慈夢の御気楽ハウス

慈夢の御気楽ハウス

座敷童子




『座敷童子(ざしき わらし)』

 ~ある夏の日、母のふるさと・青森へと一人旅・・・・・・~

その日の日程は、「恐れ山」に寄りながら下北半島を一周するという
コース設定だった。
 峠を越えると目の前が開け、ひっそりと水をたたえて静まりかえっている
宇曽利湖が目前に広がっていた。
 通常、日本の景色のパターンとして、こんな設定だとほっと一息着いて、
深呼吸でもしたくなるところだが、ここは違っていた。

 「恐れ山」だから..という意識以前に、もう舞台装置が整っているのだから。
 静かで青く澄んだ美しい湖に接しているのは、荒涼としたむきだしの岩肌と、
 そこにしがみつくように点在している墓石群。
 そして、かすかに鼻をつく硫黄の匂い。

 今、恐れ山は、死霊を呼ぶ「いたこ」の行事も終わり、いわゆるシーズンオフ。
 訪れる人もまばらで、土産店の周辺に数人見えるだけ。
 駐車場も数台の乗用車のみ。坂道を下って、その駐車場に車を止める。

 何か場違いな雰囲気を感じ、見ると、まだ建立したばかりと思えるあざやかな
朱塗りの大きな神殿があった。

 参道をはずれると、瓦礫の道、岩場に入り、コース表示に沿って墓地を
散策してみる。
 萎びた供え物が風で散らばって、荒涼さを強調している。
 水子の霊を葬っているのか、人形やおもちゃの供えをした墓が多い。
 赤いプラスチックの風車がカラカラとかすかな音を立てて廻っている。

 突然、墓石の間からカラスが舞い上がり少し先に下りて何かをついばんでいる。
 びっくりすると共に、不気味さがひしひしと感じられる。芝居の書き割りのような、
黒沢監督の映画のオープンセットのような・・・、
 でもこれは現実だから、なぜか薄気味悪さが背筋を走る。

 硫黄で風化し、黒ずんだ五円玉を何気なく拾ってしまった。
 一周して、神殿前の土産物店でお守り札を買い求め、その中に五円玉を挟み込む。
 何故か、拾った魂を封印した気分

 駐車場に戻り、次の場所へ向かう....。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 下北半島を、一周して帰途につく・・・・・・・・・・・・・・・・。

 母の実家の、客間
 明日の行程をドライブマップで確認し、しおり代わりにお守り札を挟んで、
一人、眠りにつく・・・都会と違い、夜のとばりが降りると、静寂そのもの。
 蛍光灯の、小さな常夜灯が切れていて、漆黒の闇・・・・・
でもこの方がよく眠れるので、気にもせず。。

 ……寝苦しくて目が醒めた。
 どこかで、若い女性たちが笑いさざめく声がする。
 近所の家だろうか、こんな夜中に・・・・・・。

 階段を誰かが降りてくる。
 一段一段足元を確かめるような、足音・・・・幼児のように。
 この家にはこんな小さな子はいないはずと思った途端、
金縛りあったように身動き出来なくなった。

 ・・・・・座敷わらしだ・・・!?

 身動きできないまま、耳に全神経を集中する。
 玄関の板の間で、玩具をいじるカラカラという音が闇に響く・・・・・・・・・・    
 コトコトと歩く音がして、部屋の前で止まった。
 廊下に立ち止まって、中の様子をうかがっている息づかいが聞こえるような・・・
 昔の家だから、障子である。  ガラッと開けられたら・・・・・・・・・・・・

 心臓の鼓動が、一段と早くなって・・・・・・。

 女の子の声が、すすり泣きのようにも聞こえ、
 何故か、床下から聞こえてくる気配・・・・・・・・

 恐山で拾った、黒く錆びた五円玉が頭をよぎる。
 今、枕元のドライブマップにはさんだお守りの中に入っている・・・・・

 再び足音がして、遠ざかっていった、 
 しばらくして、風呂場の方で、ピチャピチャと水を飲むような音が、聞こえて、
 また、足音が、戻ってきた・・・・・・でも、止まらずに部屋の外を過ぎていった。

 ほっとするとともに、昼のドライブの疲れで、恐怖のまま眠りに入ってしまった・・。

 翌朝、鶏の鳴き声で目が覚めた。
 障子越しに朝の光が、部屋の中を明るくしている。
 すっきりした目覚め。
 都会の夜明けとの違い、小鳥のさえずりで、朝のささやかな気配が感じられる・・・。

 ふと我に返り、耳を澄ますと、女の子の声がまた聞こえる・・・・・・・・・。

 何なんだ・・!
 あっ! そうかぁ。
 昔、小さいとき来た時のことを思い出した。
 あの時は、昔の農家の造りで、玄関を入ると広い土間だった。
 土間の奥には馬がいたっけなぁ。
 そして、土間の隅を、山から引いた清水の用水路が通っていたっけ。
 生活用水として使っていたし、冷たい水を手ですくって飲んだこと思い出した。

 あの、水路・・・今は暗渠になって床下を通ってるんだよ。
 その、水の通過するときに立ててる音が、
 さざめきや、すすり泣きに聞こえたんだ・・・・・
    やぁ、これで一件落着か・・!

 おっと! 座敷童子の件は・・・・・・・・・、
 それは、朝御飯時に判明。

 大きな、黒い飼い猫が、階段をコンコンと、音を立てて下りてきた。
 玄関の板の間に行き、餌皿をなめ回している。
 皿から、転げ落ちたキャットフードが、コロコロ、皿がゴロゴロ・・・。

                            完


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: