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2005年12月04日
鳥取物語 第八章 血湧き肉踊る夏 第一節●綴の役割り●
(5)
テーマ:
連載小説を書いてみようv(10175)
カテゴリ:
カテゴリ未分類
次の日、身体のあちこちに絆創膏を貼った神生(かにゅう)の大将森雅弘が、無理やりに全人格を再評価させられた、といわんばかりの顔をして豊の肩を叩いて行き過ぎていった。
そして、そのまま教室の後ろの本棚に向かい、豊の物語の原稿を取り上げると、自分の席に戻っておもむろに読み始めた。
いつからか、豊と小夜の書きためた物語は分校の本棚に重ねられ、子供たちはそれをお互いにまわし読みするようになっていた。
豊は名作のパロディや小噺、小夜は相生の民話を集めた「あったること」や創作童話などを小出しにだしていた。
小夜はひそかに豊の作品を手にとって、それを丁寧に読み込んでは相変わらず口惜しがっていた。
不二豊 『うなぎ』
うなぎがうなぎ屋の親父に文句を言うに、
「大将。わざわざうちわであおぐんだったらさ、下の火ィ消してくれない?」
不二豊 『小さい‘っ’』
小さい「っ」を主人公にした話。
「っ」は自分が五十音の中で一番小さくて、書き方も簡単で、発音さえもしてもらえないのが悲しくてならない。
ある日、彼は小さい「ょ」に学校の帰りに追いかけられる。息子が泣いているのに気づいた父親の「つ」が、文字はひとつひとつが重要なのではなく、みんな言葉の一部なのだよと教え、その証拠に「っ」は「にっぽん」や「べっぴん」の一部だし、「ょ」だって「べんじょ」や「しょんじり(臆病者)」のなかに入っているのだよ、と言ってなぐさめる。
不二豊 『鏡』
皆の要請により、「鏡」をテーマにして小夜と競作したもの。
ある男の子がカメラのレンズのなかに入っていき、フィルムのなかに閉じ込められてしまう。
ある日、フィルムは現像され、現像室に吊るされて乾かされる。男の子は助けを求めるが、彼の叫び声は誰にも聞こえない。やがてネガが焼き付けられ、彼は写真から外に抜け出る。しかし、その日以来、色のついた世界の中で彼だけが白黒になってしまう。
今なら小夜は豊に、これは社会の無理解に苦しみつつ生きる芸術家のアレゴリーなのかと質問してみたい気がする。しかし、あの豊ならばしばらく難しい顔をして考えたのち、
山口小夜 『鏡』
単なる不二豊への対抗作。
ある男の子が鏡を抜けて向こう側に行く。
鏡の世界は元の世界と変わらないが、あらゆることがさかさまになっている。したがって男の子は後ろ向きに歩き、おひさまがのぼるとふとんにいき、嬉しいときに泣いて悲しいときに笑い、本を後ろから読み、悪いことをすると罰としてキャラメルをもらうという、笑い話だが不吉な後味の残る作品。
──ねね、先の岩が消えてもうた話、書いてんか。
豊の作品の人気は絶大だった。
彼の新作が出るたびに、子供たちはすわりこんで原稿をかかえこみ、目を大きく見開き、眉に汗の玉を宿し、百面相をして読んでいた。ときには、小夜は彼らの頭のなかで響いている主人公の声や背景の音が聞き取れるような気さえした。
これほどまでに皆に自分の作品が支持され、さらにはもっと書いてくれとやかましく催促されるには、豊にとっては驚きでもあった。
豊と小夜のような書き物をする者のことを、子供たちは誰からともなく「綴(つづり)」と呼び始めた。相生村では神物語を語る「語(かたり)」の役割は昔から据えられていたが、それを文章にするなりわいはさだめられていなかった。
小夜の相生村日記というものは、今にして思えば当時の様子を克明に記録してる文章として貴重なものであった。
豊の一風変わった作品はいざ知らず、小夜はやはり他民族の子であったので、純粋な興味という動機にかられて、この素敵で奇妙な文化を持つ相生の物語の記述に力を入れた。
彼女は相生集落の特許であった相生文字をほかの集落の子供たちにも教え、自分は思うぞんぶんに相生の言葉で物語を作った。
子供たちは相生文字にもすっかり慣れ、日本語の記述よりも愛着を感じるまでになっているようであった。
小夜は面白くも不思議な事件のことを耳にすると時には実名でノンフィクションを書き、それはまた実名の現実感をもっておおいに読まれるという流れのようなものができてきた。すなわち、ジャンル別に分けると、豊は創作、小夜は記録物語の書き手として役割が分担されるようになった。
‘綴のゆた’と‘綴のねね’の作り出す物語は、開校以来の長きにわたって集落単位の派閥に分かれていた子供たちを、ひとつに統合する力となっていった。
そう、これは力だった。
子供たちは集落単位だけで遊ぶには人数も少ないので、これまでは二人一組でする「ふたりオニ」や、立ち木を中心にして5メートルくらいを使う範囲のせまい「ヤドーフ」というオニごっこなどで遊んでいた。
しかしこれらの動きを契機に、次第に集落を連合した遊びに自然に発展していった。すなわち、ドロジュンに似た「けったん」や、陣取りゲームの「ろくむし」、本物の馬でかけっこする「ななうま」などである。
やがて集落同士の見えない壁が取り払われ、分校の放課や学校がひけた後の時間には、子供たち全員でこれらの新しい遊びを満喫するという、以前までは想像だにしなかった連帯意識が生まれ育ってきた。
子供たちが、ひとつの輪になってまわりはじめた。
本日の日記---------------------------------------------------------
突然ですが、おとといのコメント欄から連想させていただいたお話です。
皆さまはそれぞれに家紋を戴いていらっしゃると思います。
家紋の起こりは平安時代の末頃から、公卿が自家の牛車に目印として図様をつけたことから始まったとするのが定説です。この家紋と同じように、神社にも紋所があり、これを神紋と呼ぶことをご存知でしょうか。
本日はこの「神紋」について考察してみたいと思います。
【神紋について】
日本には数多の神社があり、古来より朝野の信仰を集めています。
それぞれの神社には神紋があり、神に奉仕してきた神職家があります。その職を世襲した家を社家といい、国造あるいは古代豪族としてそれぞれの土地を支配し、その祖神をあるいは国家神を斎いてきました。
神社の起源は、主として祭神に関する伝承や神職または有力な氏子に基づいて生まれたとされています。ゆえに、神紋もそれに因んだものが多いことはいうまでもありません。
神紋としては「
靹絵(ともえ)・輪鋒(りんぽう)・万字(まんじ)
」の三つが代表的なものであり、中でも三巴の紋を神紋とする神社が圧倒的に多いのです。
巴
はトモエというように、武士の弓手に着して弦から肘を守る防具=鞆(とも)からくるとされます。鞆の形が巴に似ているからです。さらに我が国の古代の宝器である勾玉が巴形であることから、神霊のシンボルとして神社などが巴紋を用いるようになりました。
三つ巴を神紋とする神社としては、 石清水八幡宮・ 大神神社・ 二荒山神社・ 鹿島神宮・ 香取神宮・ 宇佐神宮などがあります。
輪鋒
(りんぽう)というのは、輪宝とも書き、転輪聖王(てんりんじょうおう)の感得する七宝の一つです。剣をあつめ、柄を内に鋒を外へ向けて丸く並べたもので、聖王はこれを武器として敵を調伏し、四隣はみなこの威力に従いました。のちに転じて仏具となり寺院に用いられる文様となりました。
これが邪気を払う武器として神社にも用いられるようになり、静岡県の神部神社の神紋が知られています。
万字
は「卍」のことで、これも寺院のシンボルであり、栃木県那須の温泉神社などに用いられます。
伊勢神宮には古来神紋がありませんでした。それが明治になって皇室の紋章である
十六菊
を神紋としました。尾張の 熱田神宮の神紋は
桐竹
で、古来神衣に用いた図柄から来たとされます。
上下賀茂神社は、葵の葉を飾って葵祭を行った由緒から
葵
を神紋としました。三河の賀茂郡から発祥した松平氏は葵を家紋とし、後裔にあたる徳川家康は三つ葉葵を家紋としたのは、賀茂神社との因縁によるものです。そして、久能山・日光その他の東照宮は、いずれも三つ葉葵が神紋です。
尾張の織田氏は
木瓜
を家紋としていましたが、これは越前の織田剣神社の神職の後裔ともいい、同神社は木瓜紋です。また木瓜紋は祇園社に用いられ、京都の 八坂神社、尾張の 津島神社、筑前の櫛田神社などが用いています。
狐を神使とする稲荷神社は、 伏見稲荷をはじめとして
稲
を神紋としています。
藤原氏と縁故の深い神社は、いずれも
藤丸
を神紋としています。奈良の 春日神社・談山神社、京都の大原野神社・ 吉田神社、河内の 枚岡神社などがそれです。
菅原道真を祀る各地の天神社は、京都の北野神社をはじめ菅原氏の定紋である
梅鉢
を神紋としています。これは、道真が梅を愛したことに因んだものであることはいうまでもありません。
その他、有名な神社の神紋としては、信州の 諏訪神社の
梶の葉
、 出雲大社の
亀甲
、肥後の 阿蘇神社の
鷹の羽
などがあります。 『蒙古襲来絵巻』を見ると、阿蘇大宮司の旗に鷹の羽の神紋が描かれています。
変わったものとしては、紀州の 熊野神社の
三本足の烏
。これは、古代の中国で三本足の烏は太陽に住むという信仰からきたもので、烏は熊野神社の神使であることから神紋となったものです。
長くなってしまいました。
明日は不二一族の神紋「
剣片喰揚羽蝶
」(けんかたばみあげはちょう)について、このつづきをお話しさせていただきます。
皆さまの家紋はいかがでしょう。
家紋についても、すごく興味があります。
教えていただける方がいらっしゃいましたら、是非ともお知らせください!
明日は●大将たちの季節●です。
相生村の四天王たちが見参します。
タイムスリップして、みんなで遊ぼ!
◆お読みいただけたら
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最終更新日 2005年12月04日 06時36分29秒
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