非常に適当な本と映画のページ

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2006.11.27
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カテゴリ: 邦書

 田中芳樹が大人気作家の地位を気付くきっかけとなった全十巻のスペースオペラの第七巻。


粗筋

自由惑星同盟の名将だったヤン・ウェンリーは、同盟首都惑星ハイネセンから脱出すると、独立を宣言したイゼルローン回廊の側にある惑星エル・ファシルに到着した。そこでヤン艦隊を再結成する。エル・ファシルの地位を高める為、ヤンは一時放棄したイゼルローン要塞を奪還する。
 イゼルローン奪回を喜んでいたところ、訃報が入る。同盟軍艦隊司令官ビュコック元帥の戦死である。
 一方、ラインハルトは、レンネンカンプ高等弁務官の死を理由に、同盟に侵攻する。前回の侵攻では同盟を属国にするだけに留め、併合はしなかったが、今回は同盟の完全併合を目的とした。
 これに対し、ヤンの元上司であったビュコック元帥が帝国軍を迎え撃つが、多勢に無勢の為肉薄され、完敗。ここでビュコックが戦死したのだ。
 ラインハルトは、帝国皇帝として初めて惑星ハイネセンに下りた。同盟の消滅を宣言し、同盟を併合する。
 参謀オーベルシュタインの部下ラングは、ラインハルト配下の名将ロイエンタールを快く思っていなかった。ロイエンタールに何らかの打撃を与える材料を探していたところ、見付かった。ロイエンタールは自宅に愛人を置いていたが、その女はラインハルト暗殺未遂・キルヒアイス殺害事件の罪を着せられて処刑された元国家宰相一族の一員だった。ラングは、旧敵の一族を匿っていると告発した。
 ラインハルトはこの件を無視できず、ロイエンタールの処分を決める。ロイエンタールを新領土となった旧同盟の総督に任命した。ロイエンタールは帝国の全艦隊の約半分を指揮下に置くことになる。
 ロイエンタールの件は、実は逃亡中の元フェザーン自治領主ルビンスキーが仕組んだものだった。ルビンスキーが帝国にくさびを入れようとしたのだ。ルビンスキーの愛人ドミニクは、ロイエンタールを権力の座から引きずり下ろせなかったどころか、昇格させてしまったのだから失敗したのでは、と言うが、ルビンスキーはそう思わない。新たな混乱の種を蒔いた、と満足した。


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解説

巻が進むに連れて盛り下がっている気がする。
 とにかく主人公のラインハルトが有利過ぎ。だから「ラインハルトはいかにこの危機を乗り切るのか?」というサスペンスがない。「どうせ配下の非常に優秀な部下に命じて解決させてしまうのだろう」と考えてしまうので、どんな展開になろうと驚きがないのである。
 圧倒的な兵力によって敵を粉砕する、というのは戦術上の常識である。少ない兵力で莫大な兵力を保有する敵に挑んで勝ってしまう、というのは現実では有り得ず、あったとして例外である。
 それは当たり前だが、「銀河英雄伝説」は歴史書ではなく(著者はそのように見せかけてはいるが)、あくまでも小説なのだから、現実では有り得ない小説らしい展開がなければつまらない。
「強い者が強力な、圧倒的な兵力を使って弱い者を叩きのめしました」
 なんてのをひたすら書くことのどこが面白いのか。
 そもそも、なぜラインハルトは最初の侵攻で同盟を併合しておかなかったのか。できない訳ではなかった筈で、まるで侵攻を二度できるよう自分の為にお膳立てしたようである。戦争馬鹿の本人は戦闘がまたできて嬉しいのかも知れないが、前線で死ぬ兵にとっては迷惑に他ならない。
 同盟軍首脳は、国家元首を処刑し、全面降伏するが、ラインハルトはこれを聞いて激怒する。味方を裏切って敵に寛大な処分を求めるとは何事かと。同盟軍首脳は、ラインハルトの命令によって処刑されてしまう。
 また、ラインハルトは密告もお気に召さないようで、密告者に対し密告された者以上に重い罰を処している。
 裏切りや裏工作がとにかく嫌いらしい。
 にも拘わらず裏工作で貴族連合を倒しているし(貴族連合による核攻撃を知りながらも無視し、政治的に利用)、裏工作で同盟への侵攻の理由を作っているし(幼帝の誘拐計画を知りながらも無視し、政治的に利用)、そして裏工作で同盟を再侵攻する理由を作っている(ヤンに反感を持つ者を同盟国の高等弁務官に任じ、ヤンを刺激させ、混乱を引き起こさせた)。
 ラインハルトは他人が裏工作をするのを禁じながら、自分は裏工作を積極的に利用している。他人に厳しく自分に甘い。
「強い」ラインハルトが期待外れになっているなら、「弱い」ヤンはどうかというと、これもますます馬鹿馬鹿しくなっていく。言動もますます意味不明。こちらもどうでもよくなっている。
 ヤンはイゼルローン要塞を奪還するが、その方法はというと、次の通り:
 ヤンは、数ヶ月前にイゼルローン要塞を放棄する際、要塞の管理コンピュータにあるプログラムを組み込んでいた。パスワードを受信するとコンピュータシステムが制御不能になるように、と。奪還する際、ヤンはこのパスワードを送信した。受信した要塞は、制御不能になり、ヤンに属する特殊部隊の侵入を許してしまう。
 しかし、これはおかしい。イゼルローンをヤンから奪ったのはロイエンタールだが、彼はヤンが何か仕掛けやしなかっただろうか、ときちんとチェックしなかったのか。ヤンならその程度はやりそうだと。時限爆弾を見付けたくらいで満足してしまうのはおかしい。ロイエンタールは要塞管理用コンピュータのプログラムを更新すべきだと考えなかったのか。この程度の幼稚なトリックに引っかかる奴が「帝国の双璧」を成しているとは驚きである。
 ロイエンタールは戦場でしか才能を発揮できないらしい。それ以外は女を引っかけるくらいしかできない。
「フェザーンの黒狐」ことルビンスキーも期待外れ。地下に脱出してから、何か凄いことをやらかすと思っていたら、ただ地下にこもってけち臭い工作を繰り広げるだけ。こんな奴がフェザーンを牛耳っていたとは信じられないし、地球教を手玉に取れると思っていたことも信じられない(地球教も大したことないが)。
 登場人物も多過ぎ。区別できない。著者は「芸術家提督」だの、「沈黙提督」だの、「考古学者提督」などを乱発して差別化を図っているが、単に登場人物に一発芸を持たせてやっているだけで、現実性に乏しく、馬鹿馬鹿しさに拍車をかけている。
「芸術家」の提督や、「沈黙」を守る提督や、「考古学」の提督は、個性的といえば個性的だが、こんなことしなければ差別化できないなら登場させないか、割り切って無個性な人物にした方がよりリアルになると思うが。戦略・戦術面ではどれも現実主義を貫いているのだから。



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Last updated  2018.05.03 17:11:11
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