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ホワイトちゃんの日記(後編)
秘薬を一口飲んだその瞬間、ホワイトちゃんはかわいい小鳥になってしまいました。
「さぁ、今から中国に行ってちょうだい。そして沈香の小枝を1本採ってくるのよ。」
「ピィ」
「このまま日の沈む方向へ進むの。大丈夫、あとは風の精が道案内をしてくれるから…」
あたりまえながら、空を飛んだのは初めてでした。
とっても心地よく、地上が別世界に思えます。
ただ、ひたすら夕日をめざしました。
何かに、操られているかのように…
6日目
気付いた頃には、もう反対側の空が明るくなっていました。
大きなお屋敷の前に着くと、小さな可愛らしい女の子が立っていました。
その女の子が何かつぶやいたかと思ったとたん、ホワイトちゃんは人間の姿に戻っていました。
「お疲れ様でした。さぁ、中に入ってゆっくりお休み下さい。」
ホワイトちゃんはとっても疲れていたので、案内されたお部屋ですぐに眠りに落ちてしまいました。
どこからともなく、いいニオイが漂ってきました。
ハッと目を覚まし、辺りを見回すホワイトちゃん。
そうだわ…私、無事たどり着いたのだったわ…
しばらくボーッとしていると、ドアをノックする音が聞こえました。
「どうぞ。」
「おはようございます。よくお休みになられましたか?」
「ええ、ありがとう。今は何時頃かしら?」
「午後6時です。」
ホワイトちゃんは、約12時間も眠り続けていたのでした。
「さぁ、お召し替えのお手伝いをいたします。」
用意されていた綺麗なチャイナドレスに着替えると、今までのことがなんだか夢のよう。
「お隣のお部屋に、お食事のご用意ができています。どうぞこちらへ…」
「まぁ、なんておいしそうなのかしら!」
「たくさん召し上がってくださいね。」
こんなにおいしいお料理を食べたのは、生まれて初めてだわ…
食事を終え部屋でくつろいでいると、女の子がやってきました。
「これが沈香の小枝です。」
そうだわ、このために来たんだったわ…
「ありがとう。」
「それでは明日香さんがお待ちのようなので、ゆっくりしていただけなくて残念ですが、コレを一口お飲みください。」
こう言って差し出されたのは、例の紫の液体でした。
「短い間でしたが、お世話になりました…」
こうしてホワイトちゃんはまたもや小鳥になり、沈香の小枝を加えて飛び立って行きました。
7日目
「おかえり~!!」
ヘトヘトのホワイトちゃんを、明るく迎える明日香。
「ご苦労様~ そうそう、コレが欲しかったの♪」
「………。」
「あらあら、口もきけないくらいお疲れのようねぇ…。いいわ、部屋に戻って少し休んでちょうだい!」
6時間後…
「いつまで寝ているの!!」
ビックリして飛び起きるホワイトちゃん。
「さあ、今度はハワイへ行って“ナイト・ブルーミング・シリウス”という名の月下美人の花びらを、1枚採ってきてちょうだい!!」
「ハワイ!?」
「そうよ、これで最後だから、がんばって!」
最後!!この仕事が終わったら、きっとアズュラーン様にお会いできるんだわ…
「わかりました。行ってきます!!」
身体は疲れ果てていましたが、もうすぐアズュラーン様にお会いできるんだという気持ちだけを支えに、ホワイトちゃんは飛び立っていきました…
ホワイトちゃんは、フカフカのベッドの上で目覚めました。
朝というより、お昼と言った方が近い時刻です。
「おはようございます。」
横にいた小さな女の子が、声をかけてきました。
「お疲れ様でした。さぁ、南国のフルーツを召し上がれ。」
無事ハワイにたどり着いたホワイトちゃんでしたが、日付変更線を超えてきたので、まだ出発日と同じ日でした。
頭がなんだかボーッとしています。
「残念ですが、月下美人はまだ咲いていません。明晩あたり花が開くと思うので、それまでこちらでゆっくりお過ごし下さい。」
そう言った女の子の声は、風のように耳元を流れていきました。
そしてホワイトちゃんは、ここのフルーツはなんておいしいんだろう…と感じた後、またスヤスヤと眠ってしまいました。
8日目
ああ、なんて清々しい朝なんでしょう。
昨日ゆっくり休めたので、気分はスッキリです。
月下美人は夜にならないと咲かないので、それまで何もすることのないホワイトちゃん。
ちょっとヒマを持て余していると、女の子が声を掛けてきました。
「もしよろしければ、フラダンスを体験してみませんか?」
「ええっ!? 私踊ったことないわよ。」
「大丈夫です。やってみると、なかなか面白いですよ!!」
「そう? じゃあちょっとチャレンジしてみようかしら…」
「そうそう、その調子。 右手はもうちょっと前のほうがいいわ。」
「こ、こうかしら…」
「フラダンスって楽しいわね~」
「リズムに合わせて身体を動かすと、心が軽やかになりますよね。」
「教えてくれて、ありがとう。」
「いえいえ、お疲れ様でした。あとは夜が来るまで、海でも眺めてのんびりお過ごし下さい。」
夜の帳が下りる頃、月下美人はみごとな花を咲かせました。
「まぁ、なんて綺麗なのかしら…」
「お待たせしました。さぁ、一刻も早く明日香さんの元へ。」
「ありがとう、いろいろとお世話になりました…さようなら。」
「さようなら、お気を付けて!」
ホワイトちゃんは夜の空を飛び立って行きました。
9日目
「いよいよ、アズュラーン様にお会いできるのだわ…」
ホワイトちゃんは高鳴る気持ちを抑えながら、夜遅く館に戻ってきました。
が、前回明るく迎えてくれた明日香の姿が見あたりません。
「どうしたのかしら…」
明日香がいないので、ホワイトちゃんはまだ小鳥の姿のままです。
「あら、カワイイ小鳥ちゃん♪」
「ピィッ」
部屋の片隅で、真夜がヤマネコと遊んでいました。
「ヤマネコちゃん、可愛いエサが迷い込んできたわよ。さあ、お食べ!」
「ピィィィィッ!!」
「ふふっ、冗談よ。」
真夜は呪文を唱え、ホワイトちゃんを人間の姿に戻してくれました。
「はじめまして、真夜です。あなたがホワイトちゃんね!」
「は、はい。はじめまして。」
「脅かしてごめんなさい。あなたのことは、明日香さんから聞いているわ。明日香さんは、今ちょっと出かけているの。で、私がお留守番をしていたってワケ。」
「そうだったんですか…」
「もうすぐ帰ってくると思うから、ちょっとおしゃべりしましょう!ちょうど退屈だったのよ~」
「はい。」
「私はナナと同期なんだけど、古株の姉が二人いるの。だから明日香さんとは会う機会が多くて、いろいろ教えてくれるし気が合うから、よく遊びに来るの♪」
「そうなんですか…」
「一番上の姉は結婚して子供もいるし、二番目の姉はジミーっていうBFがいるの。で、私一人たいくつで…」
「でもココに来るといつもいろんな事件が起こるから、楽しいのよね~」
「事件!?」
「そう、事件よ!!この屋敷には謎が多いの。勝手に家具が動いていたり、誰も居ないはずの部屋から音が聞こえてきたり… あっ、もちろん誰も魔法なんて使っていないのによっ!」
ホワイトちゃんは、ちょっと怖くなりました。
ここで数日過ごしたと言っても、のんびりした日は一日もなく、常に疲れ切って休んでいたか、別の国に旅していたかで…
その時、地下室のほうから叫び声のような音が聞こえました。
ビクッとするホワイトちゃん。
「ほらね… ココには何かが潜んでいるのよ…」
「…」
「ねぇ、ちょっと地下室を見に行ってみましょうよ!!」
「えっ!?」
「こっちは二人なんだし大丈夫よ!」
「…」
10日目
時計はちょうど午前0時を指しています。
ホワイトちゃんは行きたくないのに、真夜に強引に腕を引っ張られて、地下室に行く階段を下りていきました。
「さぁ、扉を開いて!」
「えっ、私が?」
「そうよ、大丈夫!」
「で、でも…」
「じゃあ、二人で開けましょうよ!」
地下室の扉を開くと真っ暗で、全くなにも見えません。
すると突然、ホワイトちゃんは部屋の中に突き飛ばされました。
その後すぐに、ガチャンという音がしました。
ホワイトちゃんは何が何だかわかりません。
しばらくじっとしていると、周りの様子がうっすらと見えてきました。
どうやら牢屋に閉じ込められたようです。
鉄格子には鍵が掛かっていて、押しても引いてもビクともしません。
「ダメだわ、開かない…」
その時また、叫び声のような音が聞こえてきました。
ホワイトちゃんは怖くて怖くて、震えが止まりません。
「ど、どうしよう… ハッ、そういえば真夜さんはどうなったのかしら…」
コツ、コツ、コツ…
暗闇の中、階段を下りる靴音が聞こえてきました。
「だ、誰か来るわ…」
ホワイトちゃんは隅にしゃがんで、ドアのほうを見つめていました。
ギギィッ…
扉が開くと、そこには…ろうそくを持った明日香が立っていました。
「あ、明日香さんっ!!」
「大丈夫? 今灯りを点けるわね!」
部屋がパッと明るくなりました。
「さぁ、鍵を開けましょう。」
「一体、どうなっているの!?」
バツが悪そうに、部屋に入ってくる真夜の姿が見えました。
「ごめんなさいね…全部真夜の仕業だったの。ほら真夜、ちゃんと謝りなさい!」
「ごめんなさい。ヒマだったから、ちょっとからかってみたのよ…」
「えっ!? でも叫び声のような音が聞こえた時、二人で一緒にいたわ…」
「それはコレを使ったのよ。」
真夜はどこからか、小型のラジカセを持ってきました。
「まぁ、そうだったの… じゃあ、私を突き飛ばして閉じ込めたのも…」
「そう、私がやったの。」
「ひどいわっ!!」
ホワイトちゃんは、泣き出してしまいました。
「真夜ったら、悪ふざけしすぎたわね…」
「ご、ごめんなさい。」
「元気をだして、ホワイトちゃん!! アズュラーン様に会いにいくんでしょ!! これは私からのプレゼントよ!」
明日香は真っ赤なドレスを、ホワイトちゃんに渡しました。
「まぁ、とってもキレイ… どうもありがとう。」
「さぁ、着替えましょう!」
「ステキ~!! よく似合っているわ♪ さすが明日香さんが選んだだけあるヮ~」
「外は寒いから、コートを着て… あと、これはあなたが集めてくれた沈香と月下美人で作った香水よ。数滴、手首につけてごらんなさい。」
ちょっと手首につけただけなのに、何とも言えない甘くて良い香りが身体全体に漂っています。
「これで準備はバッチリね!!」
「アズュラーン様は今ドイツにいらっしゃるわ。」
「まぁ、ドイツですか!!」
「ええ、気を付けて行ってらっしゃい。」
「はい、いろいろどうもありがとうございました。では、行ってきます。」
ホワイトちゃんは、今ドイツに来ています。
「あ、きっとあのステキなお方がアズュラーン様だわ!!」
「ん?なんだか甘い香りが…」
アズュラーンはホワイトちゃんに気付きました。
そしてホワイトちゃんの瞳を見て、すべてを悟りました。
「遠くからよくぞ来られた。さあ、こちらへ…」
「はい。」
「まずはこの出会いを祝して、乾杯といこう!」
ホワイトちゃんは、とっても幸せでした。
まるで夢をみているような気分です。
ちょうど今日はクリスマス。
ホワイトちゃんはアズュラーンから、クリスマスプレゼントをもらいました。
「まぁ、なんてステキな腕時計なんでしょう!!」
でもホワイトちゃんは、アズュラーンにプレゼントを用意していませんでした。
「そうだわ!これからは私を、ずっとお側でお仕えさせて下さい。」
アズュラーンは、ただ微笑んでいました。
おわり
番外編もあるよ♪
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