株式会社SEES.ii

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2018.07.06
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ss一覧 短編01 短編02    ​ 短編03
        《D》については短編の02と03を参照。番外としては​ こちらから。

―――――

 6月2日。午前10時――。
 フィアットのスピーカーから、『愛のダ・カーポ』が流れている。

ケースを載せ、サイドミラーに映る後続車や、窓の外の名古屋の市街地や、その中を歩く
人々の群れを見つめている。そして、左ハンドルの運転席――僕の隣には岩渕が真剣な
顔つきで、器用に片手でハンドルを握っている。

 ついさっき、岩渕が高瀬社長のオフィスにアポイントを取り、「……11時に会って
くれるそうだ。……個人的な商談、ということも伝えたぞ」と言った。僕は満面の笑み
で拍手をし、「いや~、素晴らしいです。さすがは岩渕さん」とわざとらしく喜んだ、
だけだ。せっかくだし……最低限の仕事はしてもらわないと。

「……見せ金は持ってんのか?」
 岩渕が少しだけキツイ口調で聞いた。だから僕は微笑んで言う。「見せ金? そんな
失礼なマネしませんよ。……名古屋銀行に寄ってください。外貨預金をおろします」
 少しだけ考えてから、言う。「……5000万ほど」


 フィアットに装備されたAlpineのスピーカーから、『炎のたからもの』が流れている
のが聞こえる。
 ……カリオストロの城、か。岩渕さん……本当にルパン三世、好きですねえ……。
 目を閉じる。クラリス姫を救い助けようと、カリオストロ伯爵に戦いを挑むルパンの
心情を想い――思う。


 ……そしてまた、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……遠い
遠い昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと思っていた
のに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。



「……父さん、何しているの?」
 そう。自宅に戻った僕に一瞥もすることなく、一心不乱に、父は母の名を叫び散らし、
家の壁やドアや家具を破壊し尽くしていた。何が原因かはすぐに察しがついた。
 ――畜生っ! 畜生っ! アイツの……アイツの《カーバンクル》が……アイツの、
形見が……クソッ! クソがっ!
 怒鳴るように叫びながら、父は両手の拳を握り締めた。
 そう。
 盗まれたのだ。何者かが家に侵入し、亡くなった母の形見の《カーバンクルの箱》を
盗み出し……それに気がついた父は、狂ったかのように家で暴れた。今――思えばあの
頃から……だったのかな?
 父親の人間性が壊れてしまったのは。

 ――殺してやるっ! 殺してやるぞっ!
 大声で叫びながら、父は狭いマンションの中で暴れまくった。台所の鍋やフライパン
を叩き落とし、テレビをテレビ台ごとひっくり返し、テーブルやイスを窓ガラスに向け
て放り投げ、ドアを拳で力いっぱいに殴り続け、冷蔵庫や洗濯機や掃除機を引き倒し、
力任せに襖を蹴り倒し、抜けるほど強く床の板を踏み鳴らした。

 目茶苦茶になったそんな家の中で、鬼のような形相に変わった父に対し――なおも暴れ
続ける父に対し――……僕は聞いた。聞いてみずにはいられなかった。
「《カーバンクルの箱》の中には、何が入っているの?」

 声を上げた僕と目が合った瞬間、父は叫んだり暴れるのをやめた。息を喘がせ、体を
震わせ、呟くように父は教えてくれた。顔を歪めるようにして笑いながら……。

―――――

 ――午前11時。
 川澄と一緒に待機していた――名古屋市中区にあるホテルグループ《R》本社ビルの
応接室に入ってきたのは、シックな夏物のスーツを着た中年女性と、スカートスーツ姿
の髪の長い若い女性だ。ふたりとも面識はあった。テレビ番組の打ち合わせの際、名刺
交換程度の挨拶は済ませている。中年女性は高瀬順子社長。若い女性は社長の娘で……
名前は高瀬瑠美……《R》での役職は不明だが……。

「お忙しいところをすみません。本日は突然の訪問を許していただき……」
 まだ幼さを残した瑠美の顔と、気の強そうな笑みを浮かべる社長の顔を交互に見つめ、
穏やかな口調で岩渕は言う。
「先日は大変お世話になりました、岩渕さん。今日は……例の……《赤い宝石箱》を、
その……譲渡してもらいたい……というお話で……」
 社長に向けて喋ったつもりなのに、幼く可愛らしい顔をした娘が答えた。おそらく歳
は京子と同じくらいなのかもしれない。錦や栄の街を歩けば、何人ものスカウトに声を
かけられることだろう。

「はい。こちら――私の同僚の川澄がですね。そちらの《箱》をいたく気に入り……」
 岩渕は説明しながら、隣に座る川澄の様子を探る。『同僚』は岩渕のアドリブだ。まぁ
この際だ、多少の嘘もやむを得ない。
「……川澄、と申します。はじめまし……て」
 抑揚がない口調で川澄が話し出す。……違和感がある。何かを心の中で懸命に抑え込ん
でいるかのような……そんな口調だった。「……あの――どこかで、お会いしたこと、
ありませんでした、か?」
「いいえ。《D》の方々とは、岩渕さん以外、お会いしたことはありません」
 川澄の言葉に瑠美が1度だけ顔を振る。社長のほうは目線をわずかに下げただけだ。
 思い返せば――社長の微笑みは最初だけで、ソファに座ってからはずっと、川澄の挙動を
無表情に見つめている……。

「……いかがでしょうか? 相応の金額を川澄は現金で支払うと申しておりますが……」
 岩渕は社長に聞くが、社長は岩渕の顔を見ようともしない。瑠美は眉間にシワを寄せ、
母でもある社長に、「社長、いかがいたしますか?」と問いた。だが、社長は相変わらず
岩渕の隣の男を見つめるばかりで何も喋らない。
「あの……すみません……社長……?」
 社長の肩に手を当てて、困惑げに瑠美が言う。彼女が体を動かした瞬間、ストレートの
髪の隙間から甘い香りが漂って来る。

「……ご希望の金額があれば、可能な限り融通できると、川澄も申しております。その他
にも、《D》名駅前店ご来店の際には、VIP待遇での査定をお約束いたしますが……」
 これも、社長は無言のままで、代わりに瑠美が答える。
「……すみません、今日は何だか、社長の具合が悪いみたいで……お客様が来ているのに
……こんな……こういう態度で……すみません……」
「いーえー……。とんでもなーい……社長は何か、体調でも悪く?」
 川澄が口を開いて瑠美に言う。だがもちろん、社長は何も答えない。今度は瑠美も答え
ない。ただ、困ったかのように岩渕と川澄と社長を順に見つめるだけだ。

 つまりは……こいつら、知り合いかよ。
 猛烈にイヤな予感は、これか。聞いてねえぞ……クソッ。

 岩渕も困ったかのような顔をして、少しだけ笑ったフリをみせる。
「……どうでしょう。当事者の方々だけで少しお話をされては? ……えー、瑠美さん。
私たちは少し外に出ましょうか? 少ししたら戻りますので……」
 ……露払いなんて俺のガラじゃあないんだが、しかたない。ここでの俺の出番はもう
なさそうだ……。
 ああ……俺の休日が……タダ働きにならなきゃいいが……。

―――――

 そうそう――……。
 記憶の断片で、父が、僕に教えてくれたことは――……。

「――《カーバンクルの箱》の中身は、お前自身だ」

 あの時の父の言葉の意味は、今もまったくわからない。ただひとつ、ただひとつ今、
思うことがあるとすれば……そうだな。
 僕は僕自身を取り戻すため――コイツに、コイツらに奪われた僕を奪い返すため――
僕は来た。これは運命だ。これは宿命なのだ。
《カーバンクル》が昔も、今も、奪われずにずっと手元に置いてあれば、父や、僕や、
もしかしたら世界中の人々の未来は変わっていたのかもしれないのだ……。

 もう1度、考える。
『僕は僕自身を取り戻す』
 いいね。いい響きだ。何が何でも成し遂げたくなる。いや……少し、違うな。
 悔しいのだ。憎らしいのだ。僕が知らない僕自身が、自由を奪われて閉じ込められて
いる。その事実は、その事実だけは、絶対にあってはならない。絶対だっ!
 自由と欲望は、僕にとってすべてなのだ。

―――――

 岩渕と瑠美が応接室から出て行くと、それまで無表情であった高瀬順子社長の顔に感情が
宿った。それは怒りと、憎しみと、蔑みが混ざり合ったような、下卑た中年女の顔だった。

「……生きてやがったのか……ゴロツキ……顔と名前を変えても、雰囲気はあの外道と同じ
だね……通報してやろうか?」
「……上等だよ」
 川澄奈央人の顔に――
 もう自分の本当の顔と名前も忘れてしまった男の顔に――
 もう誰からも、自分の本当の顔と名前を教えてもらえない男の顔に――
 無邪気に遊ぶ子供のような笑みが浮かぶ……。

―――――

 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 dに続きます。



















  本日のオススメ!!!  ナナヲアカリさん。

 seesのブログでは何度も紹介させていただいておりますが……先日、動画で衝撃の…
「YouTuber、はじめてみました」発言……。誠に勝手ながら……心配しかありません。
 何かとんでもないことやらかさないか……できればヤメて欲しい……。



 えー……似た人なら、川本真琴サン? 本当、ハマる人なので……どぞ。




 雑記

 お疲れ様です。seesです。
 仕事……仕事……薄給……休みは寝てオワリ……。音声認識でPCに打ち込み、して
みようかな? と本気で考えてますが……やはり誤字が多い。本当――最近は体が動かん
ぜよ。また風呂屋に行こっと。

 某大手小説投稿サイトで既存の品を投稿してみたが……ダメかも。投稿者は世間知らず
の子供たちばかり……小生、ついていけません💦(所詮はフォロワー間同士で☆のやり
とりするだけのままごと)……いろいろ考えさせられるseesですw

 さて、今回のお話は……ノーコメント。特筆すべきコトはないです。お話が大きく動く
のは次回からですね……。短くてゴメンゴ。

 seesに関しての情報はもっぱら​ Twitter ​を利用させてもらってますので、そちらでの
フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、
辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ
でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて💓


 好評?のオマケショート 『飛翔する野口英世サンと、眠る石川遼クン』

 1日目。
 少しだけ左まぶたが熱い。
 2日目。
 何となく……左まぶたが重い。
 3日目。
 鏡を凝視。左まぶたに腫れモノを確認。衝撃、走る。放置。
 4日目
 次長に軽く叱責され――同僚たちに「普段と変わらんやん」などとからかわれる。
 5日目。
 休日。某、名駅前眼科クリニックへ。初診料2200円。薬代2500円。一週間分。
 ものもらい、確定。凹む
 ちなみにブログ更新と映画鑑賞の予定だった。全放棄。何をとち狂ったのか、6980円
のサングラス購入。セール品の石川遼くんモデルの国産メガネ。似合わないクール
 6日目。
 社内での強制業務。朝から恥ずかしい思いをする。ニヤニヤされながら「エンガチョ」
と罵られる。後輩女性(ブリ子)から「えぇ~手術(整形)でまぶた切り取っちゃえば
イイのに~🎵」と笑えない天然ジョークを食らう。
 7日目。
 ここにきてようやく、改善の兆し
 しかし……しかし、まぁ……薬はまだまだ残っている……。
 さようなら、幾多の星空へ散った野口サンたち。
 さようなら、クローゼットの奥で眠る遼クン。

 ……最低な1週間だったな……最悪や。風邪のほうがまだ良かった……。


                                了



こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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Last updated  2018.07.06 04:43:34
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