☆ Sanctuary ☆  Smile for you

太郎と三羽のすずめ

おはなし宝石箱 太郎と三羽のすずめ
★ わんぱく少年、太郎
むかし、あるところに、ひとりの老人がいました。老人は、年老いて子供もなく、孫もなく、淋しく暮らしていました。その老人が住んでいた村はずれのお堂には、時折、村の子供たちが遊びに来ていました。子供たちの中でも、一番のわんぱく少年は、太郎です。太郎は、幼いときに両親を失って、今は姉夫婦のもとで育てられている13才の少年でした。

ある日、太郎がお堂に通じている石段のところで遊んでいると、スズメが三羽飛んできました。そして、太郎が腰掛けているすぐ横に舞い降りてきて、話を始めました。
★ 一羽目のスズメ
一羽目のスズメが言いました。
この世で一番素晴らしいものは、お天道様だ。 お天道様がいつも大空に輝いているからこそ、私たちは世界が色とりどりに見えるし、木々や草花はきれいに咲くことができる。

お天道様がかくれてしまったら、この世は闇だし、どんな生き物だって、生きていけないだろう。私たちスズメは、いつもお天道様に感謝しているから、ほかのスズメの命を奪ったりすることはない。ところが、お天道様がいつもニコニコ照らしているものだから、人間たちはいい気になって、したい放題だ。けんかはするし、悪口はいいあう。戦争などやっているバカもいるんだ。だから、そのうち、お天道様もいや気がさして、姿を隠してしまうかもしれないね」
★ 二羽目のスズメ
それを聞いていた二羽目のスズメが言いました。
「いや、 この世で一番素晴らしいものは、やはり水だよ。 水がなかったら、どんな生き物だって生きていけないじゃないか。草木だって、水がなければ、一週間もすれば枯れてしまう。水がなければ、麦や稲も実らず、僕たちは死んでしまうよ。動物だって、水がなければ、一週間と生きてゆけないはずさ。だから、この世でもっとも素晴らしいものは水だと思う。

僕たちスズメは、水に感謝しているから仲むつまじく生きているけれども、おろかな人間は、水などタダだと思っていて、宝石とかネックレスとかいうものを手に入れるために、汗水たらして働いている。

僕たちスズメは、生まれたまま、神様からいただいたままの姿で満足しているが、人間たちは、自分たちをどうやってよく見せるかで、頭を痛めている。人よりお金もうけをしたいだとか、人より美人になりたいとか、まったく滑稽だな」
★ 三羽目のスズメ
次に、三羽目のスズメが、話しました。
「確かに君たちの言うように、お天道様も、水も、素晴らしい。この世で一番価値あるものは、誰もがその存在をあたりまえだと考えていて、そのありがたさに気づかないものにあるようだ。みんなはその存在に気がつかないけれども、僕が思うには、 一番素晴らしいものは、やはり空気だ。

お天道様が隠れても、水がなくなっても、僕たちは、何日かは生きてゆける。しかし、空気がなくなったら、1分もたたないうちに死んでしまう。そう言われてみれば気がつくかもしれないけれども、空気のありがたさは、なかなかわかるものではないね。

でも、僕たちスズメは、大空を飛び回るとき、思いっきり胸いっぱい空気を吸い込んで、そのありがたさに感謝している。水中の魚だって、苦しくなってくると、水面に顔を出して、パクパク空気を吸い込んでは感謝をしている。それにひきかえ、人間とは、なんと傲慢なんだろう。飛行機で空を飛べるのは、自分たちの知恵のおかげだと思っている。そうじゃない。ちゃんと空気があるからこそ、飛行機も空を飛べるんだ。

空気は、僕たちが空を飛ぼうと、人間たちの飛行機が空を飛ぼうと、一文だって要求はしない。僕たちは、空気に感謝しているが、人間たちが空気に感謝しているのは見たことがない」
★ お堂の老人の言葉
太郎は、三羽のスズメたちの話を聞いて、たいそう悲しくなり、考え込んでしまいました。自分は、人間こそが、万物の霊長で一番偉いんだと教えられていたのに、三羽のスズメがいうような話は聞いたことがない。

自分は、太陽のありがたさも、水のありがたさも、空気のありがたさも感じたことはなかった。

そう思うと、太郎は、一気に石段をかけ登りました。その気配に、三羽のスズメはおどろいて飛び立ち、どこかに見えなくなってしまいました。太郎は、お堂に住んでいる老人を訪ねると、いま聞いたばかりのスズメの話をして、人間がこんなにも愚かならば、人間に生まれず、スズメに生まれたらよかった、と泣きながら、老人に訴えました。すると老人は、こう答えました。

「太郎よ、よく悟ったね。人間とは、一番素晴らしいものさえ見失っている愚かな生き物なんだよ。その愚かな生き物であっても、お互いに愛しあうということによって、その罪を許されているんだよ。
神様は、人間の罪を許すために、 という魔法の力をお与えになった。そして、愛があるから--その神秘の力で、人間は、万物の霊長であることを許されているんだよ」。



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