採用されていなかったのだ。
べスが研究員になれたのは、
人間ながらも大学院を卒業し、
その論文が認められたからだった。
論文の題名は「人間の未来」。
「人間は退化し滅亡する。
ロボットの時代が来るであろう、
その日の為に人間とロボットの
合いの子である人造人間を作り、
子孫を残す必要がある。
人造人間に人間の遺伝子を組み込み、
人間の今まで歴史を残すのだ。
恐竜の一部が鳥に進化し、生き永らえたように。」
論文は科学研究所の所長の目に留まり、
趣旨に感激して強引に採用した。
最後の人間の研究員として。
ロボットはおろか、人間までも、
単なる所長の感傷に過ぎないと非難したが、
これが所長としての最後の決断だと
べスを推し通した。
父ジョンとも友人であるため、
縁故採用とも言われたが、
べスの優秀さは皆も認めざるを得なかった。
だが、それも人間の中では優秀というだけで、
ロボットとは比較にならない。
べスは論文が認められたと思い、
研究を続けようとしたが、
執拗な妨害に遭い、自宅に持ち込んだ。
正規の研究とは認められず、
個人的な研究とみなされたからだ。
かえって、採用条件の論文のテーマとして
知られていただけに、反感を抱かれてしまったのだ。
人間、ロボットどちらからも、
「こうもり」扱いされる始末だった。
ただ一人の理解者は、父ジョンだった。
ジョンも最初は反対していたが、
べスの熱意に負け、またそうしなければ
人間は滅びると痛感していた。
他の人間はまだ、ロボットに寄りかかったままで
生きられると信じていた。
ジョンがいくら人間の滅亡の危機を説いても、
耳を貸そうとしなかった。
ドームの中は人間の楽園と高をくくり、
安楽をむさぼる生活を送っていた。
その間にもロボットは着々と
改良され、進歩していった。
ロボット達の手によって。
人間は必要悪とされていた。
ロボットを操るホストコンピューターがなければ、
とっくの昔に、人間はロボットに滅ぼされていただろう。
そのホストコンピューターでさえ、
今はロボットに管理が委ねられていた。
反逆の意志を持たない従順なロボット達の中にも、
少しずつ疑問を抱くものが出てきた。
ローリーは反逆分子のリーダーになっていた。
自分の意志と感情で動く事を許されていたので、
秩序を乱すことなく、見えないところから
意識の変革を図っていたのだ。
人間の信頼も勝ち取り、自治を許され、
機密の町をロボットの秘密基地へ変貌させた。
人間が眠って間にもロボットは働き続けていた。
ローリーも研究を続ける事は続けていたが、
自治長としての仕事や
秘密結社の任務に追われ、途切れがちになっていた。
放射能を通さない物質を
見つけないことには始まらなかった。
同志のロボットの協力を仰ぎ、
いろいろなところから、
石や土などを送ってもらい、
研究を重ねていたが、発見出来なかった。
例のロボットを構成していた物質を
調べようにも、資料がない。
第一、昔はそれどころではなかったのだ。
生きるために必死だった。
そのロボットさえも、狂うプログラムを制御しながら、
次代のロボットを作り、
消滅したと言われている。
その物質さえ、完全に放射能を
通さなかったわけではないらしい。
そう思うと絶望的な気持ちになった。
ドームの外で無理に生きるより、
この快適なドームの中で、人間を滅ぼし、
ロボットの大国を作った方が
どんなに楽かしれなかった。
ローリーが研究を途中で投げ出し、
秘密結社の陰謀に加わってるのも、無理はなかった。
彼が首謀者というわけではなかったが、
優秀さと意志の強さを買われ、
皆の人望を集めていたのだった。
だが、それを快く思わないロボットもいた。
秘密結社を最初に作ったのは俺だ!
という自負ばかり強く、
何もしようとしない元リーダーだ。
彼の名はユダ。イエスを裏切った者の名だ。
だが歴史を知らない時代に生まれた者達にとっては、
その名の意味など関係ない。
コンピューターに登録されている膨大な名前の中から、
偶然に選ばれたに過ぎない。
ロボットだけでなく、名前に意味があるということさえ
考えなくなった人間も、
子どもの命名をコンピューターに
任せるようになってしまった。
名前は単なる符号でしかなくなった。
番号でもいいのだが、
忘れやすい人間には、まだ名前の方が
覚えやすいというだけの理由から。
だが、子どもの名前を付ける必要も無くなっていた。
人間の子どもが着実に減っているのだ。
人間はロボットにはない
唯一の生殖能力さえ失いつつあった。
体力が衰え、生きる化石と化していたのだ。
人間はただ生きているだけで、
死ぬのを待つばかりだった。滅亡する日まで。
べスだけは人間の滅亡を防ごうと研究を続けていた。
研究所では仕事をこなし、
自宅に帰ってからは研究に没頭していた。
母エミリーは、心配でならなかった。
余り無理をして体をこわすのではないかと。
ジョンも一時過労で倒れたことがあったのだ。
もともと人間は体が丈夫ではない。
知力だけでなく、体力もロボットに劣る人間にとって、
昼夜を問わず研究すること自体、無理があったのだ。
「見果てぬ夢」7
ついにべスは研究所で実験の途中、倒れてしまった。
打ち所が悪く、意識不明の重態だ。
植物人間になるかもしれないと言われた。
父ジョンは友人の医師に、まだ研究途中の新薬を、
べスを実験台にと頼み込み、使用してもらった。
母エミリーはべスが死んでしまうと
必死に止めたが、ジョンの意志は固かった。
植物人間になって、死んだ方がましだとベスはいうだろうと。
『研究を続けられないなら、生きている意味はない』
とまで思いつめていた娘のために。
ベスが死んだら、ジョンも死ぬつもりだった。
ベスの研究が完成しなければ、
いずれ人間は滅亡するのだから。
エミリーもしぶしぶ承知した。
新薬を試してから、数日が経った。
何の変化も見られないように思われた。
ジョンもエミリーも覚悟していた。
だが奇跡が起こった。エミリーが目覚めたのだ。
ベスは大きく息をス込むとうっすらと目を開けた。
ベスの看護で疲れきっていたエミリーは、
ベスにもたれて夢うつつだったが、動きにハッとした。
「ベス、気が付いた?ママよ。分かる?」
思わずベスの顔を覗き込んだ。
「ママ、ここはどこ?」
「ママが分かるのね。良かった。
あなたは研究所で倒れてこの2ヶ月、
意識不明だったのよ。今、パパを呼んで来るから、待ってて。」
エミリーはあわてて部屋を飛び出していった。
ベスはあたりをゆっくりと見渡すと、
花が生けてあった。真っ白なカスミソウだ。
『私の好きな花を覚えててくれたんだ。』
しみじみ見ていると、涙で霞んできた。
「見果てぬ夢」12
『ママに心配かけちゃったな。
つくづく私って親不孝だよね。
反対を押し切って、研究を続けた挙句、
倒れて迷惑かけちゃうなんて。
でも研究は諦められないわ。ここでくじけちゃ、
パパの期待を裏切ってしまう。
心配かけて申し訳ないけど、
ママのためにもなるんだから、研究は完成させなくっちゃ。』
ベスは心に誓うのだった。
ジョンが研究所から駆けつけて、
必死の形相で病室に飛び込んできた。
「ベス、大丈夫か?」
息を切らせながらも、娘を気遣う父に
ベスは言葉が詰まってしまった。
「新薬を使ったから、副作用があるかもしれない。
サムを呼ぼう。」
父の友人のサムは、母からも知らせを聞いて、
既に家を出ていた。
「もうすぐ彼も来てくれる。
具合はどうかい、ベス。顔色はいいな。
かえって前よりもいい位だ。
ちょっと心配だが、検査すれば分かるだろう。」
「体が軽い感じよ。前より調子がいいほど。
どんな新薬を使ったの?」
「うん。なんでも細胞を活性化させ、
免疫や治癒力を回復させる機能をもってるらしい。
まだ研究段階で、お前はその治験第1号というわけだ。」
「それよ。私が探していたのは。
人工細胞を作るところまではいったのだけど、
活性化しないの。増殖活動をしないのよ。
それを使えばもしかして、
人工細胞が活性化するかもしれないわ。
パパ、その開発者を紹介して。」
「それはいいが、お前はまだ
研究できるような状態じゃないんだよ。
また倒れたりしたらどうする気なんだ。
これ以上パパやママに心配かけないでくれ。」
「ごめんなさい。でも会ってお話だけでも
聞きたいの。いいでしょう。」
「しょうがないな。お前は一度言い出したら
聞かないんだから。
まあ、会って話す位はいいだろう。
ただし、この病室にきてもらうぞ。」
「いいわ。だから早くお会いしたいの。
パパ連絡して。」
「もう連絡はついてるよ。
開発者は、あのサムなのだから。
今頃、病院に向かってるところさ。」
「パパのお友達の? それならそうと早く言ってよ。
ああ待ち遠しいわ。」
噂をすれば陰で、サムが息せき切って、
駆け込んできた。
「べスが目覚めたって、本当か?」
「サム、よく来てくれた。
べスも待ちかねていたんだ。大丈夫かい?」
「ああ、急いでいたからな。
一刻も早く様子が知りたかったんだ。」
「ありがとう。お陰でこの通り、
前よりも元気になったくらいだよ。」
「そうか。やっぱりな。
もしかしてあの薬が聞きすぎたのかもしれない。」
と、サムはちょっと首をかしげた。
「どういうことだ。副作用でもあるのか。
教えてくれ。」と、詰め寄るジョン。
「いや、今のところ、まだよく分からないんだ。
とにかくあれは実験段階だから、
申し分けないが、べスの様子を見ない事には
なんとも言えない。」
うなだれるサムに、ジョンが肩をたたく。
「それは覚悟している。意識さえ戻ればこの通り、
研究意欲が湧く子だからな。
ベス、サムに聞きたいことがあれば、
今聞いてみなさい。」
「ほう、聞きたいことって、何だね。
私に分かってる範囲でお答えしますよ。」
サムも急に目を輝かし、
ベスと研究者同志の会話がはずんだ。
「まず、その薬はどんな効用があるんですか?」
「今わかってる事は、細胞の中の遺伝子を刺激して、
活性化させるということだけなんだ。
その結果、人間本来の自然治癒力を高める働きをする。」
「遺伝子自体が活性化するということですか。
それなら人工細胞を増殖させるのに役立つかしら。
遺伝子を移植しても、細胞分裂しなんですよね。
活性化できますか?」
「うーん、やってみないと何とも言えないね。
でも私もその研究には興味あるな。
協力するよ。君の人工細胞に
私の薬を注入して、試してみよう。」
「本当ですか? ありがとうございます。
今すぐにでも飛んで行きたい。」
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