MUSIC LAND -私の庭の花たち-

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「十三夜の面影」10








かぐや姫が腕をからめてくるから、

ますますそんな店に行かせたくなってしまう。

僕だけのものにしておきたいのだ。

「どうしても行かないといけないのか?」

哀願口調になってしまう。

「私だって、本当は行きたくないけど、

行かないといけないの。」

かぐや姫もさっきまでの強さがなくなってる。

「なんで行かなければいけないんだ?」

「わけは言えないけど、どうしてもなの。

だから、ついてきて欲しいの。」

目を合わせるのが辛いくらいに見つめる。

「わかったよ。一緒に行こう。」

僕が守ってやらなければと思う。

腕を組みながら、歩いていく。

足取りはつい遅くなってしまうけど。

やっと店に着くと、

「こんばんは。遅れてすみません。」

かぐや姫は明るい声で挨拶する。

うなだれて歩いていた彼女とは別人のようだ。

「待ってたよ。早速同伴か、やるねえ。」

僕までじろじろと値踏みされてる。

「新入りのかぐや姫だ。ほら、みんなに挨拶して。」

注目を浴びるかぐや姫。

その好奇の目をはね返すように、

「かぐや姫です。よろしくお願いします。」

と堂々と挨拶して、お辞儀する。

深々とするものだから、

かえって、気品が漂う。

それから奥の席に案内されて、

やっと人心地がついた。

「ここって、いくらくらいするんだろうね。」

声をひそめてかぐや姫に聞くが、

「そんなこと私だって知らないわ。」

と頼りない。

毎回ついてくるわけにはいかないし、

どうしたらいいのだろうか。

「ご注文は?」とボーイに聞かれて、

思わず「ウーロン茶」と

二人で一緒に言ってしまった。

顔を見合わせて、笑ってしまう。

ボーイは戸惑った顔をしていたが、

最初だから仕方ないと思ってくれたのか、

そのまま受けてくれた。

「酒にしないといけなかったかな。」

あまりこういうところに来たことがないんだよね。

酒にも強くないし、付き合いも苦手だ。

「いいんじゃないの? 何も言われなかったし。」

相変わらず無邪気なかぐや姫。

これで、フロアレディが務まるのだろうか。

「かぐや姫さん、ご指名が来てるのですが、

こちらに来ていただけますでしょうか。」

慇懃無礼に先ほどのボーイが呼びに来た。

早速指名とは、さすがかぐや姫だが、

心配だなあ。

僕では金にならないとボーイも思ったのか・・・。

まさかその席に付いていく訳にもいかないし。

「私は、こちらのお客様のお相手をしてるのです。

そちらはお断りしてください。」

毅然と言うかぐや姫。

「そうは言われても、困るんです。

顔見せとして、挨拶だけでもしてください。」

ボーイも容易には引き下がらない。

「では挨拶だけね。」

と言って、席から立ち上がる。

「すぐ戻ってくるから、待っててね。」

耳元でささやく声が甘く感じる。

「代わりに誰か来させましょうか。」

ボーイにそう言われたが、断る。

かぐや姫が気になるからな。

席はそう離れてないようだ。

通りすがりのかぐや姫を見て、指名したのだろうか。

耳を澄ませて、会話を聞こうとするが、

よく聞こえない。

トイレに行く振りをして、

近くの空いてる席に座ってしまう。

「君、新顔だね。

名前はなんて言うんだい?」

脂ぎった顔の男が、ねちっこく聞いてくる。

「かぐや姫です。」

「珍しい源氏名だね。」

「源氏名ではなく、本名よ。」

おいおい、そんなこと言っていいのか?

僕はあせってしまった。

「こりゃすごい。冗談でも、

こんなハッタリ聞いたことないよ。

面白い子だな。気に入った。」

大笑いしてるので、受けてしまったらしい。

「本当なのに。」

少し拗ねたように言うかぐや姫。

「わかった。もういいから。

かぐや姫に逢えた記念に、

ボトルを入れてやろうかな。

何がいい?」

「一番高いのお願いします。」

「また度胸がいい娘だな。」

目を見張っているが、悪い印象ではないらしい。

可愛いと許されるものなのだろうか。

続き



























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