ss一覧
短編01
短編02
短編03
短編04
短編05
《D》については短編の02と03を参照。番外としては こちらから
登場人物一覧は こちらから
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注意!! こちらは最終話『後編』となります。前編・中編は 短編05
こちらからどうぞ。
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10月10日――午後17時。
「……随分と、落ち着いてるんですね? 意外でした」
横目に私の顔を見つめながら川澄奈央人が言い、宮間有希が「確かにね……ビービー
泣いて取り乱すのかと思ったわ」と不思議そうに言った。
伏見宮京子は『そんなことはありませんっ!』と怒鳴ろうとした。だが、口をパクパク
させただけで言葉にすることができなかった。
……本心であるはずなのに。本当に心の底から、ふたりの戦いを止めたいと願っている
はずなのに……どうしてだろう?
たぶん……澤社長から岩渕さんに対する殺意、のようなものを感じないからだ。
だから……かな? 《D》の面々も、似たような心境なのかもしれない……。
ふたりを止めてはいけない、そんな不文律が、そんな暗黙の了解じみた空気が、その場
を支配していることに、京子は気がついた。
そう――。
その場にいる《D》と《F》の人々は、ふたりの男が決着を迎えようとするその瞬間を、
ただ、ただ黙って見つめていた。
「……なぜ、人は争うのか……なぜ、人は自分だけが正しいと信じるのか……」
伏見宮京子は誰にともなく呟き、目を細めて辺りを見まわす。それから……彼らの交わ
す言葉に耳を澄ました。
「……ガキ、最終警告だ。拳を下ろして目を閉じろ……それで、お前への処分はナシにし
てやってもエエわ……」
「……俺は、アンタのガキ……じゃない……言ったろ? ……アンタは、間違っている」
澤は沈黙した。
ただ――激しい呼吸を繰り返し、血と汗とホコリまみれの顔を苦痛に歪める岩渕の顔を
……ただ――黙って見つめていた……。
澤光太郎……やはり、一筋縄ではいかないな。
ふと、京子は、愛する男の頬に触れる感触を思い出した。頼りなげで、儚げで、それで
いてとても優しく……とても愛しい。どうしようもなく――……そう、どうしようもなく
愛おしい男の肌の感触を――。
殴り合うふたりの男の顔を見つめ、指に嵌めた《カーバンクルの指輪》をいとおしむよ
うに撫でながら、京子はそっと唇をなめた。
その時だった。
その時、京子の心の中に、突然、例えようのない黒い霧がふつふつと昇り上がって来た。
ああ。
与えたい――。
岩渕に対する無償の愛。富と名声も、もちろん私自身も含めて――彼になら私のすべて
を捧げても良いと思えた。……たとえ、その裏でいつ、どこで、誰が不幸になろうと構わ
ないとさえ思える。
そう。
私だけを愛してくれるのなら……後のことなどもう、後の世界のことなど……一切合切、
私の知ったことではないのだから……。
そして――京子は、ついに心を決めた。
欲しい。
ああ……欲しい。
すべてだ。こいつらのすべてが、欲しい……。
そう……《D》を私のものにする。
もう一度、京子は唇を舐めた。今、ルージュもグロスも塗っていないこの唇で、岩渕の
傷口を舐めたらどんな味がするのだろう? "伏見宮京子"がそんな破廉恥な考えを抱いて
いるなど、誰も想像すらしていないのだろう。そう思うと、そう思うだけで――……私は、
心の中でクスクスと笑っていた。
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既に、岩渕の肉体は限界を迎えようとしていた。殴られ蹴られ倒されて内出血を起こし
かけていた肺が酸素を求めて悶え、震えるように、折れた肋骨が暴れ狂った内臓は回復を
求めて激痛を走らせていた。『立て』という命令を1秒ごとに送り続けなければ、脚や腕
はその動きを止めてしまいそうだった。
「……もう限界なンやろ? 岩渕、無理すンなや」
自分の激しい息遣いの向こうに、岩渕は澤の声を聞いた。
「"聖女"も宇津木も《F》も、お前にとっては他人やろ? いったい、なぜだ? 理由が
わからンな。俺様の行動が間違いだと言いたい気持ちも……今はなンとなくわかるが……
それでも、納得はしてやれねえな……正義感か? それとも、そこの"姫"にイイ顔でもし
たいだけか?」
だが岩渕は、無言で立ち続け、なおも拳を握り続けた。まるで自分ではなく、自分の中
に住む、とてつもなく強い何かの意思が、岩渕の肉体を支配し、それに"動かされている"
かのようだった。
岩渕は、いや、岩渕と彼の意志を支えている"何か"は――自分が本当に"助けなくては
ならない人物"のことを思い出していた。
そいつは強かった。そして、その強さに、岩渕は憧れた。
そいつは岩渕を便利な道具に仕立てるため、厳しく辛い教育を施そうとした。そいつに
はそいつの目的があったからだ。
どんなに辛い仕事でも持ちこたえられるように、どんなに厳しい現実でも決して絶望し
ないように……そいつ自身も深い悲しみと過去を背負っているのにも関わらず、そいつは
数多くの若者を厳しく育てた。
そいつは、たとえ、自分が憎まれていたとしても気にはしなかった。自分が他人になん
と思われようが構わなかった。結果――多くの若者が精神的な成長を遂げ、社会という闇
や光に順応できるようになっていた……。
そう。
岩渕が立ち、走り、歩き、考え、知り、生きているのは、澤光太郎のおかげだった。
「……俺は、アンタを救いたいだけなんだ……澤さん……」
澤は何も言わなかった。岩渕はもはや口のきける状態ではなかった。ただ、岩渕の脚を
奮い立たせ、彼の願望を叶えさせたいと祈る"何か"は――ボロボロに果てた岩渕の体を、
半ば強引に維持させていた。――そのことは、岩渕自身、知る由もなかった。
「……見てられねえんだよ。アンタが……そうやって暴れ狂っている姿なんざ……《D》
の誰も、見たくはねえんだ……」
―――――
永遠にも思われた戦いの果てで、男が「……目を覚まして……くれ」と呟き、静かに、
膝を崩して倒れる光景を――澤光太郎は見た。
「……バカ野郎が、目ならとうに覚めてンだよ……好き放題イイやがって、畜生が」
「岩渕さんっ!」
離れた場所から若い女の悲鳴が上がった。……いや、それは悲鳴というより――何か、
新しい玩具を与えられた子供のような、狂喜じみた悲鳴だった。
伏見宮京子……これがコイツの本性ってワケか。澤は心の中でそう思ったが、もちろん、
口に出すことはしなかった。
"聖地"に響く岩渕の激しい息遣いをしばらく聞いてから、澤は岩渕の肩を抱いて芝生に
寝かせた。それから償いのつもりで、内ポケットに入っていたハンカチで岩渕の顔を拭っ
た。激しく喘いでいた男の呼吸が、少しずつ落ち着きを取り戻したのがわかった。
「……《F》の今後については、お前に一任する……もちろん、何もかもすべてってワケ
にはいかねえが……今回のケンカ……引き分けにしてやるわ」
その言葉に岩渕は目を見開き、澤の目を強く見つめた。
「……申し訳、ありません」
未だ荒々しい呼吸の合間に岩渕が言った。「……でも……どうして? ……倒れたのは
俺なのに……どうして……ですか?」
「……簡単なことや……負けていたのは、俺様だったから……やな」
「……?」
岩渕は何も理解していないようだった。澤はただ、説明は難しいなと思い、背後に佇む
少女の姿をした"何か"の顔を、ただ静かに見つめ返すだけだった。
本当は少女の姿をビデオに録画したり、写真にして残しておきたかった。もし聞こえる
のなら、少女の声を録音しておきたかった。だがそんなことには、今は何の意味もなかっ
た。たとえそれをしたとしても、他人には絶対に理解してはもらえないのだから。
――今回の件、お前にとっちゃあ不満かもしれねえが……俺と岩渕に免じて、勘弁して
やってくれねえか?
少女の姿をした"何か"は――最初は怒ったような顔をして……困ったような顔をして…
…次に呆れたような顔をして……最後に――
――『……またね……サワのおじちゃん……』
優しく微笑みながら……少しずつ、少しずつ、空気に溶け込むように、消えていった。
……どこからともなく湧いて出るクソ、《D》をハメようと画策するクズ、プライドば
かりが肥大する社員たち、団結しているようでしていない《D》のバカ共、自覚の薄いワ
ガママ姫、反抗ばかりするクソガキ、自分勝手で暴力的な社長――……。
はぁ……難儀な会社になっちまったなあ……《D》は。
「……俺は、クビですか?」
片腕で両目を覆い、涙ぐみながら岩渕が言うと、澤は笑った。「うるせえぞクソガキが、
お前らは"俺様のガキ"なンだから、いらンこと心配すンな……」
岩渕はそれ以上何も言わなかった。ただ、ふたりで――大声を出しながら駆け寄ってく
る《D》の人々の姿を見つめるだけだった。
―――――
10月20日――。
《宗教法人団体フィラーハ》は同日付での解散を発表した。《宗教法人団体フィラーハ》
こと《F》に所属する人数は100名を超えていたが、そのすべての人間が解散に同意した。
10月以降に発生した《D》と《F》の2組織間における金銭トラブル・暴力事件・児童
誘拐などの事件では、何人もの人々が犯行に関与した。
愛知県豊田市茶臼岳の山腹にある《F》の本拠地では、《F》の信徒と《D》の社員によ
る大規模な乱闘事件が発生し、80名を超える者が重軽傷を負った。
だが、《F》の代表である宇津木聖一と、《D》代表取締役である澤光太郎は、司法への
最低限の報告以外をすべて黙殺する方針を互いに決めた。
宇津木聖一が《D》に求める条件として、
1.《F》及び元構成員への接触を禁ずる。
2.慰謝料・治療費・賠償金など、互いの金銭の要求・受領を禁ずる。
3."見舞い金"としての金銭5000万円の要求。
とのことだった。
澤光太郎が《F》に求める条件として、
1.《D》に関係するすべての人物への接触を禁ずる。
2.《F》の構成員、及び元構成員の愛知県外への移住。
3.特定の人物の身柄の譲渡。
以上が提示された。
茶臼岳の乱闘事件から3日後の13日には、代表者2名による最初で最後の会談が実現
し、合意に至る。ここで、《F》と《D》の示談が成立した。
《F》の人々にとって、《D》の襲撃は到底受け入れ難い行為ではあったものの、その後、
代表である宇津木とその娘であるヒカルによって、治療費の全額負担と、再就職、新たな
住居の手配、経費の負担などが約束された。幸い、後遺症の残るケガを負った者は皆無で
あり、何より、ヒカルの無事が約束されたことに、《F》の人々は喜んだ。
一方で、多額の損害を被った《D》の代表である澤は、損害と経費の賠償に川澄奈央人
の隠し財産を宛てた。澤の「……お前が裏で宇津木とつるンでたのは知ってるンや」とい
う詰問に対して、自分が一部宇津木と結託してシナリオを作っていたことを認めた上で、
「そもそも僕がいなけりゃ、姫様だって何されてたかわかったもんじゃない。嘘でしょ?
勘弁してくださいよ、社長……」と言った。《F》に強奪された1億の半分近くを、《D》
に没収される形にはなったが、本人は涙を見せるようなことはなく、「まぁ、必要経費だ
と思えば安いものか」とうそぶいているという。
―――――
《D》代表取締役社長の男は、目を細めて田中陽次を見つめた。それから「澤だ」と名乗
って右手を突き出した。
田中は男の小さな目を見つめ返し、その右手を握り締めようとした。だが、できなかっ
た。田中は会議室のような場所で、安っぽいパイプのイスに座らされ、両手を背後で縛ら
れていたのだ。空気にホコリが混じり、暗く、冷たい部屋だった。
「……気分はどうや?」
アゴを手でさすりながら澤が言った。澤の後ろには黒いスーツを着た男女が3人いて、
敵意を剥き出しにした目で田中を見つめている。黒いスーツのうちのひとりは恰幅の良い
体形の中年男で、ひとりは腕を組んでいる。もうひとりは口元に白い大きなマスクをして
いた。間違いなかった。ひとりは宮間有希、あの女に間違いなかった。
「田中さん……今日は、アンタに質問したくてここに呼んだンだ」
腕を引っ込めた後で、澤は上着のポケットから、A4の紙束を2冊取り出した。それは、
とある"動物"のイラストと、外国語らしき文字がびっしりと書き綴られていた。
「てめえ……宮間ぁ……どういうつもりだ? ああっ?」
田中陽次は澤の背後に立つ宮間の顔を睨み、息を飲んだ。それから、恐る恐る視線を戻
し、澤の目を見つめた。
「ねえ、マグロとカニ、田中さんはどっちが好き?」
宮間が言い、澤が言う。「お前がコケにした時計3本、"3億"返済の長い旅や。特別に、
選ばせてやるワ。ロシアでカニ捕るか、メキシコでマグロ釣るか……どっちがいい?」
田中はうっすらと涙を浮かべ、強く唇を噛んだ。
「……許して……くれえ……お願い……です……家も車も売ります……貯金も、投資信託
も解約、します……株式も……何もかも売って……必ず……お支払い、しますからぁ……」
呻きながら田中は言った。それから――、
全身に戦慄が走り――凄まじい恐怖に顔を歪めた。
「……悪いな。"《D》の女たち"が、お前を『島流し』にしろってうるさいンだよ……お前
みたいな外道は、『この街に不要』なンだと……だからまぁ、海外行って、死ンでくれや」
―――――
11月10日――。
松葉杖を携えた宇津木とヒカルが、大ケガを負った岩渕誠の入院する名大病院の病室を訪
ねて来た。
「岩渕さん……ご無沙汰しています」
そう言って男女はペコリと頭を下げた。
ヒカルは今後、宇津木の経営する企業にOLとして就職するという報告を受けた。1週間
ほど前、宇津木と岩渕で協議した結果、《F》は名前と形を変え、長野県の福祉施設の経営
を始める予定だ。社員・従業員は元《F》の信徒たちをそのまま雇用するらしい。
資本金は宇津木が用意していた。そのことを宇津木に再確認すると、彼は『私の資産も、
これで打ち止めですよ』と言って笑った。
別に《F》全員の生活の面倒は見なくても良いのでは? とも思ったが、ヒカルのたって
の願いということもあり、結果――宇津木は全財産を《F》のために使った。かつて経営し
ていたファンド会社、資産運用の会社もすべて、自主廃業したらしい。
「本当に……何て、お礼を言ったらいいのか……」
ヒカルはそう言って、岩渕の座るベッドの前で再び深く頭を下げた。「あの時、澤社長を
止めて下さらなければ……私たちは、死んでいたかもしれません……」
岩渕は女の肩を抱き、頭を上げるよう促した。
「……見えないところで、社長も《D》のみんなも、《F》への暴力にはそれなりの手加減
をしていたみたいだし……宇津木さん、アンタと俺だけは別だけどな」
岩渕は軽く笑いながら、苦笑いをする宇津木の顔を見つめた。
「本当ですね」
「体調は? もう退院したんだろ?」
「おかげ様で……完治はまだまだ先ですが、会社の整理は終わりそうです。岩渕様とツカサ
様、澤様には……本当にご迷惑をおかけして……これからは、娘とふたり、一生懸命生きて
みたいと思います……」
宇津木の言葉にヒカルが嬉しそうに笑った。
岩渕はヒカルの手をしっかりと握り締める。彼女の体温で胸が熱くなる。彼女の隣では、
宇津木聖一が目を細めてふたりの握手を見つめていた。
「……結局、フィラーハ様、ていうのは、何だったんだ?」
岩渕がそう言い、宇津木が、「……日本の歴史上、この神の名が使われていた形跡は皆無
でした……おそらくは、権力者によって政治的に利用された密教のひとつ……利用されるだ
けされて捨てられた……そんなところでしょう……」と言ってヒカルのほうに顔を向ける。
「私は……母から娘への愛、死後も誰かを見守り続けたい、忘れないでいて欲しい、そんな
人々の願いの込められた教え、だと思います……いえ、信じたいです」
目を潤ませてヒカルが言う。「母は最期に、あなたが助けに来てくれることを教えてくれ
ました……岩渕さん、私は、あなたのことを忘れません」
岩渕は無言で首を振り、もう一度、ふたりと固い握手を交わした。
心の中で、『こっちは忘れちまいそうだがな』とふたりに言う。
そう。
澤社長の誕生日の件、宮間の俳句の優勝パーティの件、経団連の"噛む"レセプションパー
ティへの参加、新規オープンするハイブランド店への挨拶回り……。
……仕事と悩みが山積みだ。岩渕は思った。
ふたりを見送り、病室の窓の外を眺める
もし神様がいるとしたら……俺にとっては"女神様"になるのかな? 自分で考えておき
ながら、自分の考えが少しだけ恥ずかしくなり――岩渕は照れくさく微笑んだ。
窓からの秋風が、病室のカーテンを微かに揺らす……。
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最終回オススメはもちろん? sees大好き『女王蜂』様……。
女王蜂……。
4人組バンド。それぞれが性別年齢非公開w
ボーカルはアヴちゃん、こと薔薇園アヴ。ベースのやしちゃん。ドラムのルリちゃん。
ギターのひばりくん。
ボーカルのアヴちゃん中心のディスコ風ロックの曲調。それにしても……メインのアヴ
ちゃんの声域の広さ・声量の凄さは特筆。幅が広く、丁寧、そしてどこか物悲しい……。
歌詞は厨二的で切なく、セクシー、破滅的なものが多く、独特の世界観は腐女や腐男に
大うけ。海外でも全然イケると思うけどな……。
それにしてもアヴちゃんは美しい……あの狂気じみたヴィジュアルとパフォーマンス、
すぐに好きになりました。
SEESの短編集 05 『聖女のFと、姫君の… 2020.04.23 コメント(5)
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