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短編01
短編02
―――――
高級ブランド・貴金属のリサイクルショップである《D》北名古屋市西春店の支店長で
ある鮫島恭平にとって、それは普段の、ありきたりな、少し面倒くさいだけの、ただそれ
だけの客だった。
「……査定は以上でございます」
鮫島が微笑みかけ、仕切られたカウンターの向こう側の女はうつろな目つきでこちらを
見る。「何かご質問などはございますか?」
女に笑いかける。だが、女がこちらに笑い返してこないことはわかっている。
「……もう少しだけ……もう少しだけ……何とか、ならない?」
女は顔を歪めて嘆願する。「ねぇ……あと、少し……少しだけでいいの……」
もちろん、女の言葉が意味するのは、査定額のアップだとはわかっている。だがそれは、
空気を求め、酸素を求めて苦しみ悶える魚のような、そんな顔にも見える。
女がこの店を初めて訪れてもう5回目。今回、女はロクなモノを持って来ていない。
今ではその査定結果は、子供の小遣い程度の価値しかない。カネに対する強烈な渇望に、
女の精神は耐えることができていないのだろう。
1ヶ月ほど前、ロレックスやウブロの時計を換金した時と同じように、女は首にかかる
サラサラとした茶色の髪と、生意気そうに整った顔つきをしている。だが、この1ヶ月間で
女の風貌はすっかり変わってしまった。
吊り上がった大きな目は落ち窪み、脂肪を失った頬や顎は頭蓋骨の形がはっきりと見て
取れる。あれほど完璧に施されていた化粧も、今では不健康さを際立たせるだけのように
見える。安物のルージュで色を塗っただけの唇も、安物のファンデーションを厚く塗った
だけの頬も、例えようのない違和感だけが残っただけだ。今はただ、伸ばした手の爪に
ピンクのマニキュアが、相変わらず艶やかに光っているだけに過ぎない。
「ねえ……お願いよ……1万円でいいの……お願い……お金が必要なの……」
女の声は媚びるかのような、悲鳴に近いものだった。
「ふざけんなよ貧乏人」
目を閉じ、指で額をポリポリと引っ掻きながら鮫島は言う。
「……カネがねえなら働けや。働きたくねーのなら、盗んで来い。んで、今度はもう少し
マトモなモノ持って来いっ」
叩き出すつもりの罵声を浴びせながら、鮫島は1ヶ月前の女との会話を思い出す。
あの日の夜――女はひとりでやって来た。『高額買取キャンペーン』のチラシを見て来た
のだろう。ハンドバックのポケットに西春店のチラシが入っているのが見えた。
女はチラシを確認しながら、手持ちのハンドバックからいくつもの腕時計を取り出した。
「よろしくね」
「はい……ロレックスのオイスター……ウブロのビックバン……カルティエのスケルトン
……ブルガリのセルペンティ……すごいですね……」
「そう? 高く買ってくれるなら、また来てもいいわよ」
「ありがとうございます」
鮫島はそれ以上何も言わず、新品同然の高級腕時計をただじっと見つめ続けた。
それから15分後、カウンターの上の盆の上に、現金155万円が載せられた。
本当は170万までの融通が可能ではあったが……まぁこれぐらいだろう。当然だが、
差額分の売値は鮫島自身がピンハネするつもりなのだから。適正価格と査定金額の差を
埋めるのは、この女自身の交渉能力――そう。この女の責任なのだ。
案の定、女は155万を笑顔で受け取り、鮫島は日計売上の報告書を書き換えた。
そんなことを思い出しながら、鮫島は女を見つめた。
痩せた肉体に青いカットソーだけの地味な服の女は、カウンターの椅子にうなだれて、
目から涙を溢れさせてこちらを見つめ返している。女の目の前のカウンターの盆の上には
現金にして7800円が載せられている。
「ねぇ……そんなに厳しいこと言わないで……このままじゃ捨てられる……お願いよ……
何でも言うとおりにする……また来るから……だから、お願い、あと1万円だけ……」
かつて生意気だった女の口調は、今ではこんなにも大人しくなり、ふてぶてしかった態度
はこんなにもしおらしくなった。
「……栄や錦で風俗でもしたらどうだ? 何で働かない?」
時間のムダと知りつつ話を聞く。ここまで面倒な客は久しぶりだった。
「……人と関わり合うことは禁止事項なの……このままじゃ、教会から追い出されて……」
「教会? アンタ、何かの宗教団体にでも入ってンのか?」
女が小さく頷くのを確認しながら鮫島は言う。「……信者からカネをむしるだけの神様
なんざアテにすんな。これで目が覚めたろ? 大人しく働いて、地味に生活しろや……」
「先生をバカにするなっ! あたしの人生を、あたしが信じた人のために使って何が悪い
の? 教会は……先生は……あたしに光をくれたんだっ、あたしを導いてくれたんだっ!」
「……はあ? まぁ、確かにな……もちろん、アンタの自由だ」
舌打ちをし、睨む女を睨み返す。「アンタがどこで、何をして、誰に貢ごうと、俺には
関係ないからな……」
「ねえ、1万だけでいいの。少しだけでいいの……お願い……あたし、もうすぐ死ぬかも
しれないの……だから……お願い、お願い……お願いっ!」
「……死ぬ?」
鮫島は訝しげに首を捻った。……別に、どうでもいいことだがな。
「……あたし、B型肝炎なの……だから……お願い……」
嘘か本当かもわからない言葉を悲鳴のように叫ぶ女に向けて、鮫島は長い息を吐き――
そして……財布から1万円の札を2枚取り出し、カウンターの上に放り捨てた。
―――――
女を《D》西春店から叩き出したあと、鮫島は店舗の裏口から外へ出て、夜空を眺め
ながら煙草を吸っていた。
「『大好き』、か……」
数日前のとあることが脳裏にチラつき、考えずには、思い出さずにはいられなかった。
あの、名古屋市立大学病院での出会い――ひとりの美しい女性との出会いを。
あの、ある病気で入院している息子への――優しい言葉を。
そして、ひとりの男と――そいつと俺の働く《D》に向けられた――純粋な愛と好意を。
『……彼は私にとって特別な人なんです。それと《D》という会社も、私は大好きですよ』
鮫島は思った。
……もしも、さっきのバカ女が心酔するような、《神》に近い者がいるとしたら?
……もしも、他人に光を与えたり、他人を導いたりできる者がいるとしたら?
……わからない。けれど、もしも……もしも……本当にいるとしたら?
「……バカバカしい、な」
鮫島は吐き捨てるかのように呟きながら、吸い終えた煙草を灰皿にこすり捨て――そして
少しだけ、ほんの少しだけ……月の輝く夜空に向けて微笑んだ。
―――――
……役に立たねぇ女だ。
女の所属する新興宗教の神父である若い男は思った。普段なら、目の前で土下座する女を
殴りながら犯し、必要なら売春もさせる……そのつもりだった。
「……すみません……すみません……先生、お金がこれしか用意できなくて……」
しかし、女はB型肝炎だ。売春や風俗はもちろん、まともな職場も用意できるかわからない。
「……すみません……すみません……先生……」
「……困りましたねぇ。お金がなければ宿舎に住まわせることはできませんし……」
神父はそう言って、優しく微笑む。「僕も、みんなも、せっかく出家されたあなたを追放
したくはないのですが……」
「ああ、それは許してくださいっ! 先生がいなければ……この家がなければ、あたしは
生きていけませんっ! ……だから、お願いですっ!」
「余計な言葉を言う必要はありません。問題はどうやってカネを用意するかです」
「……はい」
追放という言葉が相当にこたえたのだろう。女は消え入るような声で素直に答えた。
神父は満足して言葉を続ける。
「では、こうしましょう。名古屋近郊の宗教団体の幹部に近づいてください。そこで幹部と
性交渉をして、あなたの肝炎ウィルスをバラまいてください」
女の首が微かに上下し、唇が震えるように動く。だが、いつまで待っても女は答えない。
「どうしたんです? あなたの信仰心はその程度のものですか? あなた以外の信者の方は
今も必死に働いておられます。インターフェロンの注射代くらい、自分で稼ごうとは思わ
ないのですか?」
「そんなっ……待って……待ってください……お金なら、《D》に頼んで……今度は実家
から何かを持って来て、また売ります……から……ですから……」
女が涙を流しながら首を左右に振る。
「《D》ですか……。今回あなたが処分した私物ですが――アレで、いくらでしたっけ?」
「はい……2万7800円……です」
「ほうっ!」
意外な数字に驚いた声を出す。「驚きましたね。あなたの私物でまだそれほどのモノが
残っていたとは。僕も見る目がない」
神父は自嘲気味に笑い、傍らに置いたワインを飲んだ。
「……お金が必要だと言って、高額に査定してもらいました……」
呟くように女が言う。
「へぇ……」
瞬間――神父の脳裏に邪悪な計画が浮かび上がった。瞬時に計算し、計画を練る。けれど、
それを誰かに話したり、伝えたりする気は皆無だった。ただ――とりあえず、この女の処分は
決定した。
「……我らが教えを連想させる会話は厳禁と言ったでしょう? ……今月は特別に許して
あげますが、罰は受けてもらいますよ?」
神父はそう言って、また優しく微笑む。「さて、服を脱いでください」
女は涙の溢れる目に凄まじい恐怖を浮かべ、途切れ途切れの言葉を発する。
「……お許しを……どうか……どうか……先生……」
「ダメです」
そこまで言ったところで――神父は女の髪をぐっと鷲掴みにし、別室へと連れて行く。
「いやっ! いやあああああああーっ!」
恐怖と怯え、羞恥と屈辱、若い女の目には、それらがないまぜになって混在している。
まるで何かに憑かれたように叫ぶ女を見て、神父は笑った。ただ――笑い続けた。
ひとつだけ、はっきりさせておこう。
――僕は外道だ。人に光を与えることもしないし、人を導くこともしない。
ただ、どこかの聖者のマネをするのが好きなだけだ。
目的ですか?
――カネのためです。それ以外の理由なんて、それ以上に大切なモノって、ありますか?
そう。
自分の行為を正当化する理由はひとつもない。そんなものは、欲しくもない……。
そうだ。
僕は新興宗教《A》の神父であり――
――卑劣な詐欺師。それだけだ……。ただ、それだけのことなのだ……。
―――――
『転成するD!』 中に続きます。
今日のオススメ。新曲? → シュガーソングとビターステップ /UNISON SQUARE GARDEN
結構有名らしいスね♪ → 天国と地獄 /UNISON SQUARE GARDEN
こりゃ女性にモテるわ! → オリオンをなぞる LIVE /UNISON SQUARE GARDEN
UNISON SQUARE GARDENさん↑ 職場のバンギャルにオススメを聞いたところ、
『絶対にイイ』そうです。seesの趣味ではないけれど……エエ感じのバンドですね。
それなりに時間使って試聴しましたが、うむむ……ベース担当の方が上手ですね。
リズムとテンポの調整、演奏におけるパフォーマンスが他のふたりと比べてもレベル
が少し違います(別に辛口きどっているワケじゃないす、ただの感想す)。歌詞はセカ
オワ風でややファンタジー……ちょっと軽いかな。そんな感じス。よろしければ、どぞ。
お疲れサマです。seesです♪
最初に伝えておきますが、今作は、いつにもまして、遊びです。次回の短編へ向けての
助走、煽りの3話目的のショートですww予定ですがww
盆が終わり、夏が終わり、休みも取れやすくなったので更新頻度とフォロワー様方への
訪問もしやすくなるかと思います。今後とも、よしなに……。
さて、今話は設定使いまわしです(笑)。しかも《D》の人物の登場は未定です。そして
……タイトル考えるの、ツライ💦 補足すると、『転生』と『転成』は意味が少し違います
からね~……コレ誤字じゃないスからねwww はぁ……駄文、失礼しました……。
でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
seesより、愛を込めて🎵
↓UNISON SQUARE GARDENさんのアルバムす。よろしければ試聴だけでも、どぞ~。
こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。
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好評?のオマケショート 『教えたいコト💓』
sees 「お邪魔しま~す(^^♪」
友&友妻 「seesく~ん、久しぶり~」
sees 「いや~、最近忙しくってさ~……もう死ぬかと……凹((+_+))」
友妻 「あっそうだ~っ、ブログ見たよ~(^_-)-☆ めっちゃオモロイね(棒)」
sees 「いやいや~褒められちった。(*''▽'')テヘヘ」
――そう。
そんな和やかで、平和で、オマケに作る価値もない、そんな風景が2時間
ほど過ぎた時――……。
友息子 「ねーねー……seesたん、トランプちよ~」
友娘 「ねー……」
sees 「もっちろんっ!!(めんこいの~)」
友&友妻 「じゃあ、ウチら晩御飯作ってるね~……sees君、よろしく~( ^ω^ )」
sees 「(ブ)ラジャー!! さて、何をするか……何を教えてあげようか……」
友息子 「何する~?? ババ抜き~??」
友娘 「……る~??」
ふと――seesは思った。
この、無垢で愛らしい子供たちのために、何を教えてあげられるのか……。
seesは考えた。考えて、考えて……決断した……。
よし。彼らの将来、きっと役に立つコト、これは……ワシに与えられた使命
なのだ……。
…………
…………
…………
友 「どれどれ~3人とも~、何をしているのかな~?」
友妻 「sees君ゴメンね~。ふたりがワガママ言っちゃって……」
友息子 「やたー、次ボクがバンカーね」
友娘 「じゃアタチがプレイヤーねー」
sees 「よし、ワシが客(勝敗を予想する)で、次は100万ベッドしようかな(笑)ムフフノフ」
友&友妻 「………な、なにを……して、いるの?? ( ・´ー・`)マサカ……」
sees 「ん? じゃーふたりとも、せーので言うよ~(^_-)-☆ さん、ハイッ!」
息子&娘 「バカラーッ!!」
瞬間――
友と友の妻の髪が黄金に輝き、体全体が光のオーラに包まれた!!
seesは頭上から来る強烈な殺気に、背と顔が猛烈に震えた。
友&友妻 「バカ野郎っ!!💢 何教えてやがるんだよぉぉっ!!💢 seesぅぅぅっ!!💢
ブチ殺すぞっ!! ( ゚Д゚)オラー💢」
sees 「ひっ……ひぃぃぃぃっ……」
……ダ、ダメなの? ブラックジャックの方が良かったの? 誰か……誰か……
ワシに……答えを……教えて……だ……れ、か……助けてよぉ😢」
♦♥了♠♣
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