MUSIC LAND -私の庭の花たち-

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「十三夜の面影」5





眠れぬ夜を過ごし、寝不足だけど、

初めてのデートだから、

張り切って起きてしまった。

カーテンを開けると、

朝日がまぶしい。

いい天気でよかった。

「うーん。」と

朝日に起こされて、

かぐや姫も目覚めがいい。

今日はどこに行こう。

まずは近くの公園かな。

それとももっと大きな公園の方がいいかな。

なぜかかぐや姫とは自然の中に行きたいのだ。

犬でもいれば、一緒に走り回りたいくらい。

歩いていけるところがいいのだが、

近くにはそんな大きな公園はないし、

電車にでも乗るかな。

かぐや姫は乗ったことないから、

驚くだろう。

思ったとおり、かぐや姫は

ラッシュに悲鳴をあげる。

「なんでこんなに人間がいるの?」

かばうように包み込む。

「会社や学校に行く時間が一緒なんだ。

仕方ないんだよ。」

押されてくっついてしまういい訳だ。

やっと乗換駅で降りて、

下りに乗ると今度は空いている。

かぐや姫はまた驚いてる。

電車が揺れると

倒れそうになるから、

「ほら!つかまるんだよ。」

と手を取ってしまった。

僕の左腕に

彼女の右腕をからませて

僕は右手でつり革をつかむ。

猫のようにしなやかな柔らかい腕。

そういうものかと不思議そうに

僕を見上げる彼女が愛しい。

駅についても、そのまま腕を組んで歩いた。

はぐれないように、というより、

離したくなかったのだ。

彼女はどう思ってたのだろうか。

今となっては分からないけど。

公園に着いて散歩した。

木々が風に揺れ、

木漏れ日が僕らを包む。

穏やかで幸せな気持ちになる。

こんな時間が永遠に続いたらと思う。

隣に彼女が居るのが自然になっていた。

夏が終わりに近づいてきたのか、

爽やかな風が心地よい。

淋しいくらいだ。

急に腕に力が込められたから、

思わず彼女を見てしまう。

「何を考えてるの?」

見上げる顔が不安げだ。

「何も考えてないよ。

ただ幸せだなって感じてた。」

「そう、良かった。私もよ。」

と無邪気に腕にぶら下がる。

遊歩道が奥深い森へと続いていく。

うっそうと茂った森では、

木漏れ日さえもかすかになる。

まだ蝉がかすれるように鳴いていた。

去り行く夏を惜しみながら。

この森はどこまで続くんだろう。

果てがない訳はないんだ。

いつかは終わりが来る。

かすかな予感が頭をよぎる。

振り払うように彼女に話しかけた。

「ここからじゃ、月は見えないね。」

「でも、月からはみんな見えるのよ。」

当たり前のようにかぐや姫は言う。

「そうなのかい?僕のことも?」

「だから、あなたのところに飛んできたの。」

「なぜ僕なんだい?」

「自分でもよく分からないの。

ただあなたを見てたら、吸い込まれるように

舞い降りてしまったの。どうしてかしら?」

と、じっと見つめるから、

僕の方が、彼女の瞳に吸い込まれるそうになった。

「わけなんてどうでもいいや。

とにかく君が来てくれたんだもの。

それだけでいいよ。」

「そうだよね。」

と、うなずく彼女の髪を撫でた。

続き



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