僕の背中に押しつけた頭が震えているから、
かぐや姫が声を押し殺して泣いてるのが分かる。
振り向いて抱きしめたいけど、
手を後ろにやって頭を撫でる。
髪が柔らかくて滑ってしまう。
震えが止まった。
少し落ち着いてきたようだ。
「お腹空いたな。もう出よう。」
わざと明るく振舞って、
彼女の気を引き立てようと思う。
もちろん自分のも。
「うん。支度してくるね。」
彼女は素直にバスルームから外に出た。
ゆっくり着替えていると、
いい匂いがしてくる。
「今日はなんだい?」
「ちらし寿司と煮物と酢の物とお吸い物。」
みんな和食だな。
しょうがないけど。
本当は洋食の方が好きなんだけど、
彼女と暮らしてから、
和食が多くて慣れてきたんだ。
健康にもいいらしいし。
帰ってしまったら、
また外食か、コンビニ弁当か。
今はそんなこと考えたくないな。
彼女が張り切って作ってくれたんだから、
たくさん食べなきゃと思った。
でも、胸が一杯でなかなか食べられない。
「美味しくない?」
心配そうに見つめるから、
「美味しいけど、昼食べ過ぎちゃったんだ。」
と笑ってごまかす。
「そう。良かった。」
そんなこと言ってる彼女自身だって、
あんまり食べてないじゃないか。
いつもより多く作ったくせに。
二人とも無口になってしまう。
「明日、休みを取ったんだ。
行きたい所ないかい?」
沈黙に耐え切れず、唐突に言ってしまった。
「私、知らないからなあ・・・。
そういえばお客さんで月が大きく見えるところを
教えてくれた人が居たの。」
もう月はいいよ。
そう思いながらも、一応聞いてみる。
「どこなの?」
「山の上の展望台ですって。」
少しは月に近いかもしれないけど、
大きく見えるってほどじゃないよな。
でも、彼女が行きたいって言うんなら、
行ってみようか。
そのまま月の使者に連れていかれてしまうのかな。
それならそれでも仕方ないか。
ここにいたって、迎えがくるんだろうし。
彼女がいなくなったら淋しいと思う。
でもこの辛さから開放されるかもしれない。
矛盾してるけど、そう思ってしまうんだ。
彼女が好きでいとおしいと思う。
その気持ちに嘘はないのに。
だからこそ、一緒に居ても抱けない苦しみ、
切ない気持ちに負けてしまいそうになる。
自分が弱いから、依存してしまいそうで怖い。
でも、彼女がいなくなったら、僕に何が残るんだろう・・・。
今から呆然として、どうするんだ。
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