ぎょう乃介雑記

ぎょう乃介雑記

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2006年09月08日
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カテゴリ: 古典日記



   「雲」


私は雲になりたいな。

ふわりふわりと青空の
果てから果をみんなみて、
夜はお月さんと鬼ごつこ。

それも飽きたら雨になり
雷さんを供につれ、
おうちの池へとびおりる。



「最後は雨になって、おうちの庭の池に戻ってくるんだ・・・やはりおうちが一番良いのかな。」・・・子供に詩を読んであげながら、色んな話ができそうです。


「雷さん」といえば、「万葉集」に、


    (東歌)

巻14 3421「伊香保嶺に雷な鳴りそね我が上には故はなけども子らによりてぞ」

訳「伊香保の山々に響くから、お願いだよ雷様、鳴らないでおくれ、おいらは平気だけど、好きなあの子が怖がるからさ」

自分がそばにいないので、「きっと怖がっているのだろうな」と、相手の心を思いやっている歌です。
「恋」とは、ほんの些細な事柄でも、ついつい相手の事につなげて色々思ってしまうものですね。


また、他には、


   (寄物陳思)

巻11 2658「天雲の八重雲隠り鳴る神の音のみにやも聞きわたりなむ」

訳「雨雲が厚く空を閉ざし、その雲のかなたで雷が鳴っている、その音のように姿は見えないけれど、せめてあの人の声だけでも聞きたいのに・・・」




ところで、「雲隠り」といえば、「挽歌」でも用いられる言葉ですが、


    天平七年、大伴坂上郎女、尼理願のみまかれるを悲しみ歎きて作る歌一首 并せて短歌

(長歌省略)

巻3 461「留めえぬ命にしあれば敷栲の家ゆは出でて雲隠りにき」

訳「留めておけない命であるから、住みなれた家を出て、命は雲の向こうに隠れてしまった。(亡くなってしまった)」




    弓削皇子の薨ぜし時に置始東人の歌一首

(長歌省略)

巻2 205「大君は神にしませば天雲の五百重が下に隠りたまひぬ」

訳「大君は神にあらせられるので、天雲の幾重にも折り重なった天上にお隠れになりました。(お亡くなりになりました)」


ばんか【挽歌・輓歌】
1 (「挽」は柩(ひつぎ)をひくの意)葬送のとき、柩を載せた車をひく者のうたう歌。
2 転じて、人の死をいたむ詩歌。哀悼の意を表す詩歌。
3 (挽歌)「万葉集」で、歌を内容から分類した名称の一つ。雑歌・相聞とともに三大部立の一つ。中国の詩、特に文選の挽歌詩の影響を受けたもの。この類には辞世や人の死、また伝説中の人物に関するものなどを含んでいる。


こう【薨】
諸侯、貴人の死にいう。わが国の律令制では親王または三位以上の死去にいう。薨去。薨逝。薨卒(こうしゅつ)。


「大君は・・・」にとても似た有名な歌があります。


    天皇の雷岳に御遊しし時柿本朝臣人麻呂の作る歌一首

巻3 235「大君は神にしませば天雲の雷の上に廬りせるかも」

右或本云獻忍壁皇子也 其歌曰 王 神座者 雲隠伊加土山尓 宮敷座

(右或る本に忍壁皇子に獻りしなりと云う その歌に曰く 
   大君は神にしませば雲隠る雷山に宮敷きいます)

訳「大君は神でいらっしゃるので、あの雲に隠れるように高くそびえている雷丘の上に、お泊りなさっていらっしゃることよ」

(或本には忍壁皇子に献上したとある その歌は

   大君は神でいらっしゃるので、雲の隠れるほどのそびえる雷山に御殿をお建てになって、住まわれています。

 とある)


いかずちのおか【雷丘】
奈良県高市郡明日香村雷にある丘。一説に甘檮岡(アマカシノオカ)のこととも。雷山。

この歌の「大君」が天武、持統どちらであるのか、難しいところですが、昔の歴史で習うには、
この頃からやっと天皇の権力基盤が整ったということです。
日本神話の大部分もこの頃完成したものかもしれません。
「大君」は「神」であるという物言いがそれを表しているようです。

現地、明日香の「雷丘」を仰ぎ見ると、「ええっ」となります。低い・・・。
とても天皇がお休みするような所には思えない・・・。
誰かが、「雷丘」のことを「御陵だよ!」などと物知り顔で冗談を言ったとしても、「なるほど!」と納得してしまいそうな大きさです。

自然の丘を御陵に見立てて歌った人麻呂の「挽歌」が、いつのまにか違って伝わり・・・なんて考えて見ると面白いかなぁ。

実は幻の、人麻呂作天武天皇挽歌だったりして。





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最終更新日  2006年09月08日 08時34分09秒
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